第25話 宰相ルドガー
翌朝。
ラーディアの城門前には、異様な緊張が漂っていた。
整然と並ぶ黒装束の騎士団。
中央に立つ一人の男。
長身。銀混じりの黒髪。鋭い灰色の瞳。
無駄がない。
空気そのものが引き締まる。
「王都宰相、ルドガー・アインハルト閣下」
アーサーが深く頭を下げる。
ラーディアの英雄を迎える空気とは、まるで違う。
これは、国家の重さだ。
ルドガーはゆっくりと俺を見る。
「君が、カイル・エルドか」
「はい」
「ラーディア核を停止させた少年」
「設計しただけです」
「謙遜は不要だ」
声は低く、感情が読めない。
だが視線は鋭い。
測られている。
「七核のうち、四つが活動状態に入った」
いきなり核心。
「君は理由を理解しているか」
「核はネットワークで繋がっている。均衡が崩れている」
「半分正解だ」
ルドガーは空を見上げる。
昼間でも薄く見える黒い点。
「もう半分は、人為的干渉」
「帝国……」
「ヴェルクス帝国」
その名が出た瞬間、周囲の空気がさらに重くなる。
「奴らは核を“利用”している」
「兵器化ですか」
「魔物の発生を制御し、他国へ流す。魔力圧を意図的に偏らせる」
胸が冷える。
「暴走を起こしているのは、事故ではない」
「一部はな」
ルドガーの視線が鋭くなる。
「だが、止める術を持つ者は少ない」
沈黙。
リリナが小さく息を呑む。
エリシアは静かに言う。
「だから呼んだのですね」
「そうだ」
ルドガーは俺をまっすぐ見る。
「君は制御できる」
「まだ完全ではありません」
「だからこそ育てる」
その言葉に、ぞくりとする。
「国家の設計に参加しろ」
命令ではない。
だが拒否を想定していない声音。
「王都地下には、主核がある」
「主核……」
「七核の中心に近い存在だ」
ログが反応する。
【王都地下核 出力:上昇傾向】
「帝国が動けば、王都も無傷では済まない」
ルドガーは淡々と続ける。
「君は都市を守った。次は国家だ」
リリナが一歩前に出る。
「危険なんでしょ?」
「当然だ」
「死ぬ可能性は?」
「ある」
迷いのない答え。
エリシアが口を開く。
「ですが、彼の理論は今、国家に必要です」
ルドガーはわずかに頷く。
「選べ、カイル・エルド」
広場が静まり返る。
ラーディアは救われた。
安全な道もある。
都市顧問として残ることもできる。
だが――
ログが静かに警告を出す。
【七核同期率:上昇】
【帝国側核出力:増大】
村の炎が脳裏をよぎる。
守れなかった夜。
間に合わなかった判断。
「……俺は」
深く息を吸う。
「設計する側に立ちます」
ルドガーの瞳がわずかに細まる。
「国家の中枢で?」
「はい」
「覚悟は?」
「都市一つで終わる気はありません」
沈黙の後。
ルドガーは小さく笑った。
「良い」
「では王都へ来い」
決まった。
ラーディアの戦いは終わった。
だが今から始まるのは――
国家規模の設計戦。
制御か、利用か。
思想がぶつかる舞台へ。
空の黒い星が、じわりと濃くなった。
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