131話:ブラックドラゴン、歓迎
当然、そんなことを言われているとは思いもしないブラックドラゴンは……想像しろというのも無理な話だが……ようやく浮遊島を見つけていた。
(アレがそうか……! しかし、なんという巨大な島だ!)
当然ブラックワイバーンから聞いてはいた。しかし、だからこそ半信半疑ではあったのだ。
何かが浮くというのは言うまでもなく魔力を消費する行為だ。
それ故に飛行魔法というものは魔力に愛され魔力に選ばれた者だけの特権だ。
そしてそれは大きくなればなるほど困難になる。ドラゴンの巨体が飛べているのはドラゴンが比類なき魔力を持っているからであり、そこから比較して……この巨大な浮遊島の持つ魔力はどれ程凄まじいものなのだろうか?
だから、欲しいと。ブラックドラゴンは消え失せていたと思っていた自分の欲を強く感じるのだ。
問題はない。あの浮遊島にいる者共を軽く焼き払ってしまえばいい。それで掃除は終わる。
ドラゴンブレスを吐こうと考えた、その矢先。浮遊島の底部近くに、何かがズラリと現れた。
巨大で美しく磨かれた球状のそれは……間違いなく魔石。だが、その輝きは魔力の充填だ……!
なんという速度だろう、一瞬で充填を終えた魔石から魔力の光線が湾曲しながら放たれる!
「馬鹿な! 湾曲光線だと!? 光の魔力をそこまで強く支配下に置いているというのか⁉」
威力も凄まじい。ブラックドラゴンの竜麟で感じるこの湾曲光線の群れは、一発でもブラックワイバーンの群れを貫いていくだろう。だが、何か違和感がある。手加減でもされているかのように魔石の大きさと充填された魔力から計測できる威力と比べ、これは威力が不自然に低い。
(牽制? 我にか? 舐めおって……ワイバーンは殺せても我の鱗には傷もつかんわ!)
そう考えた瞬間、第二撃、大三撃、四、五、六、七、八……息もつかせぬ連続射撃が行われる。
マトモに相対すれば避けきれないような、けれど上手く避けられるようなルートが設定されているような気もする、そんな不可思議な超連撃。
なおその予想は当たっていて、白猫コアは「弾幕ゲームだフハハー!」と笑っている。こんなもの、白猫コアにとっては歓迎の挨拶代わりでしかない。その気になればブラックドラゴンの想像する最大値など遥かに超えた威力でこの連撃を放てるのだから。
「くっ、クソが! まさか遊びのつもりか!? 我を相手に!?」
無視するには光線の数が多すぎる。傷がつかなかろうと、わざわざ当たりたいとはブラックドラゴンも思わない。だが、その光線もしばらくたつと急にピタリと止まる。
「魔力切れ、か……?」
当然違う。湾曲光線が止むと同時に、何やら馬ほどにデカい鳥が三羽飛んでくるのをブラックドラゴンは見た。鳥のくせに夜目がきくということは魔力を持つモンスターだろうが……上に人間が乗っている。
(召喚魔法というやつか? 確かにあったな、そんな魔法が)
だが問題はない。所詮は鳥だ。先程のアホが考えたみたいな光線の群れに比べれば大分現実的だからだ。
「ホーッホッホッホ! ごきげんようブラックドラゴン! こんな夜中にどのようなご用件か伺ってもよろしいかしら!?」
その真ん中にいる少女は鳥の上に仁王立ちして笑っているが……あの偉そうな態度からすると魔法学園ヤマダの主なのだろうか? まさか生徒ということはないだろう、あの態度で。
「……なんだ貴様は」
「問われれば答えるのが世の仁義!」
細身の眼鏡男が立ち上がる。
「ならばこの名を伝えよう」
筋肉質の男が続けて立ち上がる。
「フルム!」
「ホラン!」
「「そして……こちらにおわすは我等がお嬢様!」」
「ヘンリエッタ・ドリルですわ! ホーホッホッホ!」
「馬鹿トリオか」
「ちょっと! 私をそこに加えるのは許しませんわよ!」
「となるとお嬢様が私たちのリーダーですし……バカリーダーってことに?」
「まあ、昨日靴下が左右で違ったしな。バカリーダーかもしれん」
「お黙り、バカの右大臣左大臣!」
「こっちで右大臣とか通じるんですかね?」
「いるらしいぞ、右大臣左大臣」
「そうなんですね。ならお嬢様は……」
「とーにーかーくー!」
即座に脱線していくフルムたちを大声で黙らせて、ヘンリエッタはブラックドラゴンに指を突き付ける。
「来訪目的を明かしなさい! それによっては歓迎しないことも無くてよ!?」
「……」
隙がない。ブラックドラゴンはそれをしっかりと感じ取っていた。
先程から漫才をしているように見える三人だが、ブラックドラゴンがブレスを吐こうとすれば即座に何らかの対応を出来るくらいにはブラックドラゴンを警戒していた。ヘンリエッタたちがそれなり以上の強者であることを、理解できてしまうのだ。そう、会話の価値があると思える程度に。
「その浮遊島を貰い受けに来た。魔法学園とやらは今日で閉園だ」
ヘンリエッタのドリル髪が揺れる。ピリッとした空気が流れる。臨戦態勢から戦闘態勢へ。空気だけで感じられる変化と、ヘンリエッタの手元の槍が手慣れた手つきでヒュンと回転する音。
「……よろしくてよ。では予定通り、ボッコボコにして差し上げましてよ」
「出来るとでも?」
「当ぉ然ですわ! いきますわよ、二人とも!」
「「ラジャー、バカイザー!」」
「後で覚えてらっしゃい!」




