5.旅立ち
「あーもう何がなんだかわかんないっ」
何がなんだかってもう何回言ったっけ。…なんで僕が女になってんの!?なんでフィリアルがこんな泣き喚いてるの!?
悠は周りを見渡した。…ここは白結界の中?
「神さ…雫さま。これは…この体はどういうことですか?」
「…わからんのじゃ。これでも、妾も驚いておって…すまぬ」
…はぁ。まぁ今はそれよりも、この泣き虫な子をどうにかしないと…、
しゃがんでフィリアルの肩に手を置き訊ねる
「フィリアル、ねぇフィリアル。どうしたのさ。なんで君がそんなに泣くのさ…」
『…ぐずっ。わだじがうばれてぎだがらですっっ…うわぁぁぁぁん』
ちょ、ちょっとフィリアル!?なんて!?雫さまに振り返り説明を視線で求める。
「それはの…、悠の身体が変わってしまった直接の原因はわからぬのじゃが、この意識の集合体にはひとつ矛盾があっての」
「矛盾…?」
「おぬしらはほぼ同一の存在だ。しかし正確には完全に同一ではなく、同位で限りなく類似した存在なのじゃ」
なんだってぇぇ!?
…じぇんじぇん意味わかんなーい!
やばい…頭がぷすぷす煙を上げてる気がする。
ええぃ!頑張れ僕っ。可愛いフィリアルのためだ!なんとか頭の中で整理する。
「一応の一応は、理解しました。…それで?」
「完全に同一ではないというのは役目が違うからじゃ。フィリアルは"世界"、悠は"世界の守護者"。
存在が同一でも役目が別な限り、全く同一というわけではなく、おぬしらが完全に同じ姿、思考になることはないじゃろう…それでも同位の存在じゃ」
「…姿や思考は別物であるけど、それはとても近いものになるってことですか?」
雫さまは僕の言葉にうなづくと
「本来世界の意識の集合体と、世界ソノモノと呼ばれるものの姿は生き写しのように似ているはずじゃ。
ましてや性別が違うなどとは…」
と続けた。つまりは僕らの性別が違うことは矛盾していて、ありえない状態だっていうことだよね?
「そうじゃな。おそらく世界を渡ったことでお互いの存在に呼応しあって
あるべき形に戻す力が働き、こうなったんじゃろう。」
…うぅ。なんでそんなことに…。じゃぁ今まで僕が男だったのは間違いだっていうのかよ…
悠はもう一度自分の身体を見下ろす。小柄なりにもそこそこに鍛え抜いたはず胸板には、そこそこな大きさ(…いや、そこそこより少し大きいかも)の膨らみがあった。
…なんで今更こういう矛盾を治そうとするわけ?
偶然そうなったんならそのままでいいじゃん…。なんでわざわざ正す必要があるんだよ
そんなふうに心の中で愚痴りまくってる僕を横目に雫さまは続けた。
「それでのう…。フィリアルなんじゃが」
…!そうだなんであんな泣いてんの!?今の話じゃ僕やフィリアルの意志は関係ないし、誰も悪くないじゃん。事故みたいなものでしょ
「それが…。今の話をしたらのう…なにやら勘違いしたみたいでのぅ」
そこで泣きじゃくっていたフィリアルが声を上げた
『わ"たしが…っ!わたしなんて言う女の自我が生まれたせいで悠がヒドイ目にあったぁぁぁうまれてごめんなさぁぁぁあ』
「えぇぇぇぇ!!?…ちょ!?」
そんなはずないだろと雫さまを見る。雫さまはうなずき、
「妾も違うとさっきから言っておるのじゃが…なかなか泣き止んでくれんでの」
そう困った顔をして言った。
…ふう。やれやれ
「フィリアル」
名前を呼び側まであるいていき腰を落とす。彼女はビクっとして動きを止めた。まだ泣いてるけど…
「フィリアルは女に生まれることを自分で決めれたの?僕のこの変化を望んでやったの?」
『…!?そんなわけない!』
フィリアルは大きな声ではっきりと否定した。そんな様子にそっと、やさしく頭を撫でながら微笑む。
「なら、フィリアルのせいじゃないよ」
『…でも』
「フィリアルの自我は僕に応えてくれるために生まれたんだよね?」
『…うん。悠が私と対話することを望んだから…』
僕はめいいっぱいの笑顔を向けてあげる
「ふふっ。ありがと。そう、お礼を言いたいくらいなんだよ。フィリアルは悪くないの。わかる?」
『…でも私がうまれなかったら悠はこっちに来ても男のままだったかもしれないよ?』
う~ん、そっかなぁ?
すこし考えてみた。いや、そうはならなかっただろう。
フィリアルの自我がまだ生まれていなくても、世界の自我が女性体に生まれてくるという理はかわらないだろうし、その下なら
どちらにしても僕は身体が変わってしまっていた気がする。
「悠の考えている通りじゃよ。フィリアルのせいではないし、彼女がいなくても悠の身体は変わっていたじゃろう」
雫さまが僕の考えを読んだのか、そっと教えてくれた。
『でも…辛くないの?悠』
フィリアルが心配そうに顔をのぞき込んできた。
本音は…辛い。だって僕は男なのに身体は女ですよ!?
