第2話 密室の茶室
華苑女子大学のお昼休みが終わる頃、警備員室に一人の女子学生がやってきた。何だかずいぶん落ち込んでいるみたい。
私が、足元もおぼつかない彼女をソファに座らせてる間に、守屋さんはお茶を淹れ始めた。
警備室に豊かな緑茶の香りが漂って、今にも泣きそうだった彼女はほぅと大きく息をついた。守屋さんは、す、と茶碗を差し出し、彼女の前にぴたりと止めた。
「君は確か…日本文化コミュニケーション学科の春日さんだね?」
守屋さんの言葉に、女子学生は目を丸くした。慌てて横髪を耳にかけてお辞儀する。
「ハイ、日文の3年次で、春日薫といいます。あの、私、茶道部の部長を務めているんですが…」
春日さんがブルッと身を震わせた。
「…密室の茶室から、掛け軸が消えたんです…」
「盗難!?まさかそんな、学内で…」
私の声は、何だかひっくり返ったみたいだった。だって、こんなに静かで平和な学園で盗難なんて!
「落ち着いて。春日さん、最後に掛け軸を見たのはいつ?」
守屋さんの問いかけに、春日さんは、ぎゅっとハンカチを握って、唾を飲み込んでから切り出した。
「朝練の時です。部員みんな、掛け軸があるのを見ています」
「サークルの朝練なら8時頃…だね」
守屋さんが目配せしたので、新人警備員の私は慌ててノートを出して、春日さんの証言を書きつけた。
「その後、2限目に部員の前田さんがサボ…えと、お昼寝しようとして茶室に来たら、もう掛け軸はなかったって」
1限目の始まる9時から、講義終了の10時半。その90分の間に犯行は行われたのだ。
「講義中なら、人通りも少なくなります。茶室の鍵は誰が管理していますか?」
「その…」
守屋さんの眼差しに、春日さんは一瞬言い淀んだ。
「部員みんながいつでも使えるように、茶室の入り口近くに隠してあるんです」
私は、証言を書き留めながら思わず口をあんぐり開けてしまった。こういうのって、やっぱりまずいんじゃない?
「いけませんね。鍵の管理は防犯の基本ですよ」
「ハイ…ごめんなさい。でも、絶対に見つからないところに隠してるんです!それに…普段から貴重品は置かないようにしようって、部員の間にもルールがあって」
春日さんは慌てて言葉を重ねるけど、そんなの言い訳だ。
「掛け軸だって…あんなもの、盗んでどうするのかわかりません。骨董屋さんのワゴンセールで百円だったんですよ」
守屋さんは、ふぅと息を吐いて、椅子から立ち上がった。
「窃盗は窃盗ですからね。放置しておくわけにはいかない。まずは現場を見に行きましょう」
守屋さんがするりとグローブをはめる。――お茶を出す時もだったけど、守屋さんはやたらに手の仕草が綺麗。ちゃんと…整った動き方。
ポケッと見ていた私に、守屋さんが微笑いかけた。老眼鏡がキラリと光る。
「行きますよ、さやかさん。学内をよく見ておいてください」
―つづく―




