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電人と博士の関係  作者: 鮎太郎
第二章 電人、学校へ行く
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転校生

 県立中山田高等学校、二年二組。つい先日、同級生を失い、悲しみに暮れていた教室に、新たな転入生の話が舞い込んできた。三十人程度のクラスの席は殆ど埋まっており、転入生用の机が一つ、花瓶の置かれた机が一つ、計二つの席が空いている。

 教壇の上に立つ男性教諭が、クラス全体に向けて話しかける。


「今日は、新しいクラスメイトが転入してくる。ちょっとした事情があって、転入してくる生徒は普通の生徒じゃない。何と、アンドロイドだそうだ」


 男性教諭の言葉に、教室の中は異様にざわめく。その中でも、一際大きな声を出して喜ぶ男子生徒がいた。


「きたっ! 美少女アンドロイドきたっ! これで勝てる! ドジッ娘で、『はわわ』とか言っちゃうアンドロイドきたー! 当然、オレの下の名前をさん付けで呼ぶに決まってる! なんてアニメ的な展開! オレの時代がきたんじゃねーの?」


 一人突出したテンションで叫んでいるのは海原 公武。波佐間 三郎田とは友人関係だった。三郎田、巳漢と共に常につるんでおり、何をするにしても一緒だった。

 しかし、三郎田の死後、巳漢ともつるむ事は少なくなり、おとなしくなっていた。今日のようなテンションは久しぶりのものである。


「ははは、うるさいぞ、海原。それでは転入生の入場だ」


 男性教諭の言葉に合わせて、二年二組の扉がゆっくりと開かれる。

 そして、その扉から現れたのは全身が銀色の金属製で、顔はモノアイカメラを保護するゴーグル型の偏光グラスと、両側に飛行機の翼のようなアンテナが付いているロボットだった。

 教室という日常空間では、その非日常は明らかに噛み合っていない。この日本に全身銀色のロボットが似合う場所など、ありはしないという程の異質な存在だった。


「がっかりだー!」


 公武は扉から入ってきたアンドロイドを見るなり、大声で奇声のような叫び声を上げていた。

 心なしか、クラス全体からがっかりしたようなため息が漏れる。生徒達から向けられる視線も「うわぁ、何か変なのが来ちゃった」という奇異なものだった。


「それはない。それはないな。もっと空気読もーよ。誰もそんな姿を期待していない。よりにもよって、どっかのやられ役の量産機みたいな面しやがって! この裏切りを例えるなら、第一話の作画が美しく続きを期待していたら、二話以降の作画があまりにも酷いアニメ程の裏切りじゃねーの? この行き場のない憤りをどうしてくれる!」


 三郎田は友人の元気な姿を見れて、嬉しさを感じる反面、あまりの煩わしさに痛くならないはずの頭が痛くなってきた。

 三郎田は自分の体が、今のロボット然とした体で心底よかったと思った。

 もし、公武が言うような美少女アンドロイドだったら、どんな事をされるか考えるだけでも背筋が凍る。


「ま、まぁ、落ち着け、海原。それでは、自己紹介をしてもらってもいいかな?」


 男性教諭が三郎田に自己紹介を勧めてくる。


「分かりました、俺は電人サブロウタといいます。これから、よろしくお願いします」


 自分でもちょっと白々しすぎる自己紹介かと思ったが、今まで一緒に過ごしてきたクラスメイトにどんな対応をするべきなのか、決めかねていた。

 電人としてあまり関わることなく生活するのか、三郎田としてどっぷりこのクラスになじむのかまだわからなかった。


「がっかりだ! 心底がっかりだ! どうしてそんな美味しい姿をしているのに、流暢な日本語使いこなすのか! まるで、作画はいいのに、ストーリーがつまらないアニメを見ているかのようなガッカリ感じゃねーの? お前には失望した。こういうときはロボットらしく『ワタシノナマエハデンジンサブロウタデス』ぐらいの片言で喋るべきだろ!」


