『その縄、魔法につき。〜十九歳の縛術師は、殺さずの技術で乱世を縛り上げる〜』第2話 縄使いの噂
強さとは、
相手を倒すことなのか。
それとも、立ち上がれなくすることなのか。
第2話では、
「縄使い」という存在が、
個人から噂へ、
そして社会の異物へと変わっていきます。
そしてもう一つ。
この物語にとって大切な出会いが、静かに始まります。
その日の夕刻、城下町はいつもより騒がしかった。
「聞いたか? 騎士団がやられたって話」
「剣も魔法も使わず、縄だけでだとよ」
露店の前、酒場の入り口、井戸端――
話題はひとつに集約されていく。
「嘘だろ。相手は正規の騎士だぞ」
「それが本当らしい。しかも誰も死んでない」
その事実が、人々をざわつかせていた。
――殺さずに、騎士を制圧した。
この国では、それ自体が異端だった。
*
騎士団詰所の一室。
縛られ、転がされ、恥をさらした男たちが並んでいた。
「……報告は以上です」
団長は腕を組み、深く息を吐く。
「相手は少年のような見た目だった、と?」
「はい。年の頃は二十にも満たないかと」
「武器は?」
「縄のみです。三本。動きは……魔法としか」
団長はしばし黙り込み、やがて低く言った。
「……殺されなかったことを、幸運と思え」
騎士たちは顔を伏せた。
*
その頃、当の本人――リオネルは、街外れの水路脇を歩いていた。
「……思ったより目立ちましたね」
独り言のようにつぶやき、肩にかけた縄を軽く整える。
人の視線を感じる。
好奇と、恐れと、そして――興味。
「ねえ……あの人じゃない?」
「本当? あの縄使い?」
ひそひそ声。
だが、誰も近づいてはこない。
リオネルは苦笑し、足を止めた。
「そんなに怖い顔、してないと思うんですけど」
そのときだった。
「……あの」
控えめな声が、背後から聞こえた。
振り返ると、そこにいたのは一人の少女だった。
淡い色の外套に身を包み、少し緊張した面持ちで立っている。
年は、彼より少し下だろうか。
澄んだ瞳が、まっすぐにリオネルを見ていた。
「あなたが……縄の人、ですよね」
「縄の人、ですか」
思わず笑うと、少女は慌てて首を振った。
「い、いえ、その……悪い意味じゃなくて」
「分かってます。大丈夫ですよ」
そう言って微笑むと、少女はほっとしたように息をついた。
「私、フィアといいます」
「リオネルです」
短い名乗り。
だが、その一瞬に、なぜか奇妙な静けさが生まれた。
「……本当に、誰も殺さなかったんですか?」
フィアの問いは、慎重だった。
まるで答え次第で、何かが変わるかのように。
リオネルは少し考え、頷いた。
「ええ。殺す理由が見当たりませんでしたから」
その言葉に、フィアは目を見開き――
そして、微かに笑った。
「……よかった」
その笑顔を見て、リオネルはなぜか胸の奥が、少しだけ温かくなるのを感じた。
街では今も、縄使いの噂が広がり続けている。
だがこの時、二人はまだ知らなかった。
この出会いが、やがて国の運命に関わることを。
第2話をお読みいただき、ありがとうございます。
リオネルは、力を誇示することも、恐怖で支配することもしません。
それでも彼の存在は、確実に世界を揺らし始めています。
そして登場したフィア。
彼女は、ただの「ヒロイン」ではありません。
彼女の問いかけは、この物語そのものの問いでもあります。
なぜ殺さないのか。
殺さない力は、果たして正義なのか。
次話では、
リオネルという人物の立場と、
彼が避けられない流れに巻き込まれていく様子が、よりはっきりしていきます。
引き続き、お付き合いいただければ幸いです。




