第8話 解析不能という名の壁
黒い守護体が、音もなく滑る。
速い。
だが――さっきより、わずかに“見える”。
【行動パターン 仮記録:三種】
【突進/上段斬撃/横薙ぎ】
完全ではない。
だが、ゼロではない。
「右来る!」
俺の声に、レオンが反応する。
剣と黒刃がぶつかる。
衝撃で空気が震える。
「重い……!」
レオンが歯を食いしばる。
リリナが横から斬り込む。
炎が弧を描く。
だが守護体は半身をずらし、最小限で回避する。
【回避率:高】
「当たらない!」
「焦るな!」
ミレイの氷弾が連続で撃ち込まれる。
床が凍り、移動軌道が限定される。
守護体の動きが一瞬だけ鈍る。
【移動制限成功】
「今だ、リリナ!」
「任せて!」
炎剣が直撃する。
黒い外殻に亀裂。
だが、浅い。
【損傷率:推定12%】
「硬すぎる!」
守護体が後退し、中央の球体へと距離を取る。
球体が強く脈動する。
【魔力供給確認】
「……回復してる」
ミレイが呟く。
確かに、亀裂がゆっくりと閉じていく。
【再生能力 確認】
「厄介だな」
レオンが低く言う。
「本体はあの球体か?」
「分からない」
だが、関連はある。
ログが必死に解析を続ける。
【球体—守護体 魔力リンク検出】
「繋がってる」
「じゃあ、球体壊せばいいんじゃない!?」
リリナが叫ぶ。
「待て」
直感で止める。
さっき、未来が一瞬見えた。
球体に近づいた瞬間。
空間が歪む映像。
全滅の未来。
息が荒くなる。
「カイル?」
「球体は罠だ」
「根拠は」
「……ない」
だが、感覚が警鐘を鳴らしている。
ログが震える。
【未来予測精度:不安定】
「理論家にしては曖昧だな」
レオンが言う。
「今回は理論じゃない」
未知すぎる。
第七層は“設計された敵”だった。
だが、これは違う。
守護体が再び消える。
今度は、同時に二方向から気配。
「分裂!?」
「違う、残像だ!」
リリナが振り向きざまに斬る。
空振り。
背後から衝撃。
リリナが吹き飛ばされる。
「リリナ!」
レオンが割って入る。
守護体と斬り結ぶ。
剣速は互角。
だが、防御が硬い。
【行動パターン更新】
【攻撃間隔:不規則】
予測が追いつかない。
未来視のような感覚も、断続的だ。
「……くそ」
焦りが胸を締める。
努力で崩せる敵か?
それとも――
守護体が跳ぶ。
天井。
急降下。
レオンが受け止めるが、膝が沈む。
「重い!」
「出力上げるな!」
俺は叫ぶ。
レオンが最大出力を使えば、球体の供給も上がる。
その瞬間。
気づく。
球体の脈動。
守護体が攻撃する瞬間だけ、強くなる。
「……そうか」
「何!?」
「供給は常時じゃない」
攻撃動作に合わせて、瞬間的に出力が跳ねる。
【魔力供給タイミング:攻撃直前】
「攻撃前に球体が光る!」
「だから!?」
「その瞬間が、守護体の隙だ!」
供給が外部へ集中する。
つまり、内部は一瞬だけ薄くなる。
「リリナ、次の光で最大!」
「分かった!」
守護体が後退。
球体が強く脈動。
「来る!」
黒刃が振り下ろされる。
同時に、球体が閃光。
「今だ!」
リリナの炎剣が、守護体の胴を貫く。
レオンが追撃。
黒い外殻が大きく割れる。
【損傷率:37%】
だが、守護体はまだ立つ。
球体が再び脈動する。
「連続は無理だ!」
「一回ごとに削る!」
ミレイが冷静に言う。
「供給の瞬間を狙うしかない」
つまり。
これは持久戦。
速くて硬くて再生する敵。
だが、完全無敵ではない。
パターンはある。
供給タイミングは読める。
未来の断片も、わずかに見える。
【行動予測精度:向上】
ログが更新される。
解析不能だった表示が、少しずつ数値化されていく。
恐怖は消えない。
だが。
完全な理不尽ではない。
「……いける」
小さく呟く。
レオンが聞き取る。
「何がだ」
「努力が、通じる」
守護体が再び跳ぶ。
球体が光る。
今度は、もっと鮮明に見える。
次の動き。
その次の角度。
ほんの一瞬、未来が重なる。
「左上、次は横薙ぎ!」
レオンが対応。
リリナが踏み込む。
炎が走る。
【損傷率:52%】
半分。
まだ遠い。
だが、確実に削れている。
第八層。
解析不能という名の壁。
だが。
壁なら、崩せる。
時間をかければ。
積み上げれば。
理論と実戦を重ねれば。
守護体の外殻が、さらにひび割れる。
【損傷率:61%】
あと少し。
未知は、未知のままでは終わらない。
俺のログが、それを証明し始めていた。




