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電人と博士の関係  作者: 鮎太郎
第一章 誕生! 電人サブロウタ
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その名も電人サブロウタ

 翌日、目を覚まして最初に自分の体を確認する。昨日の出来事は全部夢だったというオチを期待していた。だが、体を動かすたびに唸るモーター音。金属製の硬い体が、昨日の出来事を現実だと突きつけてくる。


 ふと、ある考えが頭をよぎる。こんな体になってまで、生きている価値はあるのだろうか。家にも帰れない。学校にも行けない。友人もいない。未来も無い。自分には何も無い。そう思うと、その考えがなかなか頭から離れなかった。

 そんな考えを振り払うために、首を振る。その時、研究室のドアが盛大に開かれる。


「おっはよー! 三郎田君。昨日はよく眠れた?」


 昨日と同じ格好の柘榴は、徹夜でもしていたのか妙に高いテンションで現れた。

 その何も考えてなさそうな行動に、今まで色々考えていた自分が馬鹿のような気がしてきた。今はただ生きる事以外は考える必要は無い。生きるために行動するのだ。


「おはようございます。なんか、寝るって感じより気を失ってたって感じに近いです」


「そっかー、電源落ちちゃうもんねー。気を失うってのは正しい感覚のような気がするわねぇ」


 部屋に入ってくるなり、柘榴は机を漁り、一口サイズの飴に棒が刺さったデザインのキャンディーを取り出すと、おもむろに口の中に放り込む。


「何食べてるんですか?」


「ストロベリー味。頭脳労働には甘い物が良いって言うじゃない。三郎田君も食べる?」


 もう一つキャンディーを取り出すと、三郎田に突きつける。そんなものを食べていると太りますよと、言いたかったが後が恐いので黙っておく事にした。


「食べられるわけないじゃないですか。口ないんですよ?」


 その言葉に柘榴は哀れな視線を向ける。


「そうだよねぇ。じゃあ、キャンディーの味が分かる機能でもつけちゃおうか?」


 真剣なのかふざけているだけなのか、本気で分からない。まず、そんな考えに行き着く、柘榴の思考が理解できない。


「いりませんよ、そんなもの。それより、早く能力データ測定をしましょうよ。それをやらないといけないんでしょ」


 機械の体。どこかの漫画の主人公が求めていた物を手に入れてしまった。その能力に結構興味がある。もう、人間として生きていけないなら、前向きに生きていったほうが楽な気がした。


「そうね。それじゃ、早速……」


 柘榴が説明を始めてすぐ、研究室の扉が勢いよく開かれる。二人の視線が、扉に集中する。そこには、カーキ色のスーツを着た男性がいた。

 男性は髪を茶色に染めて、若者のように髪を少し乱している。それとは対照的に、着ているスーツはきちんとしており、皺の一つも見当たらない。履いている黒い革靴もしっかりと磨かれており、光沢を帯びている。いかにも社会人といった出で立ちであった。

 とても、柘榴と同じ研究者のようには見えない。


「しゃ、社長!」


 柘榴の少し上ずったような驚いた声に、三郎田はまさかと思う。どう見ても、二十代にしか見えない。こんな若い人が日本でも五本の指に入るほどの大企業の社長とは考えられなかった。


「やー、柘榴君。元気?」


 社長と呼ばれた男性は軽い調子で、手を上げて挨拶する。それに対して、柘榴はガチガチに緊張していた。


「はい。しかし、社長がこんな支部にどうして……」


「いやー、電人が動いたって話を聞いてさ、一目見たくて寄ったの。これがその電人?」


 社長は三郎田に近づくと、じろじろと見つめてくる。見つめられて初めて分かった。外見こそ、二十代だがこの目には眼力がある。ちょっとやそっとで身につくようなものではない。全てを見通すような恐ろしい瞳だ。


「あれ? 動かないよ?」


 固まっていた三郎田ははっとして、動いてみせる。


「どうも、初めまして」


「おおー。喋ったよこの電人。凄いねー、名前はなんていうの?」


 名前を聞かれて、柘榴は少し困った顔をする。まだ、名前を決めていなかったらしい。


「えーとですねぇ……。三郎田、そう、電人サブロウタです」


 社長はへぇと言うと、三郎田をじろじろと眺め続ける。


「君は変わっているな。事故にあった人の名前を使うなんて勇気あるよ。ところで、サブロウタは三男なのかな?」


 なんだか訳の分からない質問をされた。


「いいえ、長男ですけど……」


「そうかそうか。名前をつけた親はよっぽどひねくれてるんだねぇ」


 これはどちらの事を言っているのだろうか。三郎田の両親のことか、それとも、柘榴のことか。どちらにしても、三郎田はこの社長に良い感情を抱けなかった。


「うーん。良い体してるね。どこのジムで鍛えたの?」


 社長はペタペタと、三郎田の金属の体を触る。社長の言葉は全てが、相手を馬鹿にしているようで、何となく気に入らない。


「別に作られた物なので、鍛えてなんかないですよ」


「そうかそうか、そいつはうっかりしていた。おや、もうこんな時間か。来た早々で悪いが、次の仕事があるので、これで失礼するよ。柘榴君、そして、三郎田君」


 社長は笑いながら研究室を後にする。

 一体何が起こったのか理解できないまま、嵐のような時間は過ぎ去っていった。


「何だったのかしら、アレ?」


「俺に聞くなよ……」


 その後、柘榴からデータ測定の説明を受けて、データ測定を行った。

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