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8.盗賊の砦1

 ん…ここは?なんか足が重いや…


ジャラ…


「!?」


 悠は自分の足を見て驚いた。両足には鉄製の枷が付けられ、両足の枷は短い鎖で繋がれていた。これでは思うように歩けないだろう。


 足に…か、枷!?なんで拘束されてんの!?あ…、そうか。男に襲われていた女の子とそのお父さんを助けようとしたんだ……。

そうだ…思い出した。でも、あの子のお父さんは逃げないで僕を助けようとしてくれて、それで…。


 悠はその場にうずくまり腕に顔をうずめる。頬を伝う涙がとても冷たくて痛く感じた。


ジャラ…


 誰かいる…そう感じとった悠は涙を拭って、何がどうきても対処できるように気配に向かって身構えた。



「…気がついたの?良かった。」


 その気配の方、声のかかった方に顔を上げるとそこには少女がいた。僕と同じように、足を鉄の枷で拘束されていた。


 僕はその少女に見覚えがあった。


~~~



一方。村長宅


 初老の男性と村の者達が家の前に集まり何かを話している。


「っ、ミリーが…。それにあの、旅人の方も一緒攫われてしまったのか…」


「村長…今すぐ助けに行きましょう!」


 初老の男性は村長らしい。しかし村長は首を横に振り、苦渋に満ちた顔で答えた。


「ダメだ…。迂闊に手を出しては大勢の者が命を失うことになる」


「でもこうしている間にもミリーと悠はどこかに売られてしまうかもしれないんですよ!」


 悠達を気に入り、今家に泊めている大柄な男、カイが食いかかる。


「おちつけ、お前だって奴らの…『牙の団』の恐ろしさは知ってるだろ」


「くっ…」


 牙の団は一年ほど前、ルカルド村からは南西の方角にある古い砦に住み始めた盗賊団であり、このあたりの村々から略奪を繰り返し恐れられている。王国から討伐のため派遣されてきた小隊が全滅させられたほどの武闘集団でもある。


「でもどうすれば…」


誰かがそうつぶやいたが誰もそれには答えられず、沈黙がながれた。


タッタッタッタッ


「…あなたぁぁ!はぁ…はぁ」

その沈黙を破るように息を切らしながらマリーが走り込んできた。着くなりマリーはカイに縋って叫ぶ


「雫ちゃんが!雫ちゃんがぁ!」


「何があった!雫がどうしたんだ?まずは落ち着くんだ」


 カイがマリーをなだめる。マリーは息をなんとか整え、深呼吸をするとこう続けた。


「最初はここに連れてくるつもりだったの…、でも来る途中私が牙の団について話したら突然走り出して村の外に…

ひとりで悠ちゃんを助けに行っちゃったのかもしれない…」


「なんだって!?」


 ひとりで奴らのアジトに行くことは自殺をするようなものだ。ましてや女の子がひとりでなど格好の餌食である。


「村長!彼女1人では危険すぎます!」

「そうだな…。しかし軍の小隊でも全滅したんだ、我々が行くのは危険すぎる。ギルドに緊急依頼として登録しよう。」


「…!(そんな余裕がこの状況であると思っているのか?)」


 カイは村長の言葉に苛立ちを感じ、踵を返した。


