『ハーレムラブコメのハーレム要員の一人に転生したのでハーレム抜けます。おつかれした!』
リハビリ作。本作はメタコメディであり、ハーレム自体を否定するものではありません。というか、作者もハーレムもの書いてます。あくまでこういう人もいそうだなコメディです。
「わたし、ハーレム抜けるね」
そう言って私、桜井桜は『彼ら』に背を向けて去っていく。
「お、おい! 桜! ハーレム抜けるってどういうことだよ!?」
幼馴染であり『この作品』の主人公である瀬戸水樹が声をかけてくるが振り返らない。いや、振り返りたくない。だって……女の子4人とくんずほぐれつのあられもない団子状態になっているから。
今日、私はハーレム要員をやめた。
『嘘告で騙された俺の周りの百花繚乱なヒロインたちがなぜか全員俺を好きすぎてハーレムを勝手に作り上げてちゃってるんだが』
この長いタイトルは、『前の世界』の幼馴染、『今の世界』の瀬戸水樹とは違うリアルにさえない幼馴染男子が読んでいた作品。
そう、私はこの世界に転生か何かしたらしい。なんで死んだのかとかはよくわからない。だけど、間違いなく、記憶があるのだ。前世の記憶。
この作品を覚えている。主人公であるさえない男子高校生『瀬戸水樹』が、ざまぁポジションである『葛原和子』の嘘告で遊ばれていたことを告白され絶望の淵に落とされる。そして、葛原に瀬戸水樹がフラれたと分かった瞬間、美少女たちが瀬戸水樹に迫り始めるという話。
前おさ(前世の幼馴染の略)は楽しそうに読んでいたし、私も葛原のざまぁ展開はストレス解消な感じにはなっていた。
だけど、まさかそんな世界に、しかも、幼馴染ポジションで転生するとは聞いていない。
前世の記憶がよみがえったのは3日前のこと。
嘘告で絶望している瀬戸水樹を救う為に、記憶が戻る前の私、桜井桜は毎日の登下校を一緒にすることを提案。その初日の登校時に、瀬戸水樹と唯一仲のいい男友達が勢いよく挨拶してきたタイミングで瀬戸水樹よろける、支えようとした私ともつれあって倒れこむ。その衝撃で記憶よみがえる、というわけ。
「いたたた……」
そして……なぜか私のスカートの中に瀬戸水樹の顔。
確か原作では、顔を真っ赤にした桜井桜が、
『も、もう! なんで私のスカートの中に顔つっこんでんのよ! みずくんのばかっ! ……そういうのは二人きりの時なら見せてあげるのに……!』
『え? な、なんだって?』
という流れ。だが、記憶を取り戻した私は、
「ぎゃああああああああああああああ! 何だてめえええええ! 変態っ!!!!!」
「な、なんでぇええええええええ!? ぶげえええええええ!」
と、しゃかしゃかと離れ思い切り蹴り飛ばした。
いや、だって、普通に考えれば『どうやったらそんな風になるねん』である。まあ、前おさの持ってるラブコメ漫画は大体そうだったからお約束なんだろうけど、じゃあ、自分がやられて仕方ないと終わらせられない。
だって……普通にいやじゃない?
仮に、大好きな人でも倒れてきてスカートの中のパンツに顔つっこんでるのは、私的にはキツイ。
そして、この女、桜井桜の激重感情による奇行と前世私の価値観による激闘が繰り広げられた。まあ、『お約束』と『一般常識』のダブルスタンダード的なアレである。
フィクションとして見てる分にはいいけどリアルだとキツい的な。
死ぬほど注意力と学習能力のない瀬戸水樹に対して魅力を私はあまり感じなかった。
瀬戸水樹は、家事全般は姉によってプロ級とか喧嘩も従姉に鍛えられ空手黒帯とかテストは目立ちたくないから平均点とってたけど本気出せば全国模試一位とかVtuberをやってて人気もお金もあるとかなんかすごい色んな実力を実は持っていた。それに、冴えないといわれるが外見はそれなりにいい。ていうか、瀬戸水樹の周りの男子はバランス調整でちょっと不細工に描かれてるし、ざまぁイケメン枠は鼻につくビジュアルなので相対的に瀬戸水樹イケメンじゃんというビジュアル。要は、実はハイスペック男子、なのだが……好きになれない。
性格が……単純に合わない。
女の子のことをすごい察するくせに、一夫多妻でもない現代社会に似た世界観の中で負けヒロインのことを考えていないように見える。『ちゃんと君のことを考えたい』と決断を先送りにするが女子高生の1、2年間をなんだと思っているんだと私は思ってしまう。
それと、本当に申し訳ないのだけど、ハイスペックを成立させるためのストイックすぎる生活が怖すぎるし、一緒に過ごせないと思った。だって、家事も毎日してVtuberの配信をして学校も行って家族サービスもしているし、トレーニングもしている。勉強は学校ので十分らしいけど、普通に怖い。あと、それだけの力あるのにエロハプニングについて学習しないのがわざとに見えて怖すぎる。
なので、私は決めた。
「よし、私は辞退しよう」
別にヒロインは他に11人いるのだ。確か、一巻では最初に、5人。幼馴染と、義姉妹とハイスペック先輩と悪戯好きな後輩。それからどんどんと増えていって私の記憶にあるのは12人のヒロイン。一巻毎に2~3人増えていくのでまだまだ増えていくだろう。
であれば、十分じゃない?
