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第四話 昼、戦闘は起こった

「こちらアウルム1、各機応答せよ」

ブリッジまでの搬送ルートで万一に備え警戒に当たっていたショーン、マルク、ジョナサンが反応した。

「護送対象はアウルム3の機体に積んだ、これより上昇し、一般市民の目に付かないルートを通って北アメリカ大陸行きブリッジまで向かう、各機、臨機応変に対応してくれ、合流は11:00を予定する、以上だ」

「了解!」

クァプファーとGE-J7の二機はリフトを昇り、一般人は立ち入り禁止のプレート内骨格通路をブリッジに向けて走行していた。

クルスは地下施設の光景を見てから抱えていた違和感、任務の不自然な点、一つの結論には至った。だが未だ仮説。フレイジェにこの個人的な意見を聞いてもらおうかと思った矢先、全員に同時発信で音声が送られてくる。

「こちらアウルム2!!正体不明PAFの襲撃だ!!数は五機、現在プレート第二層内駐車場で戦闘中、・・・ぐわあぁ!!!」

声と共にノイズと爆音、発砲音なども伝わってきた。事態を即座に判断したフレイジェは全機に臨戦を許可する。

「この厳戒態勢でなにかトラブルが起こるようなことがあれば、天に見放されたのだろうと思え・・・とでも言おうと思ったが・・・まさかな!」

そしてグリップを強く握り締め直し、クァプファーの速度を一気に上げると立体構造のプレート内をすり抜け、アウルム2ショーンの援護に向かった。

「アウルム3、最悪単機でも構わん、第四島から脱出しろ!!アウルム4は俺と援護に向かえ!アウルム5、一時上空から他の正体不明機がいないかを確認しろ!!」

「了解!!」

クルスはフレイジェと別れ、指示通り最寄のブリッジまで機体を急がせる。

《クロコ》の内装通路は様々な機器類と配管に狭められ、出来るだけ速度を落とさずにすり抜けようとはするが機体の反応速度の遅さに苛立ちが生まれる。それでもなんとか持ち前の操縦技術で補った。

だがアウルム小隊の思惑通りには行かなくなる。細く暗い路地の正面にセンサーの光が見える、それはPAFのもの。正体不明の機体がクルスの目の前にも現れたのだ。

全機に発信し、現状報告を慌てて行う。

「こちらアウルム3、現在第一層下部、通称クロコ内、正体不明機を確認!!・・・通信が使えない!?」

ノイズが発生し、ジャミングによるものだとすぐに分かった、そして正体不明機は右腕に携えた単発型の銃をこちらに向ける。

クルスの判断は至って冷静だった、GE-J7をわざと相手に突撃させ姿勢を低くする、そこで敵は発砲したが腕部で床を押し、その反動で跳躍。相手の予想軌道から反れて射撃を回避する。狭い空間では相手も身動きがとれず、勢いのついたGE-J7の当て身を諸に受ける形となった。

『何!?』

とてつもない衝撃が両機体を襲う中、敵パイロットの音声通信が聞こえた気がした。その瞬間GE-J7の背部に搭載されている護送対象に正体不明機の腕部が迫り、接続ユニットに直撃してしまう。

「しまった!?・・・こちらの当身を利用して反撃を!?」

棺のような物体ははGE-J7から離れ狭い通路の僅かな隙間から落下、数メートル下の連絡橋に直撃した。その衝撃か、はたまた別の理由か、箱中央のスリットに沿って観音開きのようにパネルが展開し―――


アウルム2の救援に向かうべく、フレイジェもまた狭い通路を走行していた。プレート内骨格の中央付近、一般市民の居住区の真下ではドーム状に形成されたその空間に出ると、広めに作られたそこでは正体不明機が三機、待ち構えていたようにも見える。薄暗いが照明は点灯し、複数の直線的な構造物が確認できたがどれも脆そうだった。

お互いを敵性勢力だと判断した瞬間、クァプファーは全武装をスタンバイさせ、左右に高速移動しながら射撃を開始するする。先制攻撃を受けた三機は分散し、クァプファーを取り囲もうとするが速力的には難しいようだった。

対象を追尾する誘導兵器は正体不明機の内、一機を捉えたかに思ったが敵は連射の利くマシンガンを発射し、空中で狙い撃ち、爆破させる。実弾の迎撃は相当な技量が必要なことから、周辺への被害を考慮し、手加減ある戦闘で勝てる相手ではないと告げる直感にフレイジェは舌打ちをした。


正体不明機の肩や胸部に刻まれた紋章、中世の町並みによく見られるアーチの石橋、それを背景に一本の弓が描かれたマーク。見たことはある。

《アルクス》

弓の形をした象形文字やマークを旗に掲げ、全世界に存在する友愛団体。古くに生まれ、その発端は教会に仕えた騎士だという。人類の歴史を影から操るほどの影響力を持ち、歴史の教科書で習う人物はアルクスに加盟している者もいたらしい。

ニホンに住んでいた頃は都市伝説として、よく採り上げられていたが実在したのは驚きだった。

その目的や活動内容は一切不明とされてきたが、なんとなく理解できた気がした。

クルスは先ほど交戦したアルクスの機体を行動不能まで追い込み、落下した護送対象を回収するため移動していた。だがそのルート上にも敵は現れる。

保護対象まであと少しというところで足を止めた場所は、無数のケーブルと鉄骨が密林のように入り組んだ不気味な部屋だった。その中に敵三機。立体的に交わる柱を次々と蹴り、時には左腕部で掴み、右腕に装備したアサルトライフルを待ち構えていた敵機に撃ち込む。

床に這わせてあるケーブルを何本も切りながら敵は回避運動に転じ、下手な一機は鉄柱に激突した。その隙を逃さず、クルスはGE-J7をその上に落下させ、撃破する。

残りの一機は別の通路から離脱、もう一機は真正面から襲い掛かって来る。離脱した機体が援軍を連れて来ないことを祈りつつ。クルスは目の前まで迫った敵機に近接格闘を仕掛けた。


奇跡か、偶然か、運命か、連絡橋に落下し、地上への直撃は免れた棺を思わせる箱は蓋状の部分が開き、中に充満していた冷気が外に漏れ出す。その白い煙がほぼ風で飛ばされたとき、中に眠る一人の少女は目を覚ました。

丈の短い患者衣を彷彿させる上着だけを羽織り、白い素肌を露出させるその少女はゆっくりと、細い体を重そうに起き上がらせ、自分の両腕にはめられている金属製のリングを外した、同じものが両足首にも取り付けられており、それにも手を伸ばす。

全てで四つの金属のリングが体から外され、右に持って横に腕を伸ばし手を離した。輪は連絡橋の上に落ちて甲高い金属の落下音が響き、転がる。少女は左手を胸元にも挿し込みその小さな手の上にも十分乗る程の大きさで、ペースメーカーのような形をした機器を襟元から取り出した。そしてそれも捨てる。両手を棺の底について膝を曲げ、立ち上がり這い出てそのまま一歩、また一歩と歩いていくうちに勢いは増し、体が軽くなるような感覚に陥ったのか、走り出していた。だが焦りの表情も濃くなり、息も上がる。連絡橋の端まで辿り着いた少女は壁に寄りかかり、乱れた息を吐きながら一言「神様、どうか彼を御守りください」と呟いた。


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