「おい、カイ。どこに行くつもりだ?」


 そう呼び止めた村長を睨みつけ、カイは吐き捨てるように返した。


「どこって。家に帰るだけですよ。ここにいたって何にもならないですから。…いくぞマリー。」


「ちょ、ちょっと…あなたっ!」


マリーは急いでカイのあとを追いかけた。


村長はそんな2人の後ろ姿を痛切な面もちで見ていた。


「…わたしには村を守る義務と責任があるのだ。すまんな…カイ」


 村人達のざわめき声の中、村長が呟いた小さな声を誰も聞き取ることはなかった。


「ちょっと、あなたっ。いきなりどうしたのよ」


足早にあるくカイを妻、マリーが呼び止める


「マリー…。」


「まさかとは思うけど、1人でも行くなんて言わないわよね?そんなこと私許さないわよ。」


「ぐっ…けどお前は3人が心配じゃないのか!?」


「心配よ。」


「なら!」


「なら私もついて行くわ。」


「な…!」


 カイは子供の頃から、マリーを知っていた。同じ村で生まれ、同じ村で育ち、その村で結婚し、その村でずっと共に暮らしてきた。


だから彼女に戦う力などないのはわかっているし、だからカイには、なぜ彼女がそんな事を言い出すのか理解できなかった。


「な、何を言っているんだ!?お前に何が出来る!」


「じゃあ、あの牙の団を前にあなたには何が出来るの?」


「…!」


「私達に出来るのは奴らから逃げることだけじゃない。私が行ったってあなたが行ったって対して変わらないわ。…それに。」


 そこから先は聞かずともカイにも大体予想がついた。


「もしものとき、私この村で待つなんて嫌。あなたが死ぬなら私も…死ぬわ。」


 …マリーとはこういう人間なのだ。こういう女だから俺は惚れたのだ。マリーに危険が迫れば俺が守れば良い。こいつが死ぬなら俺も死のう。


「まっ、死ぬつもりは毛頭無いけどな。さっさっとあいつら見つけて必死に逃げ回ることにしますか!」


「そうね!行くわよ。」


2人は見つめ合って笑顔をこぼしていた。


「「「「良い歳してお熱いこった」」」」


「「!?」」


 突如放たれた言葉の4重奏にふたりが振り向くとそこにはカイの猟師仲間の4人が立っていた。悠達と最初に会ったあの4人、リクト、キース、デガル、シュガーである。カイとマリーを見てはニヤニヤしている。


「おおお、お、お、お前ら、何で…」


「ははっ、僕らも一緒に行くよ。あのときあの2人に出会ったのも何かの縁だろうし。ミリーはこの村の同期の娘だ。

それに…助けたつもりが、僕はあのとき悠ちゃんに助けられちゃったしね。」


弓を担いだ男シュガーが言った。他の面々も続く。


「今回は救出が目的だ。俺達がいた方が子供達を守りやすいだろ」


「それにお前だって俺らの仲間だし勝手に死なれたら困るしな」


「それにあの2人は可愛い!」


 …最後のはどうなんだ?悠達が俺らとどれだけ歳離れてると思ってんだ。まぁ申し出はありがたいんだが…


「良いのか?かなり危険だぞ」


「男に二言はないよ」


「いや、ありがとう。


お前ら、ガキども救出作戦…すぐに決行するぞ」


「おー!!!」



