ZERO--FILE7
「わ、わ・・・!ちょ、危ないですよ!」
ユイとトキワに抱えられたレオが、何度も声をかける。
だが、彼を抱えている二人の耳には届いていないようだ。
仕方なく、されるがままにしていたところ、ラボの扉より一回り大きな扉の前で、レオはようやく解放された。
「悪ぃな、荒っぽくてよ」
「・・・・・・悪い」
あっけらかんとして言うトキワと、謝る気があるのかないのか分からないユイに、レオはふぅ、とため息をついた。
世界が違いすぎるのだ。
自分が居た場所と、目の前の二人が居る場所は。
レオの心にずきり、と痛みが走る。
「ここが、一番いいトコだ!T・F。トレーニング・フィールド!」
明るいトキワの声に、ヴン、と扉が開いた。
「行くぞ」
レオの左手首をユイが掴んだ。
「あ、はい!」
背後で扉が閉まる。
「わぁ・・・」
目の前に広がるのは、広すぎると言っていいほどのスペース。
砂地のフィールド、トラッシュが配置されているフィールド、芝生のフィールド、アスファルトのフィールド、タイルのフィールド・・・。
ありとあらゆるパターンのフィールドが設置されている横には、射撃訓練場があるようだ。
「やってるやってる」
フィールドで蹴りやらパンチやらを繰り出している若者たちは、目隠しのようなもので顔の上半分を覆っている。だが、若者たちが蹴りを放っている方向には、何もない。空を切る音がするだけだ。
「・・・・・?」
射撃訓練場にいる若者たちも、同じものを頭に固定している。
きょろきょろと不思議そうに辺りを見回すレオに、ユイから彼らが装着しているものと同じものを手渡された。
「これがないと、意味ないんだよ」
笑ってトキワがそれを装着した。
「すぐ慣れる」
ユイも同じようにそれを装着し、レオにも装着した。
「!!!」
顔の上半分を覆われた瞬間、一番近くにあった芝生のフィールドに、鉄パイプやらナイフやらの武器を持ったストリートたちが現れた。
「え!?」
おろおろとするレオを尻目に、ユイとトキワがフィールドに入り、あっという間にストリートたちをのした。
『パーフェクト』
「!!」
耳の近くにあったイヤホンから、機械的な声がユイたちの行動を評価した。
「いやいや、楽勝楽勝!」
スイ、と覆っていた部分をトキワが上にあげ、ユイも同じようにする。
「・・・これがないと、ここでの訓練は意味がない」
ユイに覆いを上にあげられた。ストリートたちの姿がない。
「ホログラムなんだよ。まぁリアルなホログラムだけどな」
片目を瞑って、トキワが笑いかける。
「・・・この3Dシステムが、ここでの訓練の一切を担う」
ユイの言葉に、レオはようやく理解できた。
「まぁ・・・相手がいれば、コンビ同士でバトルも出来る」
トラッシュ・フィールドにいた二人のコンビを顎で指し示し、トキワが付け加えた。
「実戦・・・ですか?」
びくびくしながら問いかけるレオに、ユイがこくりと頷いた。
「ここにいる連中は、今度のテストをクリアするために訓練してるんだと思うぜ。今の時期はそうだからな」
確かに、若者たちは真剣だ。
「セントラルのストリートが優秀なのは、こういうことだ。自らを鍛え上げ、確実に任務を遂行できるようにこの特別なT・Fがあるからだ。他の支部にはない」
「そ、うなんですか・・・」
ユイはさらりと言うと、レオの3Dシステムを再び覆う形にした。
「ここにいろ」
こくこく、とレオは頷く。
「トキワ、行くぞ」
「ラジャ」
二人は3Dシステムを元に戻すと、アスファルト・フィールドに向かって走り出した。