というか、私自身もあまりヒロインレースに加わりたくない。競い合うのもしんどいし、仮に瀬戸水樹の正妻の座を得ても、他のヒロインが悲しそうなのを見たくはない。
そう決めてからの私は苦難の連続だった。
出来るだけ瀬戸水樹との接触を減らす日々の中でトラブルが起き続けた。特に、校門周りと階段、教室の出入り口は事故多発地帯、要はエロハプニング発生ポイントなのだ。
『うわああああ!』
『あっぶねえ! なんで毎日てめえは男友達にふっとばされて転がってくるんだよ! 空手黒帯!』
『え、えええええええ!?』
『ええ! はこっちのセリフだよ! 階段から落ちてくんな! 死んだらどーする! 死にも鈍感系主人公か!』
『って、え!?』
『……毎日よそ見しながら教室に入ってくるってどういう神経してんの? 絶対に自動車免許とらないでね。あと、LU●Pのるなよ』
気づいた。
私、普通にコイツ嫌いだって。
何度でも言おう。フィクションならまあ許せる。だが、当事者はキツい。
なので、私は抜けることにした。このハーレムを。
なのに、
「ねえ、桜ちゃん。なんであんなこと言ったの?」
ハーレム展開が私を離そうとしない。瀬戸水樹の義姉である瀬戸百合さんがやさしい声でハーレム脱退宣言をした私を追いかけてきて話しかけてきた。
「もしかして、わたしたちに遠慮してあんなこと言ったの? そんな必要ないのよ。わたしたちはみっくんが大好きなことから目を背ける必要がないの。それで正々堂々勝負して負けたらすっぱりあきらめる。それでいいと思うの」
包容力を感じるやさしい声の百合さん。だが、違う。そうじゃない。
普通に私はいい。入りたくない。
なので、私は包み隠さずにいう。
「あ、大丈夫です。本心なので」
「え?」
あいまいにすると勘違いが始まる。そう思った私は包み隠さずに伝える。
「ええと……弟さんは確かにすごいと思います。だけど、私にはちょっと合わないといいますか……その……なんかよくぶつかってきたりするじゃないですか。しかも、毎回大体胸かお尻か、それか……その股間、ばかり手か顔が行ってて……あの、あー……もう正直に言うと生理的に無理というか。あ、それは彼だけでなく誰にされても、です。もちろん、そういう雰囲気の時に好きな人に触られるのはいいんですけど、普通にいやなんですよね。私としては。で、なんかそういうのをわかってないじゃないですか、彼は。私にこうされて喜ばぬものはいなかった的な雰囲気を感じるといいますか、なんか常識が違うんですよね、私と。皆さんはそうじゃないというのはもちろん理解しています。それでもいいと思います。それでいいなら。あとは、その、目立ちたくないから実力を隠すのも別にいいんですけど、結局隠してないんじゃんというか、結局出すんかい、と……。あと、Vtuberの中の人であることも普通に話しちゃってるというか……それもちょっと私個人としてはちょっと……で、個人的にです。あくまで、はい……あと、私はずっと返事を待たされるぐらいならもっと女子高生の間にいろいろ恋とかしたいな派なので……」
思いがあふれ出てしまった。
だけど、百合さんが言ったのは……
「たしかに……」
だった。
すっごい目からうろこみたいな顔してた。
そして、ここから物語は動き出す。
この物語は、本来ハーレムラブコメになるはずだったのに、ヒロイン達がハーレム主人公から離れそれぞれの幸せを失敗とか色々しながらつかみ取っていく。そんな話。
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