~~~



『牙の団?』


『うん。このあたりを荒らしている盗賊で多分悠ちゃんはそいつらに…』


『そやつらはどこにおる?』


『ここから南西にある砦に…ちょっと!?し、雫ちゃん!?』


 雫は先ほどのこのやりとりの後すぐに走りだし、周りに人が見えなくなってから『空中滑走』の魔法を使った。人に見られるのを避けたのはこの魔法をこの世界で使える者がいないからだ。

 さっきカイから受け取った魔導書には完成された魔法しか載ってなかった。魔法とは術式の組み合わせであり、それを組み合わせた魔法陣に魔力を注ぎ込めば発動する。

 しかしこの世界では魔法は魔法陣の状態で伝承されていた。術式の存在すら知られていないのかもしれない。

 雫は魔導書にかかれていた魔方陣とその効果からこの世界の術式を片っ端から炙り出していった。数学の方程式を解くように。そしてそこにある法則性からこの世界では使用すらされてない術式まで予測した。その一つが『空中浮遊』であり、『滑走』と組み合わせ、今空を飛んでいるわけだ。


「ほほう…空中滑走…この世界でも結構スピードがでて良いのう。

ん…見えてきおった!あれが悠をさらった奴らの本拠地…ふふ…神を敵に回す恐ろしさ。今に思い知れ…」


 そうつぶやいた直後、雫は低空飛行に切り替え、砦にそのまま飛んで入っていった。そしてそのわずか数分後、


砦は大爆発と共に吹き飛んだ。



~~~



 牢屋で出会った少女はあのとき、助けようとした少女で、彼女はミリーと言うみたいだ。僕も彼女も盗賊に捕らえられこの牢屋に入れられたらしい。僕は彼女に何度も何度も誤った。彼女の父親は僕を助けて斬られてしまったのだから。

 しかし、彼女は僕のせいではないと何度も言ってくれた。僕はこの子を助けたい、今度こそは。本当の意味で。


「ねぇ、ユウさん。」


「ん…なに?」


 いけないいけない…今はなるべくミリーちゃんが怖くならないように気を配らなきゃ。


「お父さんに聞いたの。旅人さんが2人、村にきたらしいって。ユウさんがその旅人さんなんだよね…?」


「うん。そうだよ」


「もう1人の人。心配してるよね…きっと。」


 雫…。


「心配は物凄くしてると思う。ああ、でも僕ら、今ケンカしてるんだっけ…」


「ケンカ?」


「そう。あいつ僕のことを命懸けで護るなんて言い出すからさ。そんなのに命なんか懸けないで欲しいのに…」


 全くだよ。でも実際は僕、攫われてるけどね。…それは僕が勝手に離れたからか。


「命を懸けて護るかぁ…

(すっごいなぁ。ユウさんすっごい愛されてるんだな。この話からすると旅のお供は男の人かぁ…。良いなぁ…男女の2人旅…)」


「…なんかミリーちゃん赤くない?」

「えぇ!?だって…私もそういうことで困惑してみたいというかなんというか…///」


 最後の方ぜんぜん聞こえなかったんだけど…


「あっ…でも!ユウさんすっごく綺麗だし、護りたくなっちゃうのもわかります!」


「綺麗って…でもあいつが僕を護るのはそう言うんじゃないと思うよ?」


 たぶん使命とか、命令とかそんな理由…。なんだろう…すこし寂しいな。


「(わぁユウさん凄く恋しそうな表情してる!なんか綺麗…)

ゆ、ユウさん!そ、その人ってどんな人なんですか?」


「どんな人って…。まだ会ってから日が浅いのだけど、なんか理不尽に乱暴で、口調が変で、…でも意外と優しくて可愛いとこもある人…かな?それに…僕の恩人なんだ。」


 最初は理不尽に蹴られたっけ…。すごいしゃべり方するし、でも外見は美少女だし、たまにお茶目な面も見せるし…僕とこの世界を救うために、誰よりも…


「…そうだよ。なんでケンカなんかしちゃったんだろ」


「(キャーッ!ユウさん凄く乙女!可愛い!)

やっぱり好きなんですか?その人のこと…」


「え、好き!?」


 なんか僕の中身が男ってバレてる!?違うよね?女の子どうしとか、友達とかそう言う意味だよね?


「す、好きだよ?でも、あくまで友達って意味だからね!?あいつも僕のことなんかきっと旅の友ぐらいにしか思ってないだろうし!!!」


「キャー!ユウさん可愛い!!!」


「???」


 なんかミリーちゃんが牢屋のなかじゃあり得ないほどテンションあがってんだけど!?いったい何?


コツ…


 …!足音?誰か来る!


