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ダンジョンの住人~異世界転移した先がダンジョン内だった件  作者: シア07


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プロローグ

 俺、佐藤入間(さとういりま)はごく平凡な高校生だ。

 成績は普通。運動も可もなく不可もなくで、身長とか顔も平均くらい(お母さん調べ)。

 これといって目立った特徴もない。


 強いて言うならアニメとかゲーム好きくらいだろうか。

 ネットでアニメとかよく見るし、スマホのソシャゲーも暇な時間にコツコツやっている。

 でもグッズが欲しいとか、PCで本格的なゲームをしたいとか。そこまでの熱意は俺にはない。

 基本的に欲が少ない人間らしい。

 それが俺。佐藤入間という男である。

 

 いつからこんな生きているだけの屍みたいな人間になってしまったのだろうか。

 子供の頃はもっと好きなこととかやりたいこととかいろいろあった気がするけど……。

 残念なことにあまり思い出せそうにない。


 まあ、ここまでくるともうどうしようもないだろう。

 直りようもないし、直そうとも思わない。


 そもそも俺はこんな自分が嫌いじゃないのだ。むしろ好きまである。

 一人だと気楽で入れて、面倒ごとが少ないし、昔と違ってネットがある。

 大抵のことはなんでもできてしまう時代だ。あいにくと娯楽には困らない。


 そりゃ、恋人とかいた方が楽しそうだなあと思う時もある。

 高校生になる前はちょっとくらい期待した。

 もしかしたら恋人とかできて輝かしい青春が遅れるんじゃないか、みたいな妄想をしていた時期もあった。


 でも妄想でしかない。

 俺は人並み以上に努力なんてできないし、頑張って恋人を作ろうとする気力もない。

 そんな奴に恋人ができるはずもない。

 つまるところ、俺は中途半端な人間なのだ。


 俺みたいな中途半端な人間はきっと今みたいにぼーっと生きて死ぬんだろう。

 適当な大学に進学して、普通の企業に就職して、特に恋愛もすることなく、そのままお陀仏。

 なんてことない普通の人生。

 うん、悪くない。


 そんな未来を想像しながら、俺は毎日を過ごしていた。変わらぬ日常。平穏な生活。

 俺はそんな日々に満足していた。


 ――――だからこんなことになるなんて、俺には想像もつかなかった。


「……え?」

 

 体を起こしてみる。

 目の前に光景に驚きを隠せない。

 広がるのは暗闇である。辺り一面が真っ暗闇で、何も見えない。


「どこだよ……ここ」


 俺はたしか、いつも通り学校から帰ってきて、ご飯を食べて……それから家で寝たはずだ。

 で、目が覚めたら、この場所だった。


「なんだこれ。どうなってるんだ……」


 深く眠りすぎて、寝ぼけているんだろうか。それとも夢のなかなのか。

 俺は少し自分の頬をつねってみる。

 ……うん、普通に痛いな。


「夢じゃないってことか」


 どうやら俺は超常現象に巻き込まれているらしい。

 どうなっているんだ。

 なんか異常なまでに寒いし。


「って俺裸じゃん」


 寒さに耐えきれなくなり、体を触ってみると、不思議なことに服を着ていなかった。

 上だけかと思い、触ってみるが、残念ながら下も履いていないらしい。

 なんでフル〇ンなんだよ。せめてパンツくらい着ててくれよ。


「さっむ……」


 座っている場所もかなり冷たい。冬場にある綺麗な石に座った時と同じ感触。ケツが冷た過ぎる。

 俺は勢いよくその場から立ち上がった。

 裸のせいでなんか変な気分だ。スースーして気持ち悪い。俺は裸族じゃないってのに。


「まずどこなんだよここ。俺確かに家で寝てたはず、だよな……?」


 そんなことを言っていると目がだんだんと慣れてくる。

 暗闇過ぎて何も見えなかったその場所も断片的でほんの少しだけだが、見えてきた。


「洞窟の中……?」


 かなり大きい場所。奥が見えなく、壁がでこぼこに広がっている。入ったことはなかったけれど、どう見ても洞窟にしか見えなかった。

 周りを探ろうと、下を向くと、変な幾何学模様の石板みたいなものが微かに見えた。

 宗教的なものだろうか。なんだか不気味な感じ。この石板が冷たい原因の正体だったらしい。


 怪しい洞窟。

 不気味な石板。

 そして、裸の俺。

 

