道酪者~どうらくもの~
五円玉様からの依頼を受けて書きました。
酪農が舞台のフィクションコメディ…
何故酪農…?
未だに理由がわからん…
北の大地、北海道。
ここは酪農が盛んな場所である。
今年小学生になった直希の家も小さいながら酪農を営んでいる。
静川牧場。
それが、直希の両親が経営している牧場だ。
「ただいまー!」
直希は走って家に帰ってすぐにランドセルを放り投げた。
家から学校までは、徒歩1分と言ったところだろう。
目の前である。
ただいまと大声で言ったはいいが、両親は牛舎。
学校から帰ってすぐに牛に会いに行くのが直希の日課である。
直希には昔から不思議な能力があった。
動物の心を声として聞き会話できる。
小さいころから牛と一緒に生活しているとこうなるのだろうか…?
もっとも、回りの大人たちは信じてないが…。
この牧場には4頭の牛がいる。
最高齢の「牛タン」。因みに発音は「羊羹」と同じ。
二番目に歳を取っている「こーてい」
その次が「ホルモン」
去年生まれたばかりの「メルヘン」。牛タンの子供。
全部メス。牛乳を出す牛なのでオスは要らないのである。
今日も直希が牛舎にやってきた。
「ただいまー!」と一応両親に言ってから牛たちの元へ走っていく。
「おー!牛タン!帰って来たぞ!元気だったか?」
直希が牛タンに声をかけた。
(ねぇ、前々から思ってたけど、牛タンって名前酷くない!?少なくとも牛に付ける名前じゃないよね!?)
この牛タンの心の声は直希には聞こえている。
「え?そう?僕は牛タン好きなんだけど…」
(いやいやそうじゃなくて…。何でこう…。部位の名前なの!?食っちまうぞ!ってこと?)
「ん~…。牛タンのことは食べないよ。うちの収入無くなっちゃうし…」
(親の収入気にする小学1年生って普通いないよ!?牛の世界でもね)
「牛には収入無いでしょ…」
(そうなの!タダ働き!まぁ、食べ物もらってるしここは安全だから文句は無いけどね)
「じゃあいいじゃん。ちゃんと牛乳出してよね!」
(はいはい。まぁ、出さないわけにはいかないんだけどね。品種的に)
「じゃあね!こーていの所行ってくるね!」
(はいよ。あれ?こーていって隣…。だよね…?)
場所は変わってこーていの個室。(牛タンの隣。仕切りはほぼ無いに等しい)
「よ!こーてい!元気!?」
(今日は暑いわねぇ。地球温暖化でしょ!?なんとかしてよ!あんた人間でしょ!?)
「う~ん…。小学生には難しいなぁ」
(なんでよ!都合のいい時だけ小学生ぶっちゃって!)
「いや、事実だし…」
(そんなんだから口蹄疫とか流行るのよ!怖かったんだから!)
「僕も!収入が無くなるんじゃないかって怖かったよ」
(私の命を心配しなさいよ!)
「そーいえばね、こーていの名前の由来って口蹄疫なんだよ!」
(ガーン…。知らぬが仏って言うのはこのことなのね…。私はてっきり「皇帝」とかかと…)
「あははは!冗談は顔だけにしろ!」
(満面の笑みで何言ってんの!?顔も冗談じゃないし!怒るよ?蹴るよ?痛いよ?)
「卸すよ?『セリ』って知ってる?」
(ひぃぃ~…。ゴメンナサイ…)
「ホルモンとこ行こうっと!」
場所変わりましてホルモンの仕切り。
こーていの隣。仕切りは無いに等しい。
「おお!ホルモン!元気か!?」
(あら、直希。学校終わったんだ。元気だよ)
「終わったよ!まぁ、昼休みにでもこれるんだけどね!近いから」
(学校は抜けちゃダメよ。私も牛舎抜け出して怒られたんだから…)
「ホルモンは意外と勇者だなぁ」
(えへへ。そういえば、前々から聞きたかったんだけど…)
「何?」
(ここの農場、ネーミングセンス悪くない?牛タンとかこーていとか…)
「そうか?」
(誰が私たちの名前付けてるの?)
「ん~…。町の占い師とか…テレビでニュース読んでる人とか…」
(へ?ニュースキャスターが私たちの名前を?占い師はともかくニュースキャスターが?)
「うん。とうちゃんがね、子牛が生まれたときにやってたニュースの内容から取ってるの」
(あ~…。それで去年までいたオス牛の名前が食中毒だったのね…。やっと分かったわ)
「な?良い名前だろ?」
(え…?良い名前とは一言も言ってないんだけどな…。私の名前の由来は何?まさか…焼肉屋で出てくる内蔵系のアレだったりしないわよね…?)
「ホルスタインだからホルモン」
(ニュースから取ってねぇ!)
「うん。かーちゃんが可愛い名前が良いって言って勝手に決めちゃったからな」
(そうなんだ…。何だこの一家…。でも変な由来じゃなくて良かったわ。二人みたいに)
「二人って?ホルモンとメルヘン?」
(何でそうなる!?)
