9.盗賊の砦2
雫は空中滑走を使ったまま砦へと乗り込んだ。
「うわぁぁ、なんだこいつ!」
「と、飛んでるぞ!」
いかにも頭が足りなそうな男共が叫び言った。雫はすっと地面に降り立ち、盗賊達を見上げるように睨みながら言った。
「…捕まえた女達はどこにおる?」
「…!あの女達が目的か。
やつらは地下の牢さ。あんたも…す、すぐにあえるぜ?お、大人しくしてれば…な。」
男はその異様な光景に驚きを押し隠しつつも、そう答えた。その返答に雫は少し考え込むように小さな顎に手を置く仕草をしたあと
「ほう…、地下?ならここにはもう用はないの…」
ニヤリと笑った。
「な、なんだ!?」
雫は地面に降り立ち右手を振り上げた。右手に光が収束し始め輝き始めた。
「う…目眩ましか!?」
「そう思うのか?…それはすまんのう。だったらよかったのじゃが…もう遅い。地下なら、まぁ崩れはしないじゃろ」
その輝く右手で雫は地面を打った。光は打った場所に吸い込まれるように消えていった。雫はまた空中滑走を使い、地下への階段を守っていた男達を片手で吹き飛ばし、階段を降りていった。
盗賊達はあまりもの一瞬の出来事について行けず、地下への階段の入口をながめ、呆然としていたが、次なる変化に悲鳴を上げる事になる。雫が打った場所から先ほどの光が膨張し、ドーム上になって広がっていったのである。
光があたりを包んだ刹那…
ドッカァァァァン!!!
光は盗賊達を飲み込み、大爆発を起こし砦の中ほどから上半分は消失した。途中、道を塞ぐ盗賊達を吹き飛ばしながら階段を降りる。階段の終わりが見えてきた頃
「いやぁぁぁぁぁ!!」
「シズクゥゥゥゥゥ!!」
聞き覚えのないが女の悲鳴と…それと、悠の声。自分の名を呼ぶ悠の声を聞いた。
(悠…!)
雫は少し先の方の扉で部屋の中に向かって叫んでる男を見すえた。
「お頭ァー、大変です!!!」
「なんの騒ぎだァ。あん!? 今邪魔されんのが一番嫌いなんだよ」
また別の男の声が帰ってくる。会話からこの声の主が盗賊の頭領だということがわかった。
(悠をさらった者共の…頭!)
不快でならなかった。とりあえず目の前のコイツはぶっとばそう
「違うんです。敵襲でs…ブファッ」
目の前の男に凝縮した魔力を叩きつける。男は奇声をあげふっとんだ。そして、牢屋を眺める。半裸の少女が2人。そして盗賊だと思われる男達が自分を驚愕の目で眺めている。
ブチッ
凄惨な状態の悠を見て雫は自分の中で何かが外れるのを感じた。その外れた何かをすべて吐き出すかのようにドスのキいた声で告げた。
「…貴様らァ…、神罰を受ける覚悟は出来ておるのか?」
~~~
「雫…!」
雫が来た!助けに来てくれた。あんな事言っちゃったのに…。…っ、なんか今さら泣きそうになってきた。
「ちっ、なんだお前は混ぜて欲しいのか?あん!?…俺たちは良いんだぜ、お前もなかなか高く売れそうだからな!」
ミリーに手を挙げていた男達は口々にそんな似たような言葉ばかり言いながら素早く雫を囲んだ。
「雫!危ない!」
ニヤ…
!?
雫の口が三日月になって笑ってる。こ、怖い。哀れ盗賊達。奴らは自分たちのピンチに気がついていない。
…あーあ。また1人、また1人薙ぎ倒されて行く。…いや、雫が触れただけで次々と吹っ飛んでいく。これが神の怒りか。
その光景を見ていたファングスは静かに構えた。彼の左手にある腕輪が一瞬きらめいた。
(おいおい。アイツはまさか…うへぇ、あの魔術の異常さといい、この腕輪の反応といい…神…か?)
ジャリ…
彼は床を蹴り前へ出た。ひとつの隙も見せず雫へと間合いを詰める。
…この動き!ただ者じゃない。
「雫!気をつけて!そいつただ者じゃ…」
雫がこっちに微笑んだ気がした。…次の瞬間!雫が腕を一振りしたかと思ったら、そこにいた頭領:ファングスは牢の壁に向かって吹っ飛んでいった。彼の身体が壁につっこみ、けたたましい音ととも辺りに土煙がまった。
「何か言ったかの?悠。」
「…何でもないです。」
いつの間にか魔法が使えるようになっていたみたいだ。蓋を開けるとあまりにも規格外。やっぱり神様なんだなって思った。雫は僕のところまで来るとさっきまでの暴挙がまるで嘘のようにしおらしくなり、僕の拘束具を魔法で壊しながら言ってきた。
「あの…、その、悠。大丈夫か…?遅くなってすまない…妾はお主を護ると誓ったのに取り返しのつかないことに…」
ちょっと…、え!?雫…?
