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7.ルカルド村

僕たちは助けてくれた村人と一緒にこの村へやってきた。


「ここが俺たちの村、ルカルド村さ。まぁ…畑しかない小さな村だがな」


とカイさんが教えてくれた。カイさんは、最初は僕たちを疑って訝しげに質問をしてきたあの人だ。うちとけてみるととても良い人で、やさしかった。


ちなみに剣の人がリクトさん。槍の人がキースさん。もうひとり斧を使ってた人がデガルさん。弓の人がシュガーさん。


道中の話の流れで、僕と雫さまは今日はカイさんの家に泊まることになったらしい。さすがに雫さまも宿まで借りるつもりはなかったらしいから遠慮しようとしたのだけど、カイさんの中ではもう覆せない決定事項らしく、ここはお言葉に甘えることにした。


僕と雫さまはカイさんに連れられるままにカイさんの家にやってきた。そして今はカイさんの奥さんに腕の手当てをしてもらっている。

シュガーさん達は村長さんに僕らのことを報告しにと、今日とって来た物を納めに行ったみたいだ。

この村では猟で穫った獲物や収穫した作物を村人で分け合う習慣があるようだ。



僕は手当てをしてもらってる間、自分の姿に着いて考えていた。この家に来てまず鏡を見せてもらった。


もとから女顔っぽい感じの男だったためか顔自体はほとんど変わってなくて、細かいとこが女っぽくなった感じだ。


それだけで女にしか見えなくなるもんだからなんか泣きたくなる。


そして驚いたのはその姿はフィルにそっくりだったこと。まぁ当然言えば当然だけどね。フィルを初めて見たとき"誰かに似てる"と思ったのは自分のことだったのか。


フィルと外見的に違うのは髪と目ぐらい。フィルの髪は綺麗なブロンドでセミロングだったけど、僕は男の時と同じ茶髪で背中の下まであるロング。目はフィルが青、僕が黒。


詰まるところ、予想に反してなかなかの美少女だった。

けど…いくら自分が美少女でもな…微妙だ。


思考の海に耽っていた僕は、突如かけられた女性の声で引き上げられた。


「はい、終わったわよ。にしても、あんた達ホントに女の子ふたりで旅なんかしているの?」


あっ、そっか。手当てしてもらってたんだっけ、カイさんの奥さん…えぇっと、マリーさん…?その話題何回目ですか?


「もう…何度も言いますけど、そうですよ。マリーさんの子にもなれません!」


「うむ…そうだのう」


「もう…なんでよぉ。ふたりとも旅なんかやめてうちの子になっちゃいなさいよ」


そう言ってマリーは近くにいた雫を抱きしめた


はぁぁ…そんなことニッコニコしながら言われてもなぁ。う~ん、雫さまも相当たじたじだし…最近雫さま神様ってよりか、なんていうか…もっと身近に感じるなぁ。


ガラッ


「悠、雫。今歓迎の準備をしている。それと旅の道具だがここに一式用意しておいたぞ」

そこにカイさんがやってきた。手には荷物を持っている。旅の道具まで用意してもらって…なんか申し分けなさすぎる


さらに歓迎って…


「歓迎って…そんなことまでして下さらなくても」


「良いんだよ。この村はめったに外の奴がこないからな。みんな祭りをやる切っ掛けが欲しいのさ。ほかに必要な物はないか?遠慮なく言ってくれ。」


いやいやもうこれ以上なんて…


「では…悪いが、あと魔導書一冊と、一振りの刀はないかの?」


って、おい!


「ち、ちょっと雫さま!いくら何でも図々しいんじゃ…」


「はは、構わないよ。遠慮をしないように言ったのは俺だ。刀と魔導書か…もう少し待っててくれないか?」


「うむ、助かる。」


嬉々として答える雫を悠がジト目でにらむ


(遠慮しろって…!)


