ZERO--FILE1
シャドウ。
この世界は、5つのドームで結成されている。
統制とストリート正式精鋭グループが集まる巨大ドーム『セントラル』
そこから北。
最近特に凶暴になったと中止されている第一支部『ノース』
セントラルの西、比較的穏やかな居住空間の第二支部『ウェスト』
セントラル東、二つの大きなストリートグループが互いにいがみ合っている第三支部『イースト』
そして、セントラル南、よくシャインからあぶれた者たちが最初にたどり着く第四支部『サウス』
それぞれの支部には、統括者が一人ずつ配置されているが、争いが起こった場合、いずれもストリート出身なので、考えることはほぼ同じである。
自分の居場所は自分らで守る。
これがシャドウの基盤であった。
ただ、どうしても支部同士で争いに決着が着かない場合、セントラルから精鋭たちが派遣されるのだ。
今回のケースがそれだ。
黒髪に赤い瞳、黒のロングコートの少年が、セントラルに到着した。
目の前には、どれだけの人が集まっているのか想像もできないくらいの大きさのドーム。
「いつ見ても・・・バカでっかいよな・・・」
少年が壁に手を当てると、ヴィン、と認証システムの形が取られた。
そう。シャドウにいる者は、ほとんどが自分自身のデータ―――『パス』と彼らは呼んでいる―――を持ち歩いている。
この少年も、例外ではない。
「ユイ・カナエ、SSGC(スペシャル・ストリート・グループ・セントラル)所属、帰還」
少年、ユイは最低限のデータを声紋として認証システムに送り込む。
すると、目の前の壁が『ユイ・カナエ、認証しました』という音声と共に開いた。
疲れた、とぶつぶつ呟きながら、ユイは報告書を纏めるために、ペアルーム―――パートナーと共に寝泊りをしている部屋―――へと向かった。
ちょうど、ユイがセントラルの内部に入った頃、もう一人、少年が認証システムを呼び出していた。
「トキワ・ゼン!SSGC所属ー、ただいま帰還〜」
明るい茶髪に勝気な黒い瞳の少年、トキワが、また内部へ入っていった。
ユイ・カナエ。
トキワ・ゼン。
この二人の名前は、シャドウの中でも良く知られていた。
任される任務に失敗は無い。
銃の腕前で、二人の右に出るものはいない。
体術も会得しており、例え肉弾戦になってもやられることはほぼない。
つまり、セントラルが誇る最強のコンビなのだ。
ただし。
「おうユイ!報告書書けたかー?」
「・・・・・・」
「ユイ!おいって!報告書は!?」
「・・・・・・・・・・・・」
「・・・寝てるし。書く気無ぇな絶対・・・つか報告書って・・・ま、いっかテキトーに」
普段のコンビネーションはお世辞にも良いとは言えなかった。
二人の報告書は、必ずこの二文字である。
『終了』
字が小さめで、殴り書きなのがユイ。
大きめの字で、自信満々に書いてあるのがトキワ。
最低の報告書だ。
トキワがそれを出して、数分後。
二人のペアルームに呼び出しがかかった。
『ユイ・カナエ、トキワ・ゼン。至急マスタールームまで来るように』
「仕事?」
「・・・・・何」
二人は亀のようなのろさであらゆる研究がなされているマスタールームへ行くことになった。
「トキワ参上!何?」
「・・・・・何」
マスタールームに入った二人の目の前に、ハイヒール姿の女性が立ちはだかった。
「あっれ?ミズキさん。どーしたの」
「・・・・・」
「アンタたち・・・まだ分からないの?」
サラサラとした腰まである美しい金髪に、透き通った緑の瞳。スーツ姿の似合う、完璧なキャリアウーマンである。
だが、今回はその「キャリアウーマン」が崩れ去った。
ミズキと呼ばれた女性は、ルージュを引いた唇を開くと、その容貌には似合わないような大声で説教を始めたのだ。
「アンタらねぇ!!ちょっとそこに座りなさい!!!」
「・・・」
「・・・正座?」
「当然!!!」
ユイとトキワはおとなしくミズキの前に正座した。
「これ!!見なさい!!!」
ズイッと二人の前に突き出されたのは・・・報告書。
「何なのこれは!!!」
「「報告書」」
「アンタたち・・・!報告書には自分らがやった任務を(中略)書いて纏めて、それで出して初めて報告書って言える(中略)いっつもいっつも同じこと言わせるんじゃないの!!!分かった!?」
軽く一時間説教をされた二人は、というと、二人とも頭を垂れていた。
今回は反省したのだろうか・・・。
ミズキはかがみこんで、二人の顔を覗いた。
「・・・・・・」
「・・・ガッ・・・グゥ・・・」
器用にも、正座を崩さずに爆睡している。
今度こそ、ミズキの雷が二人に落ちた。
そしてミズキに監視されながらマスタールームで二人が報告書を書き直しているときだった。
『サウスから連絡!十代の野良猫一匹確保!セントラル、応答してください!』
「ああもう・・・この忙しいときに・・・!」
仕方なくミズキは、二人の監視をやめ、応答に向かった。
『セントラルへ送って頂戴。ゲートを通して』
『了解しました』
野良猫。
この言葉は、シャドウでは隠語であり、「シャインからあぶれて、シャドウに迷い込んだ者」と言う意味で使われる。
「野良猫・・・ねぇ・・・。最近多いわ」
一つため息をついて、彼女は応答席から立ち上がった。
「さ、報告書の続き・・・」
そこに二人はいなかった。
その代わり、新しい報告書が、赤インクで『終了』と殴り書きされて置いてあった。
「また逃げられたぁあ!!」
ミズキの怒りがマスタールームの一角で爆発した。