第23話 英雄ではなく設計者
ラーディアの空は、久しぶりに澄んでいた。
地下から立ち上っていた黒い霧は消え、四基の排出塔はゆっくりと光を失っていく。
【都市魔力圧:正常値】
【断片反応:消失】
中央広場には人が集まり、歓声が広がっていた。
「救われたんだ……!」
「核が止まったぞ!」
子どもが笑い、老人が涙ぐむ。
その中心に、俺たちは立っていた。
アーサーが一歩前へ出る。
「ラーディアは救われた」
彼の声が広場に響く。
「学園調査団、そして王都研究局の協力に感謝する」
拍手が起こる。
だが、アーサーは続けた。
「特に――」
視線が俺に向く。
「カイル・エルド。君がいなければ、この街は崩壊していた」
ざわめき。
視線が集まる。
リリナが肘で小突く。
「ほら、英雄様」
「やめろ」
俺は首を振る。
「俺一人じゃありません」
「だが設計したのは君だ」
アーサーの目は真剣だ。
「都市を、戦場ではなく構造として見た」
広場の人々が頭を下げる。
胸が重くなる。
これは、望んでいた形じゃない。
「……英雄ではない」
小さく呟く。
「設計者です」
リリナが笑う。
「かっこつけた」
「違う」
アーサーが問いかける。
「ならば、設計者としてこの街を導いてほしい」
静寂。
「都市顧問として残ってくれ」
広場が息を呑む。
エリシアが横目で見る。
王都行きの話は、まだ正式には出ていない。
ここで残れば――
ラーディアの守護者。
安全な道。
だが。
ログが静かに警告を出す。
【核ネットワーク活動点:4】
【王都地下核 微増】
「……残れない」
アーサーの目が揺れる。
「なぜだ」
「ラーディアだけの問題じゃない」
石板を取り出す。
簡易だが、広域の線を描く。
「七つの核が繋がっている。ここはその一端」
「七つ……?」
「四つが今、活動している」
広場がざわめく。
「俺が守るべきは一都市じゃない」
言葉にして、初めて自覚する。
「俺は設計する側に立つ」
リリナが、少しだけ驚いた顔をする。
エリシアは静かに頷く。
アーサーが苦笑する。
「欲張りだな」
「そうかもしれません」
「だが、それが君か」
彼は手を差し出す。
「ラーディアは君に借りができた。いずれ返そう」
握手。
固い手。
「必ず、また協力する」
「その時は、もっと大きい設計を」
その瞬間、空気がわずかに震えた。
【遠方反応 増大】
俺は空を見上げる。
昼間でも分かる、微かな黒点。
四つ。
エリシアが低く言う。
「増えたわね」
「え?」
リリナが空を見る。
「気のせいじゃない?」
「違う」
俺は断言する。
「四つ目が同期した」
広場の歓声が遠く感じる。
救われた街。
だが。
世界は、止まらない。
エリシアが俺を見る。
「王都へ来なさい」
「……」
「国家規模で設計するなら、ここでは足りない」
リリナが口を尖らせる。
「私も行くよ」
「当然」
俺は笑う。
ラーディアは終わった。
だが、これは通過点。
英雄ではなく、設計者。
都市を越え、国家へ。
その第一歩が、今、踏み出された。
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