ZERO--FILE2
「全く、報告書なんて書いてらんねぇよ」
「今はいいけどさ、後から絶対何か言われるね」
マスタールームから脱走したユイたちは、今、サウスのドームへと続くゲートの中を歩いていた。
ゲートは、セントラルと支部とをつなぐ、言わばトンネルみたいなものである。
ゲートの中では戦闘など、危険なことは一切起こらないため、主に研究員達が使用している。
「十代の野良猫なんて久しぶりっつったら久しぶりだよな・・・」
「まぁ、戦闘要員が増えていいんじゃない?」
「少々トレーニングが必要だろうけどな」
二人が歩いている横を、研究員達が足早に通り過ぎる。
「あーあ、仕事熱心だねー」
トキワは研究員たちを目で追いかけて言った。
「とりあえず、野良猫拾わないと」
ユイはサウスの認証システムを呼び出した。
認証システムは、どこのドームでも変わらない。
二人は認証システムにパスを送り込み、「野良猫」を拾いに行った。
「よっす」
「野良猫どこ?」
二人がサウスのマスタールームに到着すると、研究員の一人が案内役を買って出た。
「こっちです」
二人が案内されたのは、ヒールルーム――治療室――であった。
「手負い?」
「・・・ええ、まぁ・・・」
研究員は言葉を濁した。その研究員にかまわず、二人はさっさとカプセルの中を覗き込む。
カプセルとは、総合的治療などを施すときに人体そのものを包み込むような形で作成された機能である。カプセルの上半分は強化プラスチックなので、その人間が、今どのような状況下にあるのかが一目で分かる。
「んー・・・これか?」
「・・・ちょっとこれはマズいんでない?」
「さすがに・・・つーか、よく生きてたな」
二人が見つけた「野良猫」は、全身に傷を負い、かろうじて生きている状態であった。
簡単に言えば、瀕死である。
「おいおいおい、コレをどうやって持ってけってーのよ」
「無理無理。コレ、カプセルごと運ぶしかないって」
研究員をよそに、ユイとトキワは瀕死の「野良猫」をどうするかさっさと決めていた。
「しゃーねぇなぁ・・・カプセルごと運ぶか」
「ローラー機能って、確かこのスイッチだったよね」
ユイがかがんで、ずらりと並ぶスイッチの中からローラー機能を呼び出した。
「OK、あとは運ぶだけ」
「了解ー」
あっという間に、ヒールルームからカプセルが一つ、消えた。
そこには呆気に取られた研究員達だけが残されていた。
「セントラル行き急行ー」
トキワがふざけてカプセルを押す速度を上げる。
研究員達の合間を縫って、かなりのスピードでカプセルが移動していく。
「ちょっと、ぶつかるって」
「何!?」
彼らはまだセントラルのパスを開けていなかった。
トキワが慌てて叫ぶ。
「トキワ・ゼン、ユイ・カナエ、サウスより帰還!!!」
ヴィン、と間一髪、認証システムにより扉が開いた。
カプセルは、セントラルの廊下を走る。
「ユイ、もっと早く言ってくれ・・・」
「うん。じゃあ言う。目の前、ミズキさんいるけど・・・」
「何だって!?」
トキワは慌ててカプセルを押すスピードを下げた。
「ぶつからなくてよかったよね」
「いや、お前、それちょっと違う」
カプセルをカート代わりにしてきた二人に、ミズキの雷が落ちたことは言うまでも無い。
ZERO−against−の、FILE1の中で、「中止」とあるところの間違いに気付きませんでした・・・。誠に申し訳ありません。正しくは「注視」です。ZERO−against−を、連載が続く限り、どうぞよろしくお願いいたします。