第18話 臨界までの七十二時間
地下封印室。
黒い断片核が、ゆっくりと脈動している。
どくん。
どくん。
鼓動のような振動が床を伝い、空気を震わせる。
【断片核 出力:上昇中】
【臨界推定:72時間】
「……三日」
ミレイが静かに呟く。
「それまでに止める」
俺は核を睨みながら答える。
灰牙洞の時とは違う。
今回は、都市そのものが巻き込まれている。
結晶の表面に無数の亀裂。
その内側から、赤黒い光が漏れている。
【供給経路:七本確認】
「七本……」
エリシアはまだ来ていない。
今ここにいるのは、学園組とラーディアの封印術師だけだ。
「七本って、何が七本?」
リリナが覗き込む。
「主供給路だ。都市全域に伸びてる」
石板を取り出し、素早く図を描く。
中央の円から七方向へ伸びる線。
「今は三本が南区へ集中。魔物発生はそこ」
「他は?」
「徐々に広がってる」
【南区 魔力密度:急上昇】
地上から悲鳴が響く。
封印術師が震える声で言う。
「封印を強化しますか?」
「待ってください」
「しかし……!」
「強化は圧を溜めるだけです」
灰牙洞で学んだ。
溜める型は限界が来る。
「流さないと」
「流す?」
「排出路を作る」
レオンが腕を組む。
「都市を削る気か」
「守るために削る」
迷いはない。
だが、胸は重い。
この街は俺の故郷じゃない。
それでも。
守れなかった村が、頭をよぎる。
炎。
崩れる家。
間に合わなかった夜。
拳を握る。
「今度は間に合う」
リリナが横を見る。
「それ、二回目」
「覚えてたのか」
「当たり前」
どくん。
核が強く脈打つ。
【供給周期:3.1秒 → 2.9秒】
「短くなってる」
ミレイが即座に言う。
「加速してる」
「臨界まで、実際はもっと早い」
俺は石板を叩く。
「七本全部を同時に止めるのは無理だ」
「じゃあ?」
「優先順位をつける」
南区三本を一時封鎖。
残り四本は分散誘導。
「……できるの?」
「成功率は五割」
「五割かあ」
リリナは笑う。
「いつも通りだね」
怖くないわけじゃない。
だが、逃げる選択肢はない。
アーサーが地下室に駆け込んでくる。
「南区で守護体が出た!」
「もう!?」
「大型だ!」
【都市守護体 出現】
核の脈動が一段階強くなる。
地上から轟音。
「来たか」
レオンが剣を抜く。
「カイル、指示を」
深呼吸。
ログを展開する。
【都市構造解析 初期展開】
視界が広がる。
地下と地上が重なり、線と点で表示される。
南区に巨大な赤い点。
守護体。
その背後で、三本の供給路が太く光る。
「供給は背中側」
「了解!」
リリナが駆け出す。
レオンが追う。
俺は地下に残る。
「封印術師、第一経路を一時閉鎖」
「分かりました!」
魔法陣が光る。
【主経路1 圧上昇】
「二秒後、逆流!」
「早い!」
封印術師が悲鳴を上げる。
圧が暴れる。
だが、わずかに流れがずれる。
【南区魔力圧:微減】
「いける」
ミレイが地下入口から叫ぶ。
「守護体、損傷三割!」
「あと一押し!」
どくん。
核が、これまでで最も強く脈打つ。
【供給出力:急上昇】
【臨界推定:48時間】
「……縮んだ」
七十二時間のはずが。
もう二日。
アーサーが青ざめる。
「どうする」
俺は核を見る。
このままでは、守護体を倒しても根本は止まらない。
「設計する」
「設計?」
「都市全体を使う」
排出塔。
誘導路。
罠区域。
頭の中で、形が組み上がる。
【都市設計シミュレーション 開始】
成功率:61%
「上がった」
「何を思いついた」
アーサーが問う。
「街を巨大な魔法陣にする」
沈黙。
無謀に聞こえる。
だが。
理論は繋がっている。
灰牙洞。
再配分。
七本の供給路。
「三日ない」
俺は顔を上げる。
「でも、三日あれば足りる」
どくん。
断片核が脈打つ。
臨界までの七十二時間。
都市規模の設計戦が、始まる。
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