第5話 力と理論の衝突
翌日、第七層の前には見物人が集まっていた。
三日間の猶予。その二日目。
レオンが再挑戦するという噂が広がっていたからだ。
「来ると思ったよ」
背後から声がする。
振り返ると、レオンが剣を肩に担いで立っていた。
「検証は終わったのか、理論家」
「終わってない。だから来た」
「奇遇だな。俺もだ」
軽い笑み。
だがその目は本気だ。
「今日は単独だ」
「やめろ」
即答だった。
周囲がざわつく。
レオンの眉がわずかに動く。
「命令か?」
「警告だ」
「理由は?」
「昨日より暴走率が上がっている。力で押せば、炉が完全崩壊する」
「それで止まるなら問題ない」
「止まらない」
俺はログを開く。
【暴走確率:42%】
「崩壊した場合、第七層全域に魔力逆流が起きる。最悪、上層にも影響する」
「証拠は?」
「昨日の波形」
端末を見せる。
レオンは無言で目を走らせる。
周囲の生徒は理解できず、ただ空気を読む。
「……可能性はあるな」
「あるじゃない。高い」
「だが、放置もできん」
「だから理論で止める」
沈黙。
リリナが前に出る。
「レオン。今回はカイルのやり方でいこうよ」
「お前まで理論派か?」
「違う。でもさ」
リリナは剣を握る。
「昨日、背中開いたの見たでしょ?」
「見た」
「カイルが言わなきゃ気づかなかった」
レオンは視線を俺へ戻す。
「成功率は」
「今は19%」
「低い」
「だが上げる」
「どうやって」
「二段階干渉」
レオンは一瞬考え、やがて息を吐いた。
「いいだろう」
「え?」
リリナが驚く。
「三分だけ時間をやる。その間に兆候が出なければ、俺がやる」
「……分かった」
譲歩だ。
意外だった。
だが、これがチャンス。
◇
第七層。
空気が昨日より重い。
ゴーレムの胸部炉が、強く明滅している。
【暴走確率:45%】
時間がない。
「配置」
短く指示。
リリナ前方。
ミレイ左。
ティナ後方。
レオンは距離を取って見守る。
「まず背部炉を揺らす」
俺は深呼吸する。
「ティナ、逆位相。出力抑えめ」
「……やる」
淡い光が広がる。
今度は安定している。
【背部炉周波数:5.08】
「ミレイ、冷却は一瞬でいい」
「了解」
氷の霧が背部を包む。
ゴーレムが反応する。
回転攻撃。
「右!」
リリナが躱す。
背部装甲が開く。
「今、逆位相最大!」
ティナの魔力がぶつかる。
背部炉がわずかに揺らぐ。
【位相ずれ:0.03】
「足りない!」
「次!」
ゴーレムの拳が振り下ろされる。
地面が裂ける。
レオンが一歩前に出る。
「まだだ!」
俺は叫ぶ。
「リリナ、胸部に三割!」
「了解!」
炎剣が叩き込まれる。
胸部炉が発光。
背部炉が引きずられる。
【位相ずれ:0.07】
「もっと!」
「無茶言うな!」
暴走波形が跳ね上がる。
【暴走確率:51%】
やばい。
時間がない。
レオンが剣を構える。
「終わらせるぞ」
「待て!」
俺は叫ぶ。
「あと一回!」
「根拠は」
「波形が重なり始めてる!」
確かに、わずかだが二炉の波が干渉し始めている。
あと一押し。
「ティナ、限界まで出せるか!」
「……ちょっと、きつい」
「頼む!」
ティナが目を閉じる。
魔力が膨れ上がる。
背部炉が大きく揺れる。
【位相ずれ:0.12】
「リリナ!」
「いくよ!」
炎が轟く。
胸部炉が閃光を放つ。
二つの波が、ぶつかる。
キィィィン――
甲高い音。
ゴーレムの動きが止まる。
胸部と背部、両方が明滅。
【干渉率:62%】
「まだ足りない……!」
次の瞬間、暴走波が弾けた。
衝撃。
全員が吹き飛ばされる。
床に転がりながら、俺はログを見る。
【成功率:19% → 24%】
「……上がった」
だが、停止には至らない。
ゴーレムが再起動する。
レオンが静かに立ち上がる。
「時間だ」
剣を構える。
圧倒的な魔力。
「理論は面白い。だが未完成だ」
「……分かってる」
悔しさが込み上げる。
もう少しだった。
だが、足りない。
レオンが踏み込む。
剣閃が走る。
凄まじい衝撃。
胸部装甲が大きく割れる。
ゴーレムが崩れ落ちる。
だが――
背部炉が異常発光。
【暴走確率:68%】
「まずい!」
レオンも気づく。
「止まっていない……!」
魔力が膨張する。
天井が軋む。
俺は立ち上がる。
「まだだ!」
「何をする!」
「干渉を完成させる!」
成功率24%。
低い。
だが、さっきより高い。
「全員、もう一回!」
リリナが笑う。
「無茶ばっか!」
「付き合う?」
「当たり前!」
ミレイが頷く。
「理論は途中で投げない」
ティナがふらつきながらも立つ。
「……おやつ五倍」
「約束する!」
レオンが一瞬迷い、やがて剣を下ろした。
「……やれ、理論家」
全員が再び位置につく。
暴走寸前。
時間はない。
だが。
今なら。
【成功率:24%】
まだ低い。
だが、確実に上がっている。
力と理論が交錯する中。
俺は確信していた。
あと一歩だ。