「あれ……もしかして俺……」


 そこで俺は一つの結論にたどり着く。


「……誘拐されてね」


 誘拐。

 それしか思いつかない。


 寝ている間に誘拐されて、この暗い洞窟内に閉じ込められていた。

 この幾何学模様は誘拐犯が信仰している宗教的なもので、服を着ていないのは俺という商品としての価値を見定めるため……?

 そう考えると辻褄が合う……気がする。


「一大事じゃねーか!?」


 おいおいおい、この平和なご時世に誘拐とか笑えないぞ。

 明日にはネットニュースデビューしちゃっているかもしれない。

 俺は体をねじりながらスマホを探す。


「ってスマホもない……か」


 連絡手段も取られている。

 家族が警察に知らせていればいいけど。


「……どうなるんだ、俺……」


 心臓の鼓動が高なる。

 金持ちじゃない俺を誘拐する時点で、身代金目的じゃないだろう。

 生きたままどこかに売り渡されるか、そのまま殺されて臓器の売買に使われるか。

 それくらいしかイメージが着かない。


「……どっちにしろ終わってる」


 考えるだけでおぞましい。

 俺がなにしたっていうんだ。平和に、普通に、平凡な毎日を送っていただけなのに。

 あまりに酷い仕打ちだ。

 

 怖い。

 ふざけないでほしい。

 俺は死にたくない。


 冷静さが一気に失われていく。

 焦り、不安、恐怖。

 ネガティブな感情の渦が体中を巡っていく。


「落ち着け……こういうときはまず冷静に……焦ったら、終わりだ……」


 普通じゃない出来事。

 いつもとは違うイレギュラー。

 苦しい。緊張で頭がおかしくなりそうだ。


「落ち着け……落ち着け……!」


 体をたたいて、無理やり深呼吸をする。肺に酸素を無心で送っていく。

 何度か呼吸をして、少し落ち着いた。

 緊張がほんの少しだけだけど、消えていく。

 

「……まずは冷静に考えろ。この状況を打開するために、考えないと……」


 頭をフル回転させる。

 大して頭はいい方ではないが、考えないと始まらない。


 監視カメラ大国の日本で、誘拐をするなんて犯人はかなりの手練れのはずだ。

 ましては家のなかで誘拐なんて必ずどこかで足が着くはず。

 そのうえ、俺が起きてるってのに、犯人が来る気配がない。

 この洞窟、出口が閉じられてたりするのかもしれない。

 そもそもこれが誘拐じゃなくて別の事件に巻き込まれている可能性だって……。

 

 考えがまとまらない。

 いろんなことが次から次に思いつく。わからないことだらけだ。

 家族が助けを呼んでいるとして、俺がここからする選択肢は……。 

 

