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電人と博士の関係  作者: 鮎太郎
プロローグ
2/47

三郎田の死

 十月の初旬。少し肌寒くなってきたが、制服が冬服になったばかりで、まだ十分暖かいと感じられた。日は完全に落ちて、空は暗闇に覆われ、月と星だけが瞬いている。

 三人揃って暗い道路を歩いていた。それでも、昔と比べると街灯が増えて、明るくなってきた方である。三人は途中まで帰り道が同じなので、同じ道を行った。


「公武はいつも遅くに帰ってるけど、親に文句を言われないの? 僕は随分と文句を言われるんだよ。こんな時間まで何をしていたーとかね」


 巳漢の言葉をつまらなさそうに公武は聞いていた。


「オレは別に何も言われねぇーの」


「俺も特に何も言われないな」


 三郎田の両親は三郎田に対して基本的に、無関心だった。でも、あまり遅くなると、ネットゲーム仲間に色々言われるので基本的には早く帰るように心がけている。


「そうなんだ、みんなが羨ましいな。どうも家の両親は心配性なんだよ」


 三郎田と公武は何となく、両親の気持ちが分かるような気がする。巳漢ほどの容姿なら、いつ逆ナンされて、どこかに引きずり込まれるか分かったものではない。


「あーあ、今日は家に帰って録画したアニメでも見るかな。普段は土日にまとめて見るんだけどな」


 公武はアニメに関してはちょっとのめり込み過ぎている節がある。新作アニメがあると、必ず見るようにしている猛者だ。リアルタイムで見れない場合は、必ず録画をして逃す事はない。そして、気に入った番組があれば、DVDまたはBDを購入している。彼にアニメを語らせると、ゆうに二時間は語るのを止めない。それ程、のめり込んでいるのだ。三郎田も昔は見ていたが、最近はめっきり見なくなった。


「アニメって、そんなにやってるのか? 最近はあまりやってる所を見かけないけど」


「そうだね、僕もあまり見かけないなぁ」


「ああ、深夜アニメは大体四、五本はやってるし、夕方六時から八時の間もやってるな。合計すれば、一日に十本近くのアニメが放送されてんじゃねーか。これを消化するのに土日ほとんど使うのが、難点なんだよなぁ」


 アニメ一本三十分とすると、毎日五時間近くのアニメが溜まっている事になる。土日は寝てないんじゃないかと心配になった。


「ははは、公武は本当にアニメが好きだね」


「当然だな。オレにとって最も優先すべきはアニメだからな。そうだ、よければお前らにDVD貸してやるぞ」


 鼻息を荒くして、アニメDVDを勧めてくる公武に対して、三郎田と巳漢は顔が引きつっている。


「いや、遠慮しとく」


「僕も……」


「そうか、見たくなったらいつでも言え、大抵のものは揃ってっからよ」


 公武のお世話になることはないだろうと、三郎田は思う。それでも、それだけ買うお金がある公武が、かなり羨ましかった。

 そんな他愛もない話をしているうちに、公武と巳漢と分かれる道まで来てしまった。


「じゃーな、三郎田。また明日会おうぜ」


「ばいばい、三郎田。また明日」


「うん、お前らも気をつけて帰れよ」


 挨拶を交わして、三郎田は二人と別れた。


 帰り道の途中、三郎田は考えていた。結構な回数、公武と巳漢と一緒にゲームをしたが、なんとなく満たされない。やっぱり、もっと相手が強くないと、満足が出来なかった。

 以前、公武をネットゲームに誘ったが、実機じゃないとテンションが上がらないという理由で、断られてしまった。

 今日もいるかわからないが、『Moon』との対戦が一番盛り上がる。家に帰ったら、ネットゲームでもやってこの欲求不満を解消しよう。

 そう決めると、自然と、家に帰る歩みが速くなる。


 いつもと変わらない道、この辺りは開発が進んでおり、完全に日が沈んだというのに、街灯のおかげで明るい。

 その割に、道を行く人、道路を走る自動車は殆どなく、少し不気味な感じがする。この辺りの開発が進んだのはつい最近の事であった。

 ここからでも見える大きなビル、Advanced Medical Technology社、通称、AMT社の研究所が出来たおかげだった。何でも、最先端の医療技術を扱う会社で、サイボーグ技術まで開発しているらしい。それらの話は人から聞いた話で、三郎田自身には縁のない大会社だった。

 開発が進んでいるといっても、これから増えるだろう人口のために、交通インフラが整えられたに過ぎない。この中山田市の人口は未だに四万人弱という市ぎりぎりの人口しかいなかった。


 アパートやマンションも建設されているが、入居者がまだいないのが現状である。

 そのため、交通量が少なく、信号のついていない交差点が多く存在した。信号のない交差点に差し掛かった三郎田は、いつものように自動車を警戒する事もなく横断歩道を歩いていく。

 すると、斜め前から強烈なライトの光が三郎田の目を眩ませる。何が起こったのかまるで理解できずに、その歩みを止めてしまった。ここで、横断歩道を渡ることに専念すれば、悲劇は起こらなかっただろう。


 光の正体はトラックのライトだった。左折してきたトラックは、三郎田が横断歩道にいることに気付くことなく進む。

 三郎田がトラックに気が付いたときにはもう遅い。回避する事も出来ず、トラックのタイヤに巻き込まれてしまった。

 三郎田はメキャァという自分の骨が砕ける音を聞きながら、意識が暗闇に飲み込まれていくのを感じるしかなかった。

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