「じゃーなー!メルヘンとこ行ってくるね!」
(…気を付けてね)
メルヘンだけは放牧地にいる。
まだミルクが出せないから大きくなるまで広い場所でのびのびと育てるってとうちゃんが言ってた。
ホントかな…?…。怪しい…。根拠は無いけど…。
ところ変わって放牧地。
「メル~!元気?」
(あ、直希!元気?って…。毎日会ってるじゃん)
「まぁな。放牧地はどう?」
(ん~…。広くていいんだけど…。お母さんが近くにいないのは寂しい)
「そうか?とうちゃんが今朝『メルヘン楽しそうだな~』って言ってたよ」
(まあ、お話できないからね…。楽しそうな素振りは見せてないと思うんだけど…)
「なあ!草って美味いのか!?」
(へ?草?うん…)
「どれどれ?」
(あっ…あ~…)
「…美味しくないじゃん!嘘つき!」
(いや、私たちにとってはだよ…食べなきゃ生きていけないし…うがいしなよ?)
「うん。するよ!赤ちゃんなのに色々知ってんな!」
(赤ちゃんて…人間基準で考えないでくださ~い)
「もう大人か?」
(それも違うよ…)
「なあ!赤ちゃんってどうやってできんだ?」
(え~と…知らないよ)
「なんだ~。何でも知ってそうなのにな」
(いや、そういう訳でもないんだけどな…経験したことしか知らないし)
「そうかー。まあいいや。またな!」
(うん…じゃあね)
再び牛舎へ。
「かあちゃん!」
「何?さっきあんたやけにデカい独り言喋ってたね。大丈夫?」
「ん?喋ってないよ?」
「え?記憶がないの?」
「そんなことより!赤ちゃんってどうやってできんだ?」
「へ?赤ちゃん?ん~…何の?ウニ?イモリ?牛?」
「は~?人だ!」
「(ん~…やっぱりちゃんと教えなきゃダメよね)まず受精卵というものがあってだね、それが人間の場合等割して2つになるんだ」
「うんうん」
「そしたら、また割れて4つになってまた割れて…って繰り返して人間の原型になってくんだよ」
「へーへー」
「最初の人間には水掻きがあるんだけど、自然と水掻きを作ってる細胞が死んで無くなるの」
「遊びに行ってくるねー!」
「因みに、この細胞の自殺はアゲハ蝶の羽なんかでも…」
母の相手のいない説明は30分も続いた。
午後3時。
直希は牧場を出て近所の林へ向かった。
その途中、同じクラスの吉野屋 絵梨ちゃんに会った。
「あっ!絵梨ちゃん!」
「あれ?なお君!」
「どこ行くの?」
「お母さんにそこの無人販売でお野菜買ってきてって頼まれたの。なお君はどこ行くの?」
「そこの林にクワガタ採りについて行く」
「へー。頑張ってね。あの…お願いがあるんだけど…」
「何?」
「あの…牧場…見せてくれない?」
「え?いいけど…なんで?」
「いや、学校の牛乳もなお君家のだし…。牛もいるんでしょ?」
「うん。いるよ。4匹」
「牛は頭って数えるんだよ」
「…知ってるよ!」
「今日見に行っちゃダメ?」
「いいよ。じゃあ4時に学校の前ね」
「時間分かんないよ…時計無いから」
「えっと…じゃあ、買い物終わってから学校来て!」
「うん。わかった」
近所の林。
「ん~。虫相撲やりたいな!」
そういって、手当たり次第に虫を捕まえ始めた。
30分後…
「もういいや!」
虫かごの中は何やら昆虫でいっぱいだ。
因みに、採れたクワガタは一匹だけ。
「よし、学校行くか!」
学校に向かった。
まだ絵梨ちゃんは来てない。
10分後…
「あ、来た!」
絵梨ちゃんが来た。
「ごめん、待った?」
「ん~。10分くらい」
「クワガタ採れた?」
「採れたよ!見る?」
「いい、私、虫苦手」
「そうか~。可愛いのにな~」
「牛見せてよ!」
「じゃあ行くか!」
牛舎。
「わぁ!これが牛舎?へー!なんだか思ったより広くて臭いね!すごーい!」
「な?凄いだろ?」
(ちょっと直希!その娘誰だい?えらく失礼なんだけど…)
「牛タン!ちょっと黙ってて!」
(私よりその娘を取るのかい)
「牛タン?え?誰か喋った?牛タンって誰?」
「あ、じゃあ牛を紹介してあげる」
「ちょっと直希!人が一生懸命説明してるときにどこ行ってた…あら、絵梨ちゃんいらっしゃい」
人の会話に入ってくる母。
「なお君のお母さん、こんにちは」
挨拶は忘れない絵梨ちゃん。
牛タンの部屋。
「こいつが牛タン。仙台名物」
(名物だぁ?)
