第3話 消えた掛け軸
華苑女子大学の茶室は、こじんまりしたものだった。茶道部長の春日さんが、ドア横の、端がちょっとめくれたカーペットの隙間から鍵を取り出した。
「鍵はカーペットの隙間に保管してるんですね。このことは部員の他に知っている人はいますか?」
守屋さんがしゃがんで、カーペットの周りを眺めながら尋ねた。
「いえ。部員には、他に漏らさないようにと…代々のルールにしてます」
ふーむ。この隠し場所は、確かにすごく見つかりづらいように思えた。普通は気づかないんじゃないかな?
春日さんの説明に私が首を捻る横で、守屋さんはスラリと引き戸を開けた。
中には旅館みたいに小上がりがついていて、襖で仕切られている。
「どうぞ」
春日さんが小上がりに膝をついて、襖を開けた。
茶室には、茶道部の部員たちが神妙な顔で座っていた。守屋さんと私は、軽く一礼して茶室に上がった。
――あ、また。
ふわっと風が変わった気がした。守屋さんは畳の上を滑るように歩いて、床の間に向かい合った。
からっぽの床の間は、いかにも寂しげだった。ふと私の目に乱れた掛け紐が飛び込んできた。でも、その割には…“破れていない”。
「守屋さん、この掛け緒、見てください!乱れてるのに、掛け軸の台紙は破れていない」
私の言葉に、守屋さんが頷いた。
「いいところに気がつきましたね。“奪った”というよりも“外した”かな。ずいぶんと丁寧な窃盗犯だ」
「もしかして!みんなが知らなかっただけで、ほんとは貴重な作品だった、とか!?」
私は何だか嬉しくなって、守屋さんと肩を並べて囁いた。
「…春日さん。掛け軸の写真はありますか?」
春日さんがスマホを取り出して、茶室で撮った集合写真を見せてくれた。背景に映り込んだ掛け軸の部分を拡大し、守屋さんは老眼鏡を額に上げて、じっくりと眺めた。
「いえ…上手くはありますが、素人の作品ですね」
え〜…隠されたお宝かと思ったのに!
「じゃあ、どうして盗まれたんですか?」
私が口を尖らせて聞き返すと、守屋さんは軽く手で制して茶道部員たちに向き直った。
「まずは、鍵のありかを知っている部員たちのアリバイを押さえていきましょう。1限目にみんなどこにいたか、教えていただけますか?」
「はい。3年次の早田です。私と大原さんは、1限目は一緒にゼミに出席していました」
髪を一つに結いた女子学生が手を挙げて証言した。ね、と隣に座ったウェーブヘアの女子学生と頷き合う。
次に、おかっぱの女子学生が膝を進めて前に出た。
「2年次の石川です!私、1限目から2限目まで学内のコンビニでバイトしてたんです。出勤簿調べてもらったら、すぐわかります」
私は、せっせと証言をメモに取っていく。
「あの…、1年次の菊田です。1限目は高和さんと一緒に、図書館で勉強してました」
守屋さんがタブレット端末を取り出して、検索する。
「なるほど…。ああ、入館記録が残っていますね」
私もタブレット端末を覗き込んだ。館内の警備システムにつながっているらしい。
「それに…周りのサークル室にいた人たちも、1限の間にウロウロしてる人は見かけなかったって言ってました…」
部員たちは気味悪そうに顔を見合わせた。
「目撃情報はなし、全員、アリバイは完璧…か」
守屋さんは顎を軽く摘んで、考えているふうだった。やがて、ハッと顔を上げて、腕時計を確認した。
「行きましょう、さやかさん。犯人を押さえる、タイムリミットです」
――え!?もう、犯人がわかっちゃったの!?
何だかよくわからないけど、犯人と対決だ!
私は、背負った竹刀の柄を掴んで、グッと頷いた。
―つづく―




