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『その縄、魔法につき。〜十九歳の縛術師は、殺さずの技術で乱世を縛り上げる〜』第2話 縄使いの噂

強さとは、

相手を倒すことなのか。

それとも、立ち上がれなくすることなのか。

第2話では、

「縄使い」という存在が、

個人から噂へ、

そして社会の異物へと変わっていきます。

そしてもう一つ。

この物語にとって大切な出会いが、静かに始まります。


その日の夕刻、城下町はいつもより騒がしかった。

「聞いたか? 騎士団がやられたって話」

「剣も魔法も使わず、縄だけでだとよ」

露店の前、酒場の入り口、井戸端――

話題はひとつに集約されていく。

「嘘だろ。相手は正規の騎士だぞ」

「それが本当らしい。しかも誰も死んでない」

その事実が、人々をざわつかせていた。

――殺さずに、騎士を制圧した。

この国では、それ自体が異端だった。

騎士団詰所の一室。

縛られ、転がされ、恥をさらした男たちが並んでいた。

「……報告は以上です」

団長は腕を組み、深く息を吐く。

「相手は少年のような見た目だった、と?」

「はい。年の頃は二十にも満たないかと」

「武器は?」

「縄のみです。三本。動きは……魔法としか」

団長はしばし黙り込み、やがて低く言った。


「……殺されなかったことを、幸運と思え」

騎士たちは顔を伏せた。

その頃、当の本人――リオネルは、街外れの水路脇を歩いていた。

「……思ったより目立ちましたね」

独り言のようにつぶやき、肩にかけた縄を軽く整える。

人の視線を感じる。

好奇と、恐れと、そして――興味。

「ねえ……あの人じゃない?」

「本当? あの縄使い?」

ひそひそ声。

だが、誰も近づいてはこない。

リオネルは苦笑し、足を止めた。

「そんなに怖い顔、してないと思うんですけど」

そのときだった。

「……あの」

控えめな声が、背後から聞こえた。

振り返ると、そこにいたのは一人の少女だった。

淡い色の外套に身を包み、少し緊張した面持ちで立っている。

年は、彼より少し下だろうか。

澄んだ瞳が、まっすぐにリオネルを