「ちょっと可哀相な名前ね…」
(この娘、気にくわないけど分かってるわね)
「牛タンうるさい!」
「なお君、今牛タン音出してないよね?」
「でもうるさかった」
「隣の牛はなんていうの?」
こーていの部屋。
「こいつはこーてい。生意気な牛だ」
(どっちが生意気なのよ!)
「こーていだ!」
(あんたでしょ!)
「いいや!こーていだ!」
「あの、なお君?どうしたの?凄い独り言言って…」
「こーていが生意気なの」
(だからあんただって)
「え?こーていちゃん何かした?」
「僕が生意気だとか言ってた」
「牛は喋らないよ」
「…。酪農家は牛の言葉がわかるの!」
「そうなんだ…。じゃあそういうことにしといてあげる」
「…信じてないな…」
ホルモンの部屋。
「こいつはホルモン。なかなかいいやつだ。牛タンやこーていよりいいやつだ」
「そうなの?可愛いね!」
(可愛いだなんて…そんな…)
「可愛いって。良かったな、ホルモン」
二人は牛舎小屋を出て放牧地へ行った。
(…ホルモンだけ可愛いってどういうこと?一番若いから?)
(そうじゃない?若い娘は若い牛が好きなのよ!)
(ムカツクわね…)
(同感だわ…!)
(給食の牛乳私たちのなのにね)
(恩を感じてないのね…現代の子供たちは!)
(過去の子供たちは恩を感じてたっていうのに…!)
(過去のって…自虐ネタはよしましょうよ…)
(そうね…)
一番若いホルモンは黙っているしかなかった。
放牧地。
「こいつがメルヘン。さっきの牛タンのなんだけど、親と違って性格が良い」
「この子は小さいね。可愛い!」
「おう!上に乗れるぞ」
(え…?ちょっと?何言ってるの?)
「そうなの?乗りたい!」
(え?待って!止めて!ホント!)
「乗っていいよ」
(ほぎゃー!重い!降りて!早く!)
メルヘン涙目。
「重いから降りてだって」
「…そんなに重くない!!失礼ね!」
降りた。
「5時になりました。よい子の皆さんはお家に帰りましょう」
放送がかかった。
「あ、じゃあ帰るね」
「うん。じゃあね」
絵梨ちゃん帰宅。
「かあちゃん!今日森でこんな虫捕った!」
「へぇ~……ゴキブリじゃないの!」
「ゴキブリ?なんだそれ?飼える?」
「飼えません!逃がしなさい!」
「嫌だ!せっかく捕まえたんだ!飼うぞ」
「許しません!」
結局、ゴキブリを飼うことになった。
「名前を付けよう…
。唐揚げ、害虫、バルサンだな!クワガタの名前は…ゴキブリだな!」
さすがに虫の言っていることは直希にも分からなかった。
その夜。
なにやら牛舎が騒がしい。
とうちゃんと一緒に牛舎を見に行くと…
「キツネだ!牛を襲いに来たな!」
「とうちゃん!キツネは悪いやつか?」
「悪いやつだ!でも触るなよ!」
「分かった!網で捕まえる!」
「え…?よし!行け!」
「でぇぇぇやぁぁぁああ!」
網を構えて突出した直希。
(ああああ…!ストップ!ストップ!俺は怪しいもんでもないし牛も襲わないから!お願い食べないで!)
「食わない!捕まえて処分するだけだ!」
(それを止めろ!)
「話は捕まえてから聞く!そぉい!」
見事捕獲。
「で、なんで牛を襲った?」
(襲ってない。冤罪だ)
「嘘つけ!嘘つくとお前の名前勝手に決めるぞ?」
(止めてください。ホントに襲ってないんですから)
「じゃあ何故あそこにいた?」
(あの…道に迷って…)
「そうか…じゃあ明日からうちのペットだな」
(どこでどうなってそうなった!?)
「お前の名前は~…」
(嘘ついてないのに名前決められた!?)
「馬糞だ!よろしくな!馬糞!」
(あっ…ぅ…)
馬糞はショックで気を失った。
翌朝。
授業でペットについての作文を書いた。
「僕のペットは、ゴキブリの唐揚げとバルサンと害虫と、キツネの馬糞です。ゴキブリたちは正直気持ち悪いです。馬糞は言うことを聞かないというか、動こうとしません。名前を呼ぶ度に気絶します。面倒です。終わりです」
キツネを飼う酪農家。
これがヒットし、静川牧場が有名になるのはもうちょっと後のお話。
途中ギャグが無くなったのはネタが切れたからというよりは流れてきにギャグ要素を入れにくかったからです。
大体ね、酪農なんて無理なんだよ!
むちゃぶりにも程があるでしょ!
容赦ないね~…
今度仕返ししましょうかね?(笑)
パロディ入れなかったのには拍手ですよ。だから間が持たなかった…。
会話メインは正解だったのか…?
読者様が判断してくださいな…
もうね、疲れた。
長いんだよ!
もっと短くしようと思ってたら終わり方が分からなくてズルズル長引き…
厳しい作品でした。
実話は楽なんだけどな~…




