第9話 未完成の勝利
【損傷率:61%】
数字が、ゆっくりと上がっていく。
だが同時に、球体の脈動も強まっていた。
【魔力供給量:増加傾向】
「……回復が早くなってる」
ミレイが冷静に告げる。
確かに、さっきまでより亀裂の修復が速い。
「削り切る前に再生が上回る可能性あり」
ログが淡々と突きつける。
「つまり長期戦は不利ってこと!?」
リリナが叫ぶ。
「その通り」
レオンが短く答える。
守護体が跳ぶ。
球体が強く光る。
「来る!」
俺は叫ぶ。
「左上、次は縦!」
レオンが受け、リリナが横から斬る。
【損傷率:68%】
だが、その直後。
守護体が後退せず、連続攻撃。
「連撃!?」
黒刃が三連続で振るわれる。
レオンが一撃を受け損ね、吹き飛ばされる。
「レオン!」
リリナが庇う。
守護体の刃が彼女の肩を裂く。
血が飛ぶ。
【味方損傷:中】
「くっ……!」
リリナが歯を食いしばる。
守護体は止まらない。
球体が強く脈動する。
【供給量:最大値更新】
まずい。
供給が増えている。
削れば削るほど、強くなる?
「カイル!」
ミレイの声。
「供給パターンが変わった!」
ログを確認する。
確かに。
攻撃直前だけではない。
一定周期で強く脈動している。
【周期供給 検出】
「……学習してる?」
いや。
違う。
これは――
「第二段階だ」
損傷率が六割を超えたことで、モードが変わった。
守護体が再び消える。
今度は、三方向から同時に気配。
残像ではない。
「本当に分身……?」
ミレイが息を呑む。
【敵数:判定不能】
未来が、見えない。
さっきまでの断片的な予測が、途切れる。
「くそ……!」
黒刃が迫る。
俺は避けるが、間一髪。
床が裂ける。
レオンが立ち上がる。
「撤退も選択肢だ」
「まだ削れてる!」
リリナが叫ぶ。
だが肩から血が流れている。
ティナが回復を施すが、魔力は限界に近い。
【味方魔力残量:低】
焦るな。
状況を見ろ。
守護体は六割損傷。
だが第二段階に入った。
供給増加。
分身。
予測不能。
成功率を算出する。
【撃破成功率:12%】
低い。
無理をすれば、全滅。
未来の断片が、また一瞬だけ見える。
リリナが倒れる。
レオンが守りきれない。
ミレイが潰れる。
俺が最後に立つが、何もできない。
嫌な未来。
確率は低いが、存在する。
「……撤退」
口から言葉が出る。
「え!?」
リリナが振り向く。
「今は無理だ」
「でも!」
「データは取れた」
守護体の第一段階。
供給タイミング。
第二段階の発動条件。
全部、ログに刻まれている。
「次で崩す」
レオンが俺を見る。
「逃げるのか?」
「違う」
俺は守護体を睨む。
「勝つために下がる」
黒刃が迫る。
「全員、退路確保! ミレイ、氷壁!」
氷が広がる。
「リリナ、煙幕!」
炎と蒸気が混ざり、視界を覆う。
「ティナ、全力回復は後回しでいい!」
「……うん!」
レオンが最後尾で斬り払い、階段へと道を作る。
俺たちは一気に駆け上がる。
背後で、守護体の気配が追う。
だが階段を越えた瞬間、気配が止まった。
第七層との境界。
そこから先へは、出てこない。
息を切らしながら振り返る。
暗闇の奥で、球体が淡く光っている。
【戦闘終了】
【守護体損傷率:71%】
七割。
未完成だが、確実に削れた。
リリナが悔しそうに拳を握る。
「あと少しだったのに……」
「違う」
俺は首を振る。
「あと少しじゃない」
「え?」
「第二段階が本番だ」
ログを開く。
【第八層守護体 解析データ保存】
【第一段階 行動パターン確定】
【第二段階 条件:損傷率60%以上】
【供給周期:3.4秒】
読める。
次は読める。
未来の断片も、さっきよりはっきりしていた。
【戦闘解析ログ 進化】
【未来予測精度:微上昇】
わずかだ。
だが、確実に。
レオンが静かに言う。
「今日のは敗北だ」
「違う」
俺は即答する。
「これは、未完成の勝利だ」
守護体は七割削れた。
第二段階も確認。
供給周期も特定。
未来予測も強化。
理不尽ではない。
崩せる。
「次で終わらせる」
リリナが笑う。
「やっぱり行くんだね」
「当然だ」
ミレイが頷く。
「今度は準備を整える」
ティナが小さく手を上げる。
「……おやつ、前払いで」
「分かった」
少しだけ笑いが戻る。
第八層。
未知の領域。
解析不能だった敵。
だが今は違う。
データがある。
理論がある。
そして。
ほんの少しだけ――
未来が見える。
未完成の勝利。
それは、努力型の主人公にとって、
最も大きな一歩だった。
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