「しっ、ミリーちゃん…静かに!誰か来る…。」


「え…。」


 急にミリーちゃんは不安な表情になり、ガタガタ震え出す。それはそうだろ今から来るのは盗賊だ、僕も怖い。体の震えをなんとか抑える。


「…大丈夫。僕が護ったげるから。」


 ミリーちゃんを護るように抱き扉を睨みつける。


ギィィィィイ!


 扉が開き、歳は二十代後半かと思われる黒髪を後ろで束ねた男と、その他にも何人かの男達が入ってきた。


「外まで声が聞こえてたぞ。牢屋で雑談とは随分と緊張感がないな君らは。しかし、君らは素晴らしい顔をお持ちだよ。これは儲けられそうだ、これだから人身売買は止められねえ。」


 ピクッ。人身売買だと…僕の世界で?ずっと夢に見てきたこの世界で?同じ人の子なのに?


 男はユウの目の前まで顔を近づけると、


「何か物言いたげな目をしているね。ははっ、君の顔は特に素晴らしい。売っちまうのも勿体ねぇ…どうだ、俺のものになる気はないか?この牙の団の頭領、ファングスのね。」


「死んでも、嫌だ」


 悠はそう吐き捨てたあと、唾を文字通り吐き捨てた。


 プチン。みるみるうちに男の表情が変わっていく


「…てめぇら。そこの女ぁ好きにして良いぞ。オレァこのクソアマをヤる…」


「ヘイ。」


「なっ…」


 男達は下卑た笑いを浮かべ、ミリーを囲んだ。


「い、いや…」


「や、やめろぉぉぉ!その娘には手を出すな!僕がお前ら全員の相手をするから…やめてくれ!」


ファングスは一瞬考える振りをして見せたが、


「…却下だ。お前はこれから俺に犯し尽くされ自ら俺の女になるんだよ。他のやつにヤらせるわけねぇだろ。」


 そう悠を見下ろし言った。


「いやぁぁぁぁぁ」


 ビリビリッ!ミリーの服が千切られた。ヤバい。これ以上は…


「やめろ!僕が何でも言うことを聞く…だからその子には触れるな…」


 ピク。ファングスが悠の言葉に反応した。


「てめぇら…やめなっ!

へぇ~何でもかい?じゃぁ抵抗せず俺の女になることを認めな。そうしたらあの女には手を出さずに置いてやるよ。」


「…わかった」


「そんなぁ…、ユウさん…!」


 ミリーが悲痛の表情で悠を見る。


 あ~あ。なんでこんなことに、でもあの子を助けられるならこれでもいっか。


ビリビリッ。悠の服も剥ぎ盗られた。しかし悠はもう抵抗しなかった。そうして良いように弄られ始められたころ


「はっ、ホントに抵抗しねぇのな。てめぇら。もう良いぜ、ヤレ。」


「なっ………」


そして手を引っ込めていた男達の手が再びミリーに伸びた。


「え、うそ!?ユウさんとの約束は?あ…キャァァァァ!!」


「まてぇぇぇぇぇ!話が違うだろうがぁぁぁぁ!」


 叫ぶ悠にファングスは嘲笑を帯びた声で


「バカかてめぇは。約束なんざ俺ら盗賊が守るわけ無いだろうが。今までもなぁ~200人近く攫ってきたが、こういうシチュエーションって案外良くあんだ。


『私が代わりになるぅ~』


『だからその子だけはぁ~』


ってな。そのたびにこの手でいくんだが、裏切られたときの顔ときたら…これが見たくてやっちまうのかもな!はーはっはっは」

 こいつは…この屑野郎は…。こんなやつがフィリアルに…僕の世界に…認めない…こいつは…許さない!


「憎いかぁ?俺が憎いかぁ?これからお前はその憎い奴のもんになんだぜぇ!」


 ヤ、やられる?僕が男に?こんなクソ野郎に?やだ…嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ。


「だ、誰か…し、雫―、シズクゥゥゥゥゥ!!!!!」



ドゴォォォォォン!!!!!


 そのとき、けたたましい爆発音が鳴り響き、大きく建物が揺れた。天井からもぱらぱらと埃が降り注ぐ。


「な、なんだ!?」


「お頭ァー、大変です!!!」


「なんの騒ぎだァ。あん!? 今邪魔されんのが一番嫌いなんだよ」

「違うんです。敵襲でs…ブファッ」


 そうして扉の向こうで叫んでた男は吹っ飛んだ。…土煙の中佇む小さな人影はドスの聞いた声で囁いた。



「貴様らァ………。神罰を受ける覚悟は出来ておるかァァ…?」

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