「はは、良いんだよ。それよりふたりとも」


「?」


カイの問いかけにふたりがふりむく。そしてカイはマリーを指さし言った


「こいつ、何か困らせるようなこと言わなかったか?」


「あ………」


ふたりは顔を見合わせ、くすりと笑った。






ふたりは準備が整うまで村を見て来たら良いと言われ、村を見て回った。

しかし、予想以上に小さな村だったので、すぐに見終わってしまった。


そのため今は村の端っこを流れる小さな川にかかっている小さな橋で休憩をしていた。


「…雫さま。」


「なんじゃ?」


「さっきのはあまりにも図々しすぎませんか?ああいうのはやめて下さい」


「お主は真面目よのぅ。図々しい…そうかもしれん。ただ今は旅の準備を整えるが最優先じゃ。世界が滅んだらこの村の親切な人間達をも死なすことになる」


「それは…そうだけど」


…納得できない。それに納得の行かないことはあともう一つ。


「…雫さま。あともう一つ」


「雫でよい。妾はお主の従者としてこの任に当たっておる。それに敬語もいらん、妾は従者、主は悠じゃ命令があらば妾はそれに従う」


「じゃぁ雫。なんであのときあんな無茶をしたの?」



「…無茶じゃと?それは妾のセリフじゃ。お主のその腕…その腕はなんじゃお主が無理をしたせいじゃろが」


雫さ…雫が僕の腕の包帯を指差し言う。どうやら本当に怒ってるみたいだ。


「…なんで?僕があそこでやらなきゃ、あの人死んでいたかもしれないじゃないか。

それに結果誰も死ななかったんだ。でも雫が僕を庇ったときは…違う!ホントに死んでたかもしれないんだぞ!」


「…この世界を救えるのは他でもない、悠じゃ。神だなんて名ばかりで妾には出来ることなどたかがしれておる。

悠は護らねばならん…妾の命をかけてでもじゃ。そしてお主は他の者のために傷付くべきではない。」

違う…この世界を救うなら目の前で苦しんでる人を素通りなんて出来ない。自分が傷付くことを怖れちゃ誰も救えないと思う。


「それに妾が死んでもすぐに神界から代わりのものが…」


ガタッ


悠が雫に詰め寄った。


「…それ以上は…言わないで。」


キッと雫は悠を睨むと、次の言葉を紡いだ


「………すぐに神界から代わりの者が来る。だから妾は悠が危ないときは悠の盾にな…」


パンッ!!橋に乾いた音が響く。響き渡る沈黙の中、水が流れる音だけがあたりを支配する


「……そんな考えなら神界に帰れ!雫なんかもう知らない!」


そうして悠は走り出した。


「…悠。」


雫が絞り出した悠の名は水の音に書き消えた。






僕は走った。無我夢中で走った。途中驚いた村人になんども声を掛けられたけど、全部無視して走った。


雫があんなに命を軽く扱うなんて。


いや、軽く見てるわけじゃないのは知ってる。ただ全てを救ってたら間に合わないそう言いたいんだ。

僕は…この世界に生きる者たちは僕の世界の子供みたいなもの。だからみんな護りたい…。


悠は立ち止まり呟いた


「…一番いい方法なんか知らない。どうやってこれから起こる戦争を止めたらいいかわからない…でも、……それでも助けたいんだよ。うん、きっとその思いは雫も一緒のはず。…」


悠は深呼吸をした。


「戻って雫に謝まらなきゃ。って…ここ…どこだ?」


悠は当たりを見回した。


川沿いに走ってきたんだっけ。ずいぶん上流に来ちゃったらしい。結構ながれあるなぁ。

川を覗き込む…綺麗な水だ。とりあえず手を入れてみた。


「冷たっ」


濡れた手をほっぺに当ててみる。冷たくて気持ちいい。…ほっぺた。

思い切り叩いちゃったな。帰れなんて言っちゃったけど…雫がいなくなったら嫌だよ…


「ハァ…早くも戻って謝ろう。てか雫まだ怒ってるかな…?」


なぜか雫の三日月笑いが脳裏に浮かぶ。


ブルッ


怖い。早く帰ろう。道…覚えてないけど川沿いに行けば戻れるよね…


そして悠が帰路に着き歩き始めた時だった。


「きゃぁぁあああ」


悲鳴が聞こえとっさに振り返る。


…!悲鳴!?声は近かったし、ここから近いみたい。あの森の…方!


