ZERO--FILE3
マスタールームの休憩スペース。
ユイとトキワはしっかりとミズキの説教を受け、「そこから動くな」とまで言われ、じっとしていた。
一方ミズキは、瀕死の「野良猫」のデータを引っ張り出すのに苦労していた。
「ったくもう・・・ちょっとあんたたち!サウスの研究所でこの子のデータとか取ってこなかったの?」
「「何にも」」
ミズキは頭を抱えた。
「あんたたち、もうちょっとしっかり生きてて頂戴」
「しっかり生きてるよな」
「充分」
この二人に嫌味は通用しない・・・。
ミズキは今度こそ頭痛がした。
「おかしいわね・・・ケア・チップをどうして入れてないのかしら・・・」
チップ。
小さな一センチ角の精密機械のことだ。シャドウでは、チップの改良や改造が盛んに行われており、今やその種類は何十種と増えている。
爆発するものもあれば、止血に使われたり、病気の進行を抑えることも出来る。
シャドウと小さなチップとは、切っても切れない縁なのだ。
「何だ、ケア・チップ無ぇんだ」
「じゃあ諦めるしかないんじゃない?」
「外野!うっさいわよ!・・・もういいわ、マスター呼ぶしかない」
ユイは退屈なのか、休憩スペースに置いてあったやりかけのクロスワードパズルを再開し始め、トキワは眠る体制に入った。
「マスター、もうダメ。私一人じゃ面倒見切れないわ」
「あの二人だね」
「そうよ。それもあるけどね」
ミズキはラボにいたセントラルの統括者、アサヒ・コノエを呼んで来た。
「縦のカギが・・・オレンジ、と」
「・・・ガッ・・・ゴ・・・」
「横が、ジカン・・・」
マスタールームの休憩スペースは、もう誰も近寄ることは無かった。
「外野!!こっち来なさい!!!」
「おいでー」
「マスター・・・犬みたいよ」
二人はユイたちを呼んだが、ユイはクロスワードに熱中、トキワに至っては爆睡、反応は無かった。
「まぁ、いいか。とにかくこの子のデータを出さなきゃねー・・・」
アサヒは早速仕事に取り掛かった。
アサヒはあの二人の性格を良く知っているので、あえて相手にしないようにした。
ミズキは不満だが。
「んー・・・とりあえず怪我してたら何ともならないからチップ使おうか」
「分かったわ」
アサヒはしばらくデータとにらみ合ったあと、ラボにいた研究員にチップを持ってくるよう連絡した。
程なくして、チップを持った研究員がマスタールームに到着した。
「えーと・・・これか」
アサヒはケア・チップとサーチ・チップを手にし、少年の腕に装着した。
カプセルが起動し、少年の傷を癒していく。
と同時に、少年のデータがディスプレイに表示された。
『カスガ レオ 男 名門の嫡男』
「カスガ・・・?茶道の旧家だね・・・」
アサヒは春日家のデータをはじき出した。
シャインでは結構名の知れた家名だが、どうやら没落したらしい。
「なるほどね・・・。それでこのザマか」
カプセルの中、シャドウに迷い込んだ少年―レオは、この先、自分の運命も知ることなく眠り続けていた。