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ZERO-against-  作者: 凪葉音
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ZERO--FILE6

散々泣き、疲れが一気に押し寄せたレオの体は、再びカプセルに戻された。

今は、ゆっくりと規則的な呼吸を繰り返し眠っている。

その様子を見て、アサヒがデスクチェアに腰掛けたとき、ラボの方向から扉が開き、彼に一人の人物が近寄ってきた。

「・・・アサヒ」

書類を何枚か手にしたハスキーボイスの持ち主は、アサヒと瓜二つであった。

「やぁ、ミカゲ。研究はどうだい?」

「まぁまぁと言ったところだ」

ばさり、と無造作に書類が置かれる。

ミカゲ・コノエ。

言わずもがな、アサヒの双子の弟である。

いつもはラボに居て、特殊な研究を繰り返している人物である。

兄のアサヒとは正反対の意味を成す名であるが、ミカゲ自身はそんなに気にも留めていない。

ただ、自分のしたい研究が出来ればいいのだ。

「こいつか・・・サウスからの宅急便とは」

強化プラスチックの中のレオを、ミカゲの切れ長の目が見つめる。

「ミカゲ。その子はユイたちに任せるつもりだよ。それに・・・」

アサヒはミカゲの持ってきた書類を見て続ける。

「今は新しいドールの開発途中なんだろう?」

「・・・・・あぁ、そうだ」

ドール。

ドールとは、このセントラルでしか研究されていない人体実験である。

一人の人間から細胞を摂取し、その細胞を人間にするという技術だ。

複製人間。

このことを、「響きが悪い」との理由で「ドール(Doll)」と呼んでいる。

DNAは受け継がれるが、できたドールにはそれぞれ性格、精神構造などを与え、容姿まで変える。

高度な技術が要される研究でもあるのだ。

そしてそのドールの研究を一括して纏めているのが、アサヒの双子の弟、ミカゲだった。

「異種配合・・・ね。この前のはどうなったんだい?」

「この前・・・・・・・・あぁ、異常はない」

異種配合。

人間の細胞と他の生き物の細胞とを合わせたドールの精製法である。

この前の研究では、魚が使われた。

「昨日、屋内の巨大水槽に放しておいた」

ミカゲはさらりと言うと、先程までミズキが使っていたデスクチェアに腰掛けた。

「・・・・・あのドールを見せ物にするのかい?」

アサヒが言うと、ミカゲは低く笑った。

「見せ物になんてしないさ。・・・まぁ、研究の成功の証になると思ってね」

そう言ったミカゲの瞳は、カプセルの中のレオを捉えていた。





「えーと?次はー・・・っと」

ラボとラボを行き来する研究員達をよそに、ユイ、トキワ、レオの三人が固まって歩く。

トキワが手にしているのはセントラルの見取り図。

非常に複雑だが、慣れてしまっている二人には大したことではない。

今現在、ユイとトキワの二人は、回復したレオを連れ、セントラルの案内に出ていた。

トキワがパス式のラボの扉の前に立つ。

「・・・・・痛い」

「わ!」

彼が急に止まったせいで、ユイはその背にぶつかり、さらにその後ろ、レオがぶつかった。

「ここかー・・・あー・・・水のラボかー・・・」

トキワ自身はあまり気に留めてはいないようで、堂々とラボに入っていった。

「・・・うわぁ・・・」

ラボに入った途端、レオは感嘆の声を上げた。

ラボ全体が、水のドームに包まれている。ただし、魚は一匹も居ない。

床に水の揺らめきが反射して、海の中に居るような気分になった。

「いよぅ!」

元気な挨拶をしたトキワに、研究員達があたふたとざわめきだす。

「あ、トキワ様!」

「どうかなされました!?」

「あの!今飲み物を手配して参りますので・・・!」

「ユイ様まで!急げ!」