悠は走りだした。ふと雫の言葉を思い出す。


『お主は他の者のために傷付くべきではない。』


それは客観的に世界を救うだけが目的っていうならそうかもしれない。


でも僕にとってはここに生きる命が世界だ。目の前の世界を見捨てるなんて無理!


悲鳴が聞こえた当たりまでやってきて周りを見渡す。


…いた!


まだあどけなさを残した少女と、その父親だろうか。そのふたりを剣を持った男がじりじりと追い詰めていた。男が父親の方を殴り倒し、少女の腕を掴んだ


「へへ、なかなかの上玉じゃねえか。」


「おとーさん!!」


ほとんど一瞬で理解した。人攫いだ!でもどうする?僕は今武器を持っていない。相手は剣か…、一か八か後ろから剣を持ってる手にしがみつけば、その隙にあの親子は逃げれるかもしれない。


僕は…うん、そのあと全力で逃げよう。最悪、僕は殺されても生き返るみたいだし…まぁ、それは世界が疲弊するらしいからなるべくしたくないけど。


男に気づかれないように、気配を殺し背後の木の裏に回り込む。


…チャンスはおそらく一度だけ、男が父親に留めを刺すため剣を振りあげたときだ。


「じゃぁな。あんたの娘は精いっぱい可愛がったあと高値で売ってやるよ。精々あの世で娘が頑張る所を見守るんだな!!」

「嘘…、止めて…よ…。わかった!私言うこと聞くから。お父さんは殺さないでぇ!」


男は黙って剣を構えた。父親が娘を、娘が父親を案じ叫ぶ


「逃げてくれ、ミりーィィィ!」


「いやぁぁぁぁぁ!!お父さん!やめてぇぇ!!」


男は剣を…振り上げた!…今だぁぁ!


「親子愛ってやつか?胸くそわりぃ…死ねぇぇ!!」


「やめろぉぉぉぉ!!」


悠は叫びながら男が振り上げた剣を持っている方の腕に飛びつく。


「うわっなんだてめぇ…!離さねぇかこのアマッ!」


驚いた男は少女の手を離してしまったらしい。少女は父親の元へ逃がれたみたいだ。


「早く逃げて下さい!!」

悠は親子に向けて叫ぶ。


…くっ…この男、力が強くて…もう…押さえつけてらんない…。


父親はその子を背後に隠し、懐から武器を取り出した。小さなナイフだ。


「…ミりーは逃げなさい」


「え、お父さん、駄目っ!駄目だよ死んじゃう!!」


そうして、父親はナイフを構え男へと近寄る。なっ!全くの予想外だ。


「何をしてるんですか!!早くその子を連れて逃げてください!逃げて!!」


男が父親の持つナイフを見て焦る。


「ヤべぇ!!くそぉ離せぇぇぇぇ!!!」


男は力任せに悠を振りほどいた。


…ヤバい、振りほどかれた!剣とナイフじゃリーチが違いすぎる…ヤバい!ヤバい!ヤバい!


「その女の子から離れろぉ!!」


父親のナイフはいとも簡単に交わされた。


チャキッ。男が剣を構える。やめろ。

やめ、…やめてぇぇぇぇ!


ザシュ…!


少女の父親は一太刀のもとに胸から腹にかけて斬り伏せられた。


「お父さーん!!」


大量の血が吹き出し、あたりを赤に染める。


少女の絶叫が響きわたる。悠は全身にその吹き出た血を浴びた。


え…あっ…?血…血ぃぃい…!!?