 公武はアニメの見すぎだなのだろう。三郎田はわざわざ片言の日本語を使うとか、馬鹿げているとしか思えなかった。

 公武の発言により、クラス全体からクスクスと笑い声が聞こえ始めた。いつも通りの様子に三郎田は元の場所に帰ってきたのだと実感してしまう。


「まぁ落ち着け、海原。それじゃあ、電人君にはあの空いた席に座ってもらおう」


 男性教諭が指差す先には誰も座っていない机があった。その机から少し視線を逸らすと、花瓶が置いてある机が目に入る。それは、今まで三郎田が座っていた席だった。こうした風景を見ると、本当に自分は死んだのだと嫌でも実感させられる。

 亡くなったクラスメイトの席に置かれた花瓶なんて、ニュースやドラマでしか見たことはなかったが、こうして目の当たりにすると、ショックが大きかった。

 三郎田は男性教諭が指定した席にゆっくりと歩いていく。静かな教室に各関節から発せられるモーター音が響いた。

 自分の新たな席に座ると、本当に別の存在になったのだと、思い知らされた。教室のどこかから向けられる、冷たい視線が三郎田を射抜いていく。

 今までとは違い、とても居心地が悪い。これからもこんな視線にさらされるかと思うと、少し気が重い。


「がっかりするのは早いぞ、お前達。連絡は終わっていないからな」


 男性教諭は咳払いをすると、自分の佇まいを直す。

 男性教諭の言葉に、教室全体から再び期待が集まってくる。三郎田にとっては、これ以上何が起こるのかわからず、ただ状況に流されるだけだった。


「電人がこのクラスに所属する事になって、そのサポートをする為にAMT社から臨時講師がやってくることになった。どうぞ、入ってください」


 男性教諭の紹介を聞いてクラス全員の視線が教室の扉に集まる。

 扉から入って来たのは、腰にとどくほどの長い黒髪に、白衣を羽織り、その下には白いブラウスを着て、黒いミニスカートを履いた女性だった。

 三郎田はどこかで見たことがあると、思ったが、先程の男性教諭の言葉から想像できる人物は一人しかいなかった。


「はい、どうもー。今日からこの二年二組でお世話になる山野 柘榴でーす。まぁ、副担任だから実際には何か教えることはないと思うけどねぇ。主に電人のデータ取得と、サポートが仕事だけど、恋愛相談から悩みの相談も受け付けているわよぉ。気軽に、柘榴先生と呼んでねぇ。これから、よろしくねぇ」


 いつも通り、キャンディーを咥えたまま、自己紹介する。相変わらず、綺麗で胸まで大きい。きっと、恋愛相談などは山ほど来るに違いない。それにしても、恋愛相談から悩みの相談って、微妙に範囲が狭いのではないだろうか。

 その容姿ゆえ、クラスの興味は三郎田など眼中にないほど集まっていく。若くて綺麗な女教師にクラス全体の興奮は高まる一方だった。


「柘榴ちゃーん!」


 公武が興奮を抑えきれずに叫び始めたのを皮切りに、クラス全体が妙な熱気に包まれ始める。


「「「柘榴ちゃーん!」」」


 クラス全体からの柘榴ちゃんコール。うちのクラスはこんなにノリがよかったのかと、三郎田は驚いた。


「柘榴ちゃんもいいが、ここは学校だからな、柘榴先生と呼ぶんだぞ」


「「「柘榴せんせーい!」」」


 柘榴ものりのりで、応える。柘榴とクラス全体のノリについて行けずに、たじろぐ三郎田。柘榴の登場で、三郎田の転入は遙か彼方に霞んでしまった。


「こら、お前達、嬉しいのは分かるが柘榴先生が困ってらっしゃるだろ。おとなしくしろ。すみません、柘榴先生。先生ほど若くて綺麗な教師がこの学校にはいない為に、生徒達が興奮しているようです。それと、これ私の携帯の番号です。後でかけて下さい」


 男性教諭も舞い上がっているのか、生徒の前で堂々と自分の携帯の番号が書かれた紙を柘榴に手渡す。柘榴は表情を変えずにその紙を細かく破ると、白衣のポケットの中に突っ込んだ。一切の躊躇も見られない手際に、担任教諭が少し可哀想に見える。

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