第10話 理論の更新と未来の輪郭
第七層の安全圏まで戻った瞬間、全員がその場にへたり込んだ。
「はぁ……っ、さすがに心臓に悪い……」
リリナが仰向けに寝転ぶ。肩の傷はティナの回復で塞がっているが、魔力の消耗は隠せない。
「魔力残量、二割未満」
ミレイが淡々と報告する。
「レオン?」
「三割。だが連戦は無理だな」
俺は壁に背を預け、ログを開く。
【第八層守護体 戦闘データ解析中】
【第一段階 回避率:高】
【第二段階 供給周期:3.4秒】
【供給増幅率:損傷率比例】
数字が並ぶ。
さっきまで“解析不能”だった相手が、今は数値として表示されている。
それだけで、呼吸が落ち着く。
「どう?」
リリナが上体を起こす。
「崩せる」
「ほんと?」
「ああ」
確信がある。
第二段階に入ると供給量が増える。
だが、周期は固定。
3.4秒ごとに最大供給。
つまり。
「供給直後が、一番薄い」
「……なるほど」
ミレイが頷く。
「供給のピークで外へ出力。直後は内部が空洞化する」
「そこを叩く」
レオンが静かに言う。
「だが、タイミングは一瞬だ」
「分かってる」
ログを拡大する。
【供給ピーク → 0.4秒後 内部魔力低下】
0.4秒。
短い。
だが。
未来の断片が、またよぎる。
球体が光る。
0.4秒後、守護体の外殻がわずかに脆くなる。
そこへ、レオンの剣。
リリナの炎。
同時に。
「……見える」
小さく呟く。
「何が?」
リリナが首を傾げる。
「次の形」
未来予測。
まだ断片的だ。
だが、第七層よりはっきりしている。
【未来予測精度:+3%】
ほんのわずか。
それでも、確実に上がっている。
「カイル」
レオンが真剣な目で見る。
「お前、さっきより反応が速いな」
「……少しだけ」
「成長か?」
「分からない」
だが、何かが変わっている。
第七層での共鳴。
第八層の魔力。
そして、あの球体。
ログが、進化している。
【戦闘解析ログ バージョン更新兆候】
表示が一瞬、揺らぐ。
次の瞬間。
【未来予測精度:安定化】
胸が高鳴る。
「次で終わらせる」
リリナが拳を握る。
「よし、じゃあ一回戻って準備だね!」
「戻る?」
レオンが眉を上げる。
「時間がない」
「無策で突っ込むよりマシだ」
俺は立ち上がる。
「供給周期は分かった。次は“固定”する」
「固定?」
「供給を強制的に早める」
「そんなことできるの?」
「できるようにする」
ミレイが興味深そうに目を細める。
「理論家は無茶を言う」
「無茶はしない。計算する」
球体と守護体のリンク。
供給は周期的。
ならば、外部から擾乱を入れれば、周期を崩せる。
「ティナ」
「……なに」
「さっきの逆位相、応用できるか」
「……がんばれば」
「頑張らなくていい。正確にやれ」
「むずかしい」
「おやつ増やす」
「やる」
リリナが笑う。
「単純!」
だが、それでいい。
必要なのは、積み重ね。
俺はもう一度、第八層を見下ろす。
暗闇の奥で、球体が静かに脈動している。
【守護体損傷率:71%】
七割。
次は、第二段階の本番。
理論は整いつつある。
未来も、少しだけ見える。
恐怖は消えない。
だが。
理不尽ではない。
「明日、終わらせる」
レオンが小さく笑う。
「今度は逃げるなよ、理論家」
「逃げない」
俺は答える。
「勝つために下がっただけだ」
リリナが立ち上がり、拳を突き出す。
「じゃあ、明日は完全勝利ね!」
ミレイがその拳に軽く触れる。
「理論と実戦の証明」
ティナがふにゃっと笑う。
「……おやつ祭り」
レオンが一瞬迷い、やがて拳を重ねる。
最後に、俺も手を伸ばす。
第八層。
未知の敵。
解析不能の壁。
だが、今は違う。
数字がある。
理論がある。
未来の輪郭が、見え始めている。
努力は、裏切らない。
それを証明するための、二日目が終わろうとしていた。