「あ…あぁ…」

悠は強い血のにおいと吐き気に…意識を手放しその場に倒れ込んだ。


「お父さーん!お父さんっ!」


少女が泣き叫ぶ。男は剣をしまうと、男のもとに駆け寄った少女の髪を引っ張りこちらに向けた。


「ちっ、うるせーな。てめーの親父が馬鹿だからいけねーんだぜ、さっさと女を見捨てて逃げれば良かったんだ。」


そうして男は悠の方を向く。


「はっ…なんだこっちの女気絶してやがる。いいのは威勢だけかよ。こいつのせいでめんどくなったんだ。死ぬかと思ったぜ。…こいつもぶち殺してやるか。」


「え…嘘。もう、やめてよ!お願いもう殺さないで!」


男は黙って悠を見下ろす。


(ちっ、うるせーな…ん?な!!こ…この女すげー上玉じゃねえか。まだガキだがこっちの喚いてるガキよかレベルが数段上だ。こいつをお頭に献上すりゃぁ…へへ)


「うるせーガキ!!」


ガン!


男は少女を気絶させ、その少女と悠を担ぎと少し離れたとこに繋いだ馬に乗せた。自分も乗ると慣れた足取りで森の中を走っていった。






それからいくらも立たないうちに悲鳴を聞きつけた村人たちが駆けつけ、無惨にも切り捨てられた娘の父親を見つけた。


「おい!大丈夫か!?何があった?…!まだ息がある!おい、とりあえず村に運んで治療すんぞ。」


「おう。担架だ…!そっと運ぶぞ」


その時父親がわずかながら声をあげた。


「…ミ…リー…に…げろ…」


父親の痛切なうめき声にその場にいた者達の表情にも影が落ちた。





村が騒がしい。じゃが妾には関係ない。悠が見つかぬのだ…あのときすぐに追いかけなかったことを凄く後悔しておる。


確かにあのときはホントに怒っていたからの、余計なことまで言ってしまったかもしれん、妾も修行がたらぬのぅ。


いざ頭が冷えてみれば、今まで見た悠の性格からあんな風な言い方をすれば怒るというのはすぐにわかることだはずじゃ。


実際に神界からは七矢悠を身を挺して護り尽くすことを任として与えられているわけじゃが…妾だって目の前で困ってるものは助けたいのじゃ、

ただ悠には危険な事は妾に任せろと言いたかったのじゃが、ふふっ、悠はそれでも怒るかもしれんな。


とにかく、このままではいかん。何かしらの手を考えなければ…ならぬ。


「嫌われたくないからのぅ…。」


雫は自分の自分らしくない言葉に笑ってしまう。


…と言うわけで、村中をさっきから探しているわけじゃが、まだ見つからん。


「いったいどこに行ったんじゃ?」


雫は魔導書を開いてみる捜索系の魔法は無いものか。さっきカイとすれ違ったときに貰ったのだ。背中には悠のために用意してもらった小振りめの太刀がある。

この世界の攻撃用の魔術式はあらかた覚えた。もともと魔力の扱いには慣れていたので、あとは術式に魔力を流し込むだけで発動出来るだろう。


「いなくなるならせめて武器ぐらい持っていて欲しかったのぅ。やっかいごとに巻き込まれなければ良いがのう。」


どうしたものかと考えてると、向こうから女性が走ってきた。一瞬悠かと期待したが悠よりかは幾分背が高い。その女性はマリーだった


「雫ちゃん!こんなとこにいたのね!大変、大変なの!」


「ま、マリー殿。すまぬが妾は今それどころでは…」


この女性は苦手だ。なんと言うかペースについていけない。


「悠ちゃんが!悠ちゃんが攫われちゃったのよ!」


「…なんじゃと?」


「まずは村長のところまで行きましょう。詳しい話を聞くの、良い?」


「…」


あのバカちんが…!いきなりやっかいなことに巻き込まれおって。


本当にすまぬ悠…無事でおってくれ。すぐに助けにゆくから。

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