この先いったいどうやって過ごせばいいのか。でも…
「あのまま何もしないで向こうにいたら僕は死んでた。
…どんな姿であれ、今はこうして生きてるんだから文句は言えない…かな」
…そう。こんな身体になってしまったけど、最優先すべきはこの世界『フィリアル』の滅びを食い止めることだ。
「いや大丈夫。僕には世界を救うっていう目的がある。たとえ身体が変わったってそこは変わらないし、目的があれば頑張れる。フィリアルも…、一緒にがんばろう?」
『…うん!』
「話はまとまったかの?そろそろ本題に入るぞ。
悠の身体のことは旅をしながら調べることにするからの」
雫のその声にふたりはうなづいた。(旅をしながら身体を元に戻す方法が見つかるかもしれない。まずは世界だ、今は話をちゃんと聞こう)
そうして雫の話を促す。
「悠。お主は何故か性別が変わってしまっておるが、それを差し置いても普通の人間の身体とはちっと違うんじゃ」
…?普通とは違う?
「通常、世界ソノモノが他世界で学習を終えて還ってくるときは精神体なのが一般じゃ。
しかし精神体として出来ることは夢枕に立ち人を導いたり、歴史を見守ったりなどその程度じゃ。」
悠は地球のその人、榊のことを思い出す。夢枕…たしかに経験あるし、あんな感じかぁ
「実体として干渉するときには白結界を作り干渉する。普通ならばこれらだけで世界は充分寿命を全うできるはずじゃ。」
『普通の世界ではあんまり干渉とかしなくても平気ってこと?』
「そうじゃな。普通ならじゃがの。ごく稀に世界の存亡に関わるほどの出来事がおき、それが精神体ではどうにもならぬときに
世界ソノモノには身体が与えられるのじゃ。
今回のように、まだ他世界で学習中の場合は、身体を与える必要もないからの、
そのままその世界の世界ソノモノと駐在中の神が界渡りを導くようになっておる。」
なるほど。実際今回は榊さんと雫さまが導いてくれた。さらに特例で雫さまが同行してくれるみたいだし。
そこでフィリアルが『ここからは私が』って言って、雫さまとバトンタッチをしていた。
『じゃぁ、この世界でのあなたの身体については私から教えるね。』
了解でーす。
『まず悠の身体は寿命はなく、老いませーん!』
なるほど…んへっ?ちょっ、ちょっとま、ちょっとま…
「…えぇえええ!?いきなりまさかの…ふふふ、不老不死!?ちょっ…ぇぇえええ!?」
大声にフィリアルは顔をしかめつつ、
『ちょっと、とにかく話を最後まで聞いてよ。正確には寿命は世界が滅ぶそのときで、
それまでは不老ではある…けど、不死かどうかというと…半分くらいかしら。
悠がもし死んでしまった場合、半日もすれば生き返るわ。
ただそのときは世界…大地が代わりに疲弊する。悠と世界は繋がっていて、世界が生き残るためにあなたを蘇生するの。
悠がほんとに死んでしまったら世界も死んでしまうから。でもそれも無限じゃない。
蘇生は世界を犠牲にして行われるから繰り返されればいずれは世界は疲弊し生き物がすめる環境じゃなくなる。』
な、なんていう…。死んだら世界が犠牲に…、そもそも何度も死にたくないし。
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他にもいろいろな話をしてくれた。魔力が普通の人よりも多いこと、身体能力はそこまで変わらないこと。
世界の加護による特殊能力で、身体の構造自体は普通の人と同じことなど。
これから旅をするわけだから、身体能力は欲しかったのだが、ないもんは仕方がない。
「そろそろ行くかの?まずは街を探さなければ…」
いろいろと情報を整理していると雫さまがそう切りだした。
「そうだね。考えるより行動を…ってね!」
僕も同意し、立ち上がった。
『もう行っちゃうの2人とも…』
フィリアルが寂しそうに2人を見つめる。
…そっかフィリアルは意識の集合体だから、白結界を解いたらまた自我のない世界に遍在する意識にもどるのか…
…よし!
「フィル、今はおやすみ。すぐにまた来るからさ、それまでは我慢しててね?」
頭を撫でてあげる
『…フィルって?』
目をまん丸くしてきょとんとしる。
「愛称だよ。世界がフィリアルで、その集合体の君もフィリアルだと少しわかりづらくて…気に入らなかった?」
『ううん!ありがとう悠!…フィル…えへへ』
「…またね。」
『うん…行ってらっしゃい、悠。』
そういってフィルは笑って手を振ってくれた。そこにはさっきの寂しそうな表情はもうない。
「では白結界を解くからの!フィリアル、また会おうぞ。」
こうして…僕は今まで夢でしか見られなかった世界に旅立った。
…女の身体になって。ちくしょう、やっぱなんか納得いかない。




