13.悪魔
「…俺の名はシンという」
村長の家にいた銀髪の男はそう手短に自己紹介を済ませた。彼はギルドの人らしく、砦に捕らえている盗賊達を引き取りに来たらしい。悠は彼の姿をもう一度目にとめる。長い銀髪。鎧を纏うその体は逞しく、整っている精悍な顔に、髪の間から覗く眼光は刃のように鋭い。この人…きっと物凄く強い。悠は本能的にそう悟った。
「で、村長。妾達をわざわざ呼び出した理由は何かの?」
「あぁ、君たちに頼みたいことがあってね」
「頼みたいこと?」
雫が聞き、それに対しての村長の返答に、悠が言葉を被せる。
「君たちが退治してくれた牙の団を、ギルドに引き取って貰おうと思ったんだがね。いざシン殿に来ていただいたのは良いが、砦に残ったキースとデガルに連絡が取れなくなった」
「え…ホントですか!?まさか盗賊達がまた…?」
「あの盗賊達が?…そんなはずはないと思うんじゃが…」
村長から語られたのは砦に残ったキースさんとデガルさんとの連絡が途切れた、ということだった。悠はこの世界で連絡手段が何か気になったが、話の腰を折りたくはなかったので口にすることはなかった。悠の思う限り、2人は腕利きの猟師だったため、連絡が途切れたとすれば本当に何かあったのもしれないと思った。
「そして今はシン殿へカイ達と共に砦の様子を確かめにいって貰いたいという依頼をしたところだ。」
村長がそう言いながらシンにちらっと目配せをした。シンさんは頷き、悠達の方に向き直り言った。
「…悠と雫と言ったか?貴様らには俺に同行して貰う」
「…同行?」
「ああ。」
そこで雫がずいっと前にでた。その様子は何故だか気が立っているようだった。
「何が同行して貰う…じゃ。何故お主が勝手に決めておるんじゃ?」
「ち、ちょっと雫」
雫はなだめようとする悠をふりきり、シンを指差し言いはなった。
「だいたい人を貴様呼ばわりするようなやつに手を貸すほど妾たちは暇じゃないんじゃぁぁ!」
「あの牙をやったと聞いてどんな娘かと思ってみたら…とんだじゃじゃ馬だな。」
「な、なんじゃと!?」
雫が真っ赤になり今にもつかみかかろうとしている。悠は止めようとして必死に後ろからしがみついた。
「お、落ち着けよ雫!(そ、そんなんだからじゃじゃ馬とかいわれるんだよ)」
ギロリ
悠がそんなことを考えた矢先、雫が悠を睨んだ。
「し、思考を読むな!」
「うるさい!」
な…、なんでこんなに機嫌わるいんだか。
「まぁまぁ、2人とも。俺が同行を薦めたんだよ、牙の団を壊滅させた腕の立つ冒険者がいるってな!」
カイさんが僕らを宥めるようにそう言ってきた。…実際アレはほとんど雫のお陰なんだけどな。
「ふん…、では行くぞ。もし何かが起こっているのなら時間を掛けるのはまずいだろう」
シンさんがそう言い僕らは村長の家を出ることにした。
◇ ◇ ◇
悠達は森の中をしばらく歩いていた。シンが無言で先頭を歩き、そのときも彼は周りへの警戒をゆるめることはなく、悠達にまでピリピリとした空気が伝わって来ていた。
(…あくまでも自然体で歩いているのに全く隙がない。どれほどの強さか計り知れないな…。)
悠はそんなことを思いながら彼の腰に視線を送る。そこには一振りの太刀が差されていた。
(この人も…刀を使うんだよな。)
悠はおそらく自分よりも数段上手であろうとふんだ彼の剣技を早く見てみたかった。
「妾達はこんなことしてる場合ではないというのに…」
「雫…、まだそんなこと言ってるの?」
雫はというと、まだ不機嫌のままで、ぶつぶつと不満を洩らしていた。
「それに…悠の言っておった妙な気配の方も気になるしのう。だいたいあんな無礼なやつに貸す力など持ち合わせていないんじゃ!」
「まぁ、まぁ、僕も気にはなるんだけど、こっちもほっとけないだろ?デガルさんにもキースさんにもお世話になったし、それに…ほんとは雫だってちゃんと心配してるのわかってるんだよ?」
「…!…ふ、ふんっ」
笑顔でそう言う悠に雫は顔を思わず赤らめ、そむけた。
「…ったく、お前らはすごい度胸してんな。」 そこにカイさんが割り込んできた。
「…?何がです?」
「何って…あの大陸最強の剣士と名だかいシン殿につっかかるなんてよ、普通じゃまず出来ないと思うぞ?」
…大陸、最強?