「まずはここから離れてみるのが、先決か」


 見渡す限りとてつもなく広い洞窟。

 足で軽く音を鳴らしてみると、かなり音が広がっていった。

 どこまで続いているのか予想がつかない。

 この広さの洞窟に閉じ込めるとは、誘拐犯も何を考えているのだろうか。


「……」


 俺は固唾を飲んで、ゆっくりと壁伝いに歩いていく。

 怖くて足が震える。俺は足をつねって無理やり震えを止めた。


 一歩一歩踏み出していく。

 進むたびに足に激痛が走る。

 硬い岩の感触。裸足なのがあまりにも辛い。服もないせいで体が冷えて仕方ない。

 せめて靴とか服があればいいのに……。


「まあ考えても仕方ないか」


 あまり寒さとかは考えないことにする。

 気にしている方が余計に感じるからだ。

 どこかの本でそういう心理効果があったみたいなのを読んだ気がする。


 そんなバカげたことを考えていたからか、さっきのような恐怖は少し薄れていた。

 周りがある程度見えてくる。

 よく考えてみると、この状況は不可解としか思えない。

 こんなでかい洞窟に置き去りにするとは考えにくいし、見張りもいないなんて逃げられるに決まっている。

 誘拐の可能性は低い気がしてきた。何か別の事件に巻き込まれているような……。


「わからん……」


 ふと、家族の顔が思い浮かぶ。

 心が安心した。

 寂しい。早くここから脱出して父さん母さんに会いたい。

 こんなに家族に会いたいと思うなんて小学生の頃以来だ。


「俺って家族に支えられていたんだな……」


 一人の方が気楽だし、どうでもいいと思っていたけど、鬼気迫る状況で思い浮かぶのは家族の顔。

 無意識にどこかで家族に支えられていたのだ。

 帰ったらちゃんとお礼を言わないと。


「にしても……広すぎるだろ。あんまり変わってる感じしないな」


 軽く歩いてみたけど、景色が一切変わらない。

 暗闇で見えないせいもあるだろうけど、それにしたって一緒だ。

 無限にループしている感じがして怖い。

 そんな時だった。


「ん……? 音……?」


 かなり遠くの方で何やら音が聞こえてきた。

 

「……」


 一気に呼吸が荒くなる。心臓がバクバクと震えだす。

 俺は恐怖する体を必死に抑えて、音のする方へ近づいていく。

 声を出さないように口元を手で押さえつける。


 進むにつれて音の正体がわかってくる。

 地面を擦る音、風を切る音。そして、何かがぶつかる音。


 確実になにかがいるであろう音だった。

 人なのか生き物なのかわからないけれど、喧嘩しているっぽい。

 声が聞こえないから生き物かもと思いながら、俺は慎重に奥へと進む。

 すると、先に光が見えた。

 俺はその光を目掛けてゆっくりと足を動かし、それを目にした。


「なんだあれ……イノシシ……とウサギ?」


 そうとしか見えなかった。

 イノシシと、ウサギが喧嘩しあっているようにしか見えない。


 だが、図体がおかしい。

 あまりにも――――大きすぎる。

 俺の知っているウサギは両手で収まるくらいだが、そこにいるのはその十数倍。俺の体よりも少し大きいくらいだった。

 イノシシの方も尖った角が生えていて、それを軸に戦っている。


「なんだこれ……」


 見たことのない光景に俺はあっけに取られていた。

 ぼーっとしている間に喧嘩の火種は加速する。


 ウサギが手を動かすと、斬撃みたいなものが飛び出す。

 その斬撃をイノシシが避けると、そのまま壁に激突し、穴が開いた。細長く深い跡が残る。

 あんなのに当たったらひとたまりもなさそうだ。


 ウサギは無尽蔵に手を振り、斬撃の雨を降らせた。

 無限ともいえる攻撃が、イノシシ目掛けて飛んでいく。

 イノシシは高速で走り出し、幾度となく降り注ぐ斬撃を避けつつ、そのまま突進。

 ウサギは当たる寸前のところで空中へと飛び、上空から斬撃を飛ばした。

 避けきれなかったイノシシから苦しそうな嗚咽の音とともに、血しぶきが飛び散った。

 苦しそうに一瞬、動きを止めたものの、すぐに動き出し、落ちてくるウサギにダイブする。

 その瞬間、爆発が起こり、ウサギが壁へ飛んで行った。


 俺はその光景を見ながら、固唾を飲んだ。

 喧嘩なんて生易しいものじゃない。

 これは生存をかけた正真正銘の殺し合いだった。


「……は?」


 さながら異能力バトルみたいだと俺は思った。

 手を振るだけで斬撃が飛び出し、あり得ない高さまでジャンプできるクソデカウサギ。

 突進するだけで爆発する角のあるイノシシ。

 漫画やアニメでしか見たことのないキャラクター。

 俺は一つの可能性に気が付く。

 

「いや、本当に異能力バトルなんじゃ……」


 こんなのはあり得ないと心で思う。

 その可能性を必死に否定したくて仕方がない。


「もしかして俺って」


 でも呟かずにはいられなかった。


「異世界転移しちゃってる……?」


 ありえない現実を直視しながらそう呟いた。

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