第4話 守屋さんの推理
守屋さんは、足早に本館の裏口に向かう。私も、わけがわからないまま、ついて歩く。
「さやかさん、この事件の鍵は3つ。まず、誰があの茶室に近づけたか。次に、誰が鍵の存在に気づきうるか。――それから、高価で取引できるわけでもない素人の書を欲しがるのは誰か」
守屋さんは、ほんの少し、頬を上気させているようにも見えた。
「え、でもでも、他のサークルの人たちの証言では、1限目の間、誰も近づいてないんですよね?それに、鍵だって、あんなにさりげなく隠してあったらなかなか気づかないと思います!見つけるなら床にかがみ込んで、撫で回しでもしないと。そんなことしてたら、それこそ目立って、他サークルの人に気づかれてしまいます」
「そこですよ」
私たちは、裏階段を駆け降りた。裏口には、清掃道具の物置があって、掃除のオバサンたちの着替え室も兼ねてるみたいだった。お掃除の制服から思い思いの私服に着替えたオバサンたちが、笑顔で声を掛け合いながら帰っていく。
「犯人は“見えない人”なんです」
「えっ!!幽霊ですか!?」
守屋さんは、私の言葉に片頬を緩めて苦笑した。
「ある意味、学園生活の“幽霊”でしょうね。私たち裏方は」
清掃用具室のドアから、背を丸めた小柄な人影が現れた。
「サークル棟の清掃担当…小野真由美さんですね?」
守屋さんの凛とした声が響く。絶対に獲物を逃さないフクロウが舞い降りるような空気だった。
小野真由美、と名指しされた女性が、ビクッと顔を上げて、次の瞬間、身を翻して逃げ出した。
――この人が犯人だ!
私は、考えるより先に飛び出していた。小野さんの前に回り込み、竹刀を突きつける。
「逃さない!この華苑で窃盗なんて、花園寺…じゃなくてッ花園さやかが許しません!!」
駆けつけた守屋さんが、スッと私の竹刀を押さえた。
「仕舞って。…いけませんよ、さやかさん」
「え…っ」
思わず私は呟いた。守屋さんの触れた剣先から伝染するみたいに、じわじわと頬が熱くなってゆく。
「貴女の竹刀は、怯える人を脅すためのものじゃない」
我に返って見ると、小野さんは顔面蒼白でガタガタ震えていた。
「小野さん。貴女の企みは失敗しました。荷物を確認させてください」
守屋さんの低い声に抑えつけられるように、小野さんがブルゾンの下から取り出したのは――まさしく、茶道部から消えた掛け軸だった。
「あーっ!それよ!その掛け軸!」
「掃除の人が犯人だったのね!!」
追いついた茶道部の部員たちが集まってきた。みんなカンカンだ。
「この事件の鍵は“見えない人”です。掃除の人なら、学内をウロついていても誰も怪しまない。床を探っていても、掃除しているんだろうと見過ごされる。ある意味、一番自由に動ける人なんですよ」
守屋さんの静かな声を、小野さんはただ俯いて聞いていた。春日さんが進み出た。
「お掃除の人が泥棒なんて、タチが悪すぎます!こんな人、先生に言いつけてクビにしてもらわなくちゃ!」
小野さんは、春日さんが取り上げようとした掛け軸を、ギュッと抱きしめて叫んだ。
「許して…許してください…盗んだつもりなんて、なかった!これは元々、私の弟のものだったんです!!」
守屋さんが軽く片眉を上げた。
―つづく―