「別に妾はそんなことは別に…「そうなんですか!?」…。」
雫の言葉を見事に遮り、悠がもの凄い勢いで聞いた。不機嫌だったこともありすっかり雫はむくれてしまったようだ。
「なんだ…?冒険者のくせに知らないのか?冒険者シンといやぁ、最強の剣士として大陸中に名のしれた大剣士じゃないか。噂じゃ元王国騎士だったとか」
「へぇ…、王国ねぇ。…やっぱただ者ではないよなぁ」
悠は前を歩くシンをなんとなく眺めてみる。長い銀髪は揺れ、黒い鎧の上で踊っている。彼の後ろ姿からは背筋が凍るほどの殺気がほとばしっていた。
「え…殺気?」
悠はその気あたりを正面からくらい体が動かなくなってしまった。シンは足を止め、ゆっくりと刀に手を掛けた。
ガサッ
(誰かいる…!)
ようやく何者かの気配を読みとった悠は、自分に向けられた殺気ではないとわかっても体の震えはとまらなかった。そして前方の茂みが揺れ、その奥から1人の男が飛び出してきた。悠はその男に見覚えがあった。
「あぁ、お前は!僕とミリーちゃんを浚った奴!」
「なんだと?」
悠の言葉に雫とカイが反応する。しかし男は錯乱した様子でその2人の怒気には触れもせず、まっすぐ悠のもとに走り、しがみついた。
「いひゃぁ!」
いきなり男に抱きつかれた悠は気持ち悪さを隠せず、悲鳴を上げた。後ろでは雫がもう爆発しそうだ。
「た、助けてくれ…!ころ、殺される!」
男はガタガタと震えながら叫ぶようにいった。
「な、なに?」
「ころ…殺され…みんな…殺された」
その場にいた者はその男の異常な状態に言いようのない胸騒ぎを感じた。
「…砦で…何があったのだ?」
シンが低く、落ち着いた声で男に問う。しかし男は答えず、頭を抱えその場にうずくまり叫んだ。
「ひぃぃぃ!!!く、来る…追ってきたぁぁぁぁ」
「!?」
バキッ
いきなり目の前の木に亀裂が入り、なぎ倒された。そしてその奥から現れたのは人より少し大きいくらいの紫の魔物だった。
それは人の姿を模していて、しかしその異形の成りは人ではあり得なくて。言うなれば魔人だろうか。だらんと垂れ下がった手には鋭い爪があり、口は裂け、拳大ほどの大きく赤い眼球が飛び出していた。背中からは巨大な羽根が生えている。その紫の生物は皮膚がないのだろうか、肉が脈打ちながら体を覆っている。それは筋肉の塊がうごめいているように見える。
「なんだこのバケモノは!!」
カイはこんな禍々しい生物は信じられなかった。今まで森の魔物をたくさん見てきたが、彼らはなにかしら動物たちから派生したもので、その特徴も引き継がれ、こんなに生物離れはしていなかった。
「…雫。アレから気配を感じるんだ。近くでみたからはっきりわかる…アレは僕の世界の物じゃない」
「…バカな!」
悠はこの生き物の気配が先程感じた気配と同じだということを雫に伝えたが、雫は驚愕に震え、悠の声が耳に入っていないようだった。悠は訝しげに雫を見た。雫のその顔に浮かぶのは、驚きと焦り、そして嫌悪だった。
「…悪魔じゃ」
雫が声を絞り出した。
更新遅くてごめんなさい!また新学期はじまりてんやてんやです。
不定期になりますが更新はしていきます。
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