第29話 設計者は笑う
遠隔干渉成功から、三十分後。
王都主核は安定を保っている。
【主核出力:高安定】
【七核同期率:微増】
だが。
視界の奥に、まだ赤い残滓がある。
「完全停止じゃない」
俺が呟くと、エリシアが頷く。
「向こうは出力を落としただけ」
「実験は中止?」
「いいえ」
彼女の声は静かだ。
「観測は完了したはず」
ルドガーが腕を組む。
「つまり」
「こちらの干渉精度を測られた」
背筋が冷える。
あれは暴走ではない。
“通信”だったのかもしれない。
【帝国側核 微弱反応】
その瞬間。
主核の表面に、赤い線が走る。
「……!?」
「何だ!」
【外部位相干渉 検知】
赤い紋様が、結晶の内部に浮かび上がる。
文字?
いや、術式。
「向こうから……!」
エリシアが即座に解析を始める。
「通信型干渉!」
空間が揺らぐ。
主核の表面に、淡い映像が浮かぶ。
王都地下空間に、異質な影が投影される。
長身の青年。
漆黒の軍装。
金の装飾。
静かな笑み。
年は――俺より少し上か。
「初めまして」
低く、整った声。
「王都の設計者」
地下空間が凍る。
ルドガーが一歩前へ。
「ヴェルクス帝国、第一皇子ゼルヴァイン」
「お久しぶりです、宰相殿」
礼儀正しい声音。
だが目は冷たい。
俺を見る。
「あなたが干渉者ですね」
圧が違う。
魔力ではない。
思考の圧。
「実験都市を止めたのは、あなた」
「止めました」
「見事な位相操作でした」
称賛。
だが敵意を含む。
「だが、惜しい」
「何が」
「制御に留めたこと」
赤い術式が主核表面で脈動する。
「核は進化の装置だ」
ゼルヴァインの声は穏やかだ。
「均衡は停滞を生む」
「暴走は破滅を生む」
俺は即答する。
彼は微笑む。
「破滅は淘汰だ」
「淘汰?」
「弱い都市、弱い国家は消える。強い構造だけが残る」
リリナが怒鳴る。
「街が消えるんだぞ!」
「感情は理解する」
だが目は揺れない。
「だが世界は感情で進化しない」
エリシアが冷静に言う。
「進化のために意図的暴走を起こすの?」
「正確には、制御可能な暴走」
「矛盾している」
「いずれ完全制御に至る」
俺は一歩前へ出る。
「核は均衡装置だ」
「古い思想だ」
「世界崩壊を防いでいる」
「世界は停滞している」
言葉がぶつかる。
理論と理論。
「あなたは制御を選ぶ」
「そうだ」
「私は利用を選ぶ」
ゼルヴァインの瞳が鋭く光る。
「どちらが世界を導くか」
主核が共鳴する。
【七核同期率:上昇】
「七核は、いずれ統合される」
「統合?」
「一つの構造へ」
その言葉に、背筋が凍る。
「それは……」
「世界の再設計」
静寂。
彼は笑う。
「楽しみにしていますよ、王都の設計者」
赤い術式が消え、映像が霧散する。
【外部干渉 終了】
地下空間に静寂が戻る。
だが空気は重い。
リリナが呟く。
「嫌なやつ」
「理論は本物だ」
エリシアが低く言う。
「核の深部を理解している」
ルドガーが静かに告げる。
「思想戦だ」
俺は主核を見上げる。
制御か。
利用か。
ゼルヴァイン・ヴェルクス。
年齢は近い。
だが、思想は対極。
「……負けない」
小さく呟く。
【都市設計モード:拡張準備】
【七核ネットワーク解析率:上昇】
七核戦争。
構造を巡る戦いが、正式に始まった。
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