第3話 首席の宣言と三日間の猶予
翌朝。
学園の中央広場は、妙な熱気に包まれていた。
「聞いたか? 第七層のゴーレムが不安定化してるらしい」
「昨日、レオンが単独で挑んだって……」
「え、マジで? あの未攻略ボスに?」
ざわめきの中心にいるのは、言うまでもない。
レオン・ヴァルク。
朝日を背に、堂々と立つ姿は絵になる。長身、整った顔立ち、無駄のない立ち居振る舞い。いかにも“主人公”という風格だ。
その隣で、俺は人混みの後方に立っていた。
「カイル、前行かないの?」
リリナが小声で囁く。
「行っても意味ない。ああいうのは主役に任せておけ」
「拗ねてる?」
「拗ねてない」
本音を言えば、少しだけある。
だが、あいつのやり方は俺とは違う。
レオンが一歩前に出た。
「昨日、第七層のゴーレムと交戦した」
静まり返る広場。
「胸部コアを破壊。機能停止を確認したが――」
そこで一瞬、間が空く。
「完全停止には至らなかった」
どよめき。
「魔力炉の出力が異常に増幅している。このままでは、模擬ダンジョン全体に干渉する可能性がある」
やはり、だ。
俺の仮説は当たっていた。
コアは囮。本体は別にある。
「学園は三日間の猶予を設けた。三日以内に完全停止させる。できなければ、第七層は封鎖だ」
封鎖。
つまり、未攻略のまま終わる。
ざわめきが強まる。
「俺は再挑戦する」
レオンの声は揺らがない。
「力で押し切る。今度は完全に破壊する」
拍手が起きる。歓声も混じる。
分かりやすい。強くて、迷いがなくて、前に立つ。
羨ましいと思わないと言えば嘘になる。
「……どうするの?」
ミレイが俺を見る。
答えは、決まっている。
「俺も行く」
「え?」
リリナが目を丸くする。
「正面から殴るんじゃない。構造を壊す」
「でも、レオンが力でやるって……」
「だからだ」
力で破壊すれば、内部構造は読めない。
だが、暴走寸前の今なら、魔力の流れが露出する可能性がある。
俺は前へ出た。
「レオン」
周囲の視線が一斉に集まる。
レオンが振り返る。薄く笑う。
「エルドか。昨日は運が良かったな」
「運じゃない。観察だ」
「観察で壊せるなら苦労はしない」
「壊すんじゃない。崩す」
周囲がざわつく。
レオンは一瞬だけ目を細めた。
「どう違う?」
「魔力共鳴を起こす。胸部炉と背部炉を干渉させれば、自壊する」
沈黙。
次の瞬間、誰かが吹き出した。
「は? そんな高度な干渉制御、学生にできるわけないだろ」
「理論だけなら何とでも言える」
分かっている。
俺は強くない。
剣も魔法も、平均以下。
だが――
「成功率は?」
レオンが問いかける。
「現時点で17%」
「低いな」
「上げる」
短く答えると、リリナが俺の横に並んだ。
「やるよ。カイルが作戦立てるなら」
さらに、ミレイも静かに立つ。
「理論検証は嫌いじゃない」
周囲の空気が変わる。
レオンはしばらく俺たちを見つめ、やがて口角を上げた。
「面白い」
挑発でも嘲笑でもない。
「三日だ。好きにしろ。ただし、足を引っ張るな」
「引っ張らない。むしろ止める」
「止める?」
「力任せは暴走を加速させる」
レオンの目が、わずかに鋭くなる。
「なら証明しろ」
「する」
短い会話。
だが、はっきりした。
これは単なる模擬戦ではない。
力と理論の対決だ。
広場が解散した後、俺たちは資料室へ向かった。
模擬ダンジョンの設計図。魔力炉の仕様書。過去の戦闘記録。
机いっぱいに広げる。
「まず、二つの炉の周波数を特定する」
「どうやって?」
リリナが首を傾げる。
「昨日のログから推測する」
視界に浮かぶ記録。
【胸部炉 基準周波数:4.7】
【背部炉 推定周波数:5.1】
「差は0.4。これを0に近づける」
「でも直接触れないよ?」
「触れない。だから外部から共鳴させる」
ミレイが静かに言う。
「私の氷魔法で冷却し、出力を一時的に下げる。そこにリリナの高出力を当てる?」
「違う。逆だ」
「え?」
「先に過負荷をかける。胸部炉に高出力を集中させ、背部炉を引きずる」
リリナがにやりと笑う。
「つまり、私が全力で殴ればいい?」
「殴るな。制御しろ」
「難易度上がった!」
だが、これしかない。
成功率は低い。
だが、試せば上がる。
【新規仮説構築】
【成功率:17% → 19%】
わずかに上昇。
小さい。だが、確実に積み重なる。
その時、資料室の扉が開いた。
小柄な少女が、眠そうな目をこすりながら入ってくる。
「……呼ばれた?」
淡い金髪。ぼんやりとした空気。
ティナ・ルル。
回復魔法科の特待生。
「魔力量が必要だ」
俺は彼女を見る。
「共鳴制御には、安定した魔力供給がいる」
「……いっぱい出せばいいの?」
「そうだ。ただし、精密に」
ティナは少し考え、こくりと頷いた。
「おやつ、くれるなら」
「用意する」
「じゃあ、やる」
リリナが吹き出す。
「軽っ!」
だが、その魔力量は本物だ。
四人揃った。
三日間。
成功率は、まだ20%にも満たない。
それでも。
俺は確信している。
力ではなく、積み重ねで壊す。
未攻略ボス。
そして――
その先にある、第八層。
まだ誰も知らない。
この三日が、学園の運命を変えることになることを。
【戦闘解析ログ 更新】
【共鳴理論 検証開始】
【成功率:21%】
わずかに、だが。
上がった。
なら、まだいける。
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