「取り返しの…?あっ…!(ゾワッ)
いやいやいや、雫が来てくれたお陰でギリギリセーフ。思っているようなことは何もなかったよ。」
そう言いながら、自由になったので起きあがり、まだ着れそうだと判断したシャツを拾い上げ着る。所々引きちぎられボタンも弾け飛んでるけどなんとか着られるし、大事なとこは隠れるからまぁ良いか。
「そうか…間に合ったか。」
「…心配かけてごめん。」
なんか急に申し訳なくなりそう言った。雫はもう良いと言いながらギュッと抱きしめてくれた。恥ずかしいけどなんかあったかかった。
しばらくすると雫はハッとしたように身体を離し、ミリーちゃんに声をかけていた。
「お主…、ミリーでよいか?大丈夫か?村の皆も心配しておる。帰るぞ?」
突然声をかけられ、今まで呆然としていたミリーちゃんはいささか慌ててるみたいだ。若干、顔も赤くなってる。…?
「あっ、はい。私も雫さん…のおかげで何ともありません。何と御礼を言ったらいいか…」
「礼などいらん。無事で何よりじゃ。それより何か着れるものは残っとらんのか?…怪我もしてるの」
雫はそう言うと魔法を唱えた。その光に包まれた僕の小さな擦り傷や、右手の腫れも綺麗に治っていった。よくRPGとかでみる回復魔法のようだ。ミリーちゃんの服は僕のより、ひどくボロボロにされていたみたいで、着れそうな物が残ってないみたいだった。う~ん、どうしたものか。雫がさっと、着物の羽織をとってミリーちゃんに被せた。…なんか僕より男らしいんじゃ…そう言えばさっき自然に抱き合っちゃった…!?急に顔が熱を持ったみたいだ。
ガラッ…
頭領がふっとんだ方から物音がしてギョッとして振り返った。
「いってぇ…話には聞いてたがこいつぁ驚いた。」
そこには牙の団頭領:ファングスが悠然と立っていた。
「そんなバカな!」
雫が驚愕している。僕だってそうだ。さっきの魔法攻撃の凄まじさを見たら誰だって立ち上がってくるなんて思わないだろう。
「全く。アレほどの魔法を詠唱もなしに使ってくるなんて反則も良いとこだぜ…なぁ神さんよ」
ファングスは金色に赤い宝石が埋め込まれた腕輪をちらつかせてそう言った。ちょっと待って、今…神って言った?
「貴様…その腕輪!そんなものどこで手に入れた!」
「え…腕輪?」
あの腕輪に何かあるの?
「あれは神具じゃ。魔法を無効化する…な。(しかしなぜあのような者が都合よく妾の力を無力化するような物を)」
「あっはっは。もしかしてホントに魔法封じられると何もできなくなるのか?
神様が聞いてあきれるなぁ。この腕輪。君の腕につけたらどうなる?もう魔力練れなくなってただの女になるよね」
ファングスは下卑た表情を浮かべ言った。怖気がする…ふざけんな。
「…そうなの?」
「…うむ。アレはいっさいの魔力を封じるものだからの。装着した者は魔法が効かないが魔法を使うこともできなくなるのぅ」
魔法についてはよくわからないけどもしアレをつけられたら、雫は魔法がつかえなくなる?このままじゃまずい!
「雫。背中のソレ、僕のでしょ。…貸して」
雫はカイに貰った悠用の太刀を背中に背負ったままだ。
奴の思い通りになんかさせない。それにあの男は奴隷商なんかをしている。僕の世界で…、そんなことは許さない許したくない。
「悠…!言ったじゃろう。お主に無理はさせられん」
「でもあいつ、魔法効かないんでしょ?このままじゃ、雫も僕もミリーちゃんもまた捕まってヒドいことになるよ。」
「それは…そうかもしれんが」
…クス。ほんとに心配し過ぎだよな。
「雫。僕を護るんでしょ?なら刀を貸して、僕を信じて。」
「…!しかたがない…ほれ。無理はするなよ?奴自身に魔法が効かずとも妾にできることはある。サポートはしてやるからの。無理はないぞ。」
「…うん。ミリーちゃんは下がってて。」
「え、あ…で、でもユウさん…?」
「大丈夫。これでも旅人だからさ!(ちゃんとした戦闘は初めてだけどね…でもまぁ、雫がいるし!)」
ミリーちゃんは話が全然見えてこないみたいだったけど、とりあえず指示に従ってくれた。まぁいきなり神とかそんな言葉が飛び交ってるしね。…あの男は雫が神ってことを知ってた。
何者なんだろうか。
「話は終わったのか…?お前みたいな嬢ちゃんが俺の相手になるわけないだろうが。俺は牙の団を率いる男だぜ?」
「…」
僕は黙って刀を構えた。…お前は許さない!




