第2話 未攻略ボスと落ちこぼれの役割
訓練終了後の医務室は、いつもより騒がしかった。
「だから言ったでしょ、正面から最大出力は効率が悪いって」
「うるさいなぁ……結果的に当たったんだからいいじゃん」
「当たっただけ。破壊には至ってない」
「うっ……」
ベッドに腰掛けたリリナが、包帯の巻かれた腕をぶんぶん振る。医務室の先生に怒られている最中だというのに、まったく懲りていない。
俺は隣の椅子で、魔導端末に表示された戦闘ログを睨んでいた。
ゴーレムの行動波形。魔力の収束点。回転攻撃前の予備動作。
やはり背部だ。
だが、装甲の開放時間は〇・八秒未満。あの硬度を貫くには、単純な火力では足りない。
「……属性干渉か、構造破壊か」
「もう次のこと考えてるの?」
向かいの椅子に座ったミレイが、無表情のまま俺を見つめる。
「当然だろ。あれを倒さないと、三年の卒業試験に響く」
「でも未攻略なんだよ? 歴代の首席でも無理だったって」
「だからこそ、攻略法がある」
感情の起伏を抑えた声で言いながら、俺は自分でも少し驚いていた。
どうしてそこまで拘るのか。
単に意地かもしれない。あるいは――
教官の言葉が、引っかかっている。
“勝ち方を作れ”。
戦闘が得意じゃない俺に残された道は、それしかない。
「カイルってさ」
リリナが急に真面目な顔になる。
「悔しくないの?」
「何が」
「首席のレオンとかさ。あいつ、今日も『あの程度、力で押し切れる』とか言ってたよ?」
……ああ、聞こえていた。
模擬戦を遠巻きに見ていた、あの余裕の笑み。
レオン・ヴァルク。剣術首席。魔力量も規格外。まさに“才能の塊”。
俺とは対極の存在だ。
「悔しいさ」
素直に答えると、二人が意外そうな顔をした。
「でも、あいつのやり方は俺にはできない。なら、別のやり方を探すだけだ」
「別のやり方?」
「力で壊せないなら、壊れる形にすればいい」
ミレイが、ほんのわずかに目を細めた。
「……理論家」
「悪口か?」
「褒め言葉」
リリナが腕を組み、うーんと唸る。
「じゃあさ! どうやって壊すの?」
「まず、ゴーレムの構造を洗い出す」
「どうやって?」
「もう一回殴らせる」
「結局それ!?」
俺は端末を閉じ、立ち上がった。
「次は真正面からやらない。観察に徹する。リリナ、お前は挑発役だ」
「え、囮?」
「そうだ」
「ひどくない!?」
「火力が高くて目立つ。最適だ」
「ぐぬぬ……」
だが、否定はしない。
それがリリナの強さでもある。
医務室の扉が開いた。
「随分と元気だな」
低い声。
ガルド教官が腕を組んで立っていた。
「エルド。少し来い」
俺は二人に目配せし、廊下へ出た。
石造りの廊下は静まり返っている。夕刻の光が窓から差し込み、長い影を落としていた。
「今日の戦闘、どう見る」
いきなり核心だ。
「……コアは囮です」
「理由は」
「魔力再配分の挙動。熱攻撃を受けた瞬間、胸部から装甲全体へ出力が移動した。本体を守る反応に見えました」
「本体はどこだ」
「背部。だが装甲で守られている。おそらく内部に第二魔力炉がある」
教官はしばらく黙り込んだ。
「ほう」
その一言だけ。
「歴代でそこまで気づいた者はいない」
「……そうですか」
「だがな、エルド」
鋭い視線が射抜く。
「気づくだけでは勝てん」
「分かっています」
「どうする」
問いは重い。
だが、もう答えは決めている。
「削ります」
「削る?」
「装甲の耐久を直接突破するのは非効率です。なら、内部構造に干渉する」
「具体的には」
「魔力共鳴を起こします」
教官の眉がわずかに動いた。
「背部炉と胸部炉の周波数を合わせ、干渉させる。出力がぶつかれば、自壊する可能性がある」
「理論上は、な」
「はい。なので、実証します」
教官はしばらく俺を見つめ――ふっと口元を歪めた。
「面白い」
低く笑う。
「やってみろ。ただし、三日以内だ。今週末に外部監査が入る。模擬ダンジョンの使用制限がかかる」
「三日……」
短い。
だが、不可能ではない。
「分かりました」
「エルド」
背を向けかけた俺を、教官が呼び止める。
「お前は戦うな。前に出るな。――勝ち方を作れ」
同じ言葉。
今度は、重みが違った。
廊下の窓から、模擬ダンジョン塔が見える。
石造りの円塔。その地下深くに、あのゴーレムはいる。
倒せない相手。
力では届かない壁。
だが。
ログは、俺の中で確かに積み重なっている。
【戦闘記録 解析中】
【新規仮説:魔力共鳴干渉】
【成功率:17%】
低い。
だがゼロではない。
なら、上げればいい。
検証して、失敗して、修正して。
成功率を積み上げる。
「三日で壊してやる」
小さく呟く。
最弱でもいい。
俺は、勝ち方を作る側だ。
そして、その勝ち方が――
いつか俺自身を、チートに近づける。
まだ誰も知らない。
この学園の地下に、未登録の“第八層”が存在することも。
その奥に、ゴーレムとは比べ物にならない“何か”が眠っていることも。
だが今はいい。
まずは、目の前の壁だ。
倒せないなら、倒せる形にする。
それが、俺の戦い方だから。




