ZERO--FILE5
「・・・ここ、は・・・?」
レオは上体を起こして辺りを見渡した。
自分の上には透明なプラスチック、デスクチェアで眠っている眼鏡の男性、金髪の女性・・・。
そして。
床に転がっている黒髪の人、大の字で仰向けになっている茶髪の人。
デスクにはいくつものパソコン、そして大型ディスプレイに大量の書類。
「確か・・・僕は・・・」
怪我をして意識を失っていたはず、そう考え込んだときだった。
「・・・ん、うあー・・・」
床に大の字になっていた人――トキワが寝返りを打った。
そのとき足が、黒髪の人――ユイに蹴りをかました。
むくり、とユイが起き上がる。
「!!」
びく、とレオは思わずカプセルの中の柔らかなシーツを握った。
「・・・・・」
ユイは辺りを見渡し、トキワが原因であることを認識すると、あろうことか立ち上がってトキワに蹴りをかました。
「いってぇな!!」
トキワもがば、と起き上がり、辺りを見渡す。
また、怪我を負うことになるのだろうか・・・。
レオは恐怖におののき、強くシーツを握った。
だが、そこで始まったのは。
「ふっざけんなよお前!!」
「そっちこそ蹴りかましといて何ぬかす!!」
「お前がそこにいるからいけねぇんだろうが!!」
「あとから寝たのはトキワだろ!!」
「後も先もあるかよ!!」
「あるね!!」
「ねぇよ!!」
「あるね!!!!!」
「ねぇよ!!!!!」
大喧嘩だった。
「・・・・・あ」
レオは思わず体の力を抜く。
その間にも喧嘩はエスカレートし、ついには取っ組み合いになった。
ドタバタと騒がしくなったマスタールームに、デスクチェアにいた二人も目を覚ました。
「おら!!」
「甘いね!!」
「わざと外してやってんだよ!ありがたく思え!!」
「はっ!!何がわざとだ!!」
「何だと!?」
「やんのか!?」
銃が飛び出した、その瞬間。
「うっさいわね!!!やるなら外でやりなさい!!!!!」
ミズキの肘鉄が二人の頭に落ちた。
喧嘩両成敗。
そんな言葉がレオの頭をよぎった。
「何してるんだい・・・全く」
眼鏡をかけ直したアサヒは、床に沈んだ二人と腰に手を当て、仁王立ちになっているミズキを見て大体の状況を把握した。
「あ・・・」
思わずレオはシーツを握っていた手を緩め、肩の力を抜いた。
そのとき、アサヒと視線が合った。
「!!!」
大きなカプセルとは言え、やはり大きさには限度と言うものがある。
頭を背後の強化プラスチックにぶつけてしまった。
「良かった、ミズキ!無事目を覚ましたよ」
ミズキは金髪をなびかせ、床に沈んだままの二人をそのままに、レオのカプセルへと近づいてきた。
「本当・・・良かったわ、傷も無いみたいよ」
ミズキは、驚くレオを気にせずに、カプセルの上半分を覆っている強化プラスチックを開けた。
「無事に目を覚ましたみたいで良かったわ・・・あぁ、と。マスター!」
アサヒもレオの体の傷が無いことを確かめ、レオの恐怖と驚きを和らげるような笑顔で微笑んだ。
「うん、チップの効き目が早く出て良かったよ。もう、大丈夫みたいだね。レオ君」
「あ・・・えと・・・」
レオは二人の優しさに戸惑った。
「ここに来たとき、君は傷だらけでね・・・怖かっただろう?」
そっとアサヒの手が、レオの髪をなでた。
その優しさは、レオの恐怖を取り除くには充分だった。
「・・・っ!」
これまでこらえていた恐怖が、涙になって溢れ出す。
ミズキは優しくレオの手を握り、涙を拭った。
二人の優しさが、レオを包む。
レオは声を上げて泣いた。
それさえも、受け止めてくれるアサヒとミズキ。
レオは、自分でも信じられないほど、声を上げて泣いた。
こんなに泣いたのは、これが、初めてだった。
自分に直に触れる優しさを、レオが初めて知った瞬間だった。