様付け、その上この有様。

レオは今自分を案内している二人が、どれほどの人物なのか、飲み込めてきていた。

今まで案内されたいくつかのラボでも何度かそういうことがあったのだ。

「や、いいっていいって。今日はちょっとだけ遊びに来ただけだしさ」

トキワは研究員達の間をすり抜けて、水のドームの一角に置かれていた巨大な水槽の前で立ち止まり、振り返った。

「おい!ユイ!レオ!早く来いって!!」

トキワの声はよく通る。

「・・・・・・ったく・・・朝からうるさいよ・・・」

「は、はい!」


ユイさん、もう案内に出てから軽く一時間は経ってます。


未だあくびをする隣のユイに、レオはそんなこと言えなかった。

「わぁ・・・!」

「・・・・・・・・・」

巨大水槽の中に居たのは。

「人魚・・・!?」

「魚・・・?」

「すげぇだろ!半魚人!」

三人の反応はまちまちだったが、それは巨大水槽の中で腕を組んだ少女の姿を表していた。

上半身は人間の少女、下半身は美しい鱗で覆われた魚。

レオが言うところの人魚であった。

『失礼ねぇ!特に何よ!?魚って!!』

その上、人語を話す。

「ありのままを言っただけ」

さらりと返すユイに、人魚は水槽の壁を叩いて言った。

『この水槽さえなきゃ、ヒレであんたの頭を引っぱたいてやるんだから!!』

かなり悔しがっている。

『大体ね!!狭いのよ!ここが!!』

人魚がヒレで壁をバシバシと叩くと、床にコロリ、とプラスチックのラベルが転がった。

ラベルは回転しながらコツ、とレオの靴に当たった。

レオはラベルを拾い上げ、そこに英語で彫ってあった文字を読み上げた。

「・・・?アクア・・・マリン?」

「アクアマリン?」

「・・・・・・?」

三人の視線は、ラベルの文字と人魚とを何度か行き来した。

「・・・・・名前?」

ユイがぼそりと言うと、人魚――アクアマリン――が叫んだ。

『普通最初の時点で気付くでしょ!!おかしいんじゃないの!?』

ヒレと両手の拳で水槽を殴る。


確かに起こるのも当然だ。


研究員達は思ったが、誰一人として口には出さなかった。

「いや、おかしいのはアンタの下半身だ」

『何ですってぇ!?』

またもやアクアマリンの怒りを増幅させる言葉をユイが言った。

『何よ!!自分が人型してるからって!!悔しー!!!』

アクアマリンの怒りが頂点に達したようだ。

「で、でもっ!!あなたのこと見れて、すっごく感動しました!えと、あの・・・綺麗だし、その・・・僕が想像してた人魚のイメージとピッタリで!」

『あら、そう言ってくれると嬉しいわぁ!』


ナイス、レオ。


コロリと態度を反転させた人魚を見て、ラボに居る全員がそう思った。

『お名前は?』

水槽越しにでも、アクアマリンの美しい声はよく聞こえる。

「レオ、です・・・」

アクアマリン、の名の通り、瞳は澄んだ水色、髪は青く、「水」のイメージをそのまま形にしたようであった。

『レオ君ね。握手はできないけど、仲良くしてね』

微笑む姿は幻想そのもの。

『この水槽から出られたら、壁越しじゃなくて、直にお話しましょ!』

「は・・・はい!」

最早レオしか視界に入れていないアクアマリンはご機嫌だ。

『メンテナンスが終わったら、アタシも自由。ここから出られるわ』

くるりと水槽を一周して、アクアマリンはレオの目の前で止まる。

「メンテナンス・・・?」

『あら?知らないの?メンテナンスっていうのはー・・・』

言いかけたアクアマリンの視界から、瞬時にレオが消えた。

『ちょ、ちょっと!何すんのよ!!』

レオはユイとトキワに両脇を抱えられ、いつの間にかラボから出て行ってしまっていた。

『もう・・・何なのよ』

ラボの中はしん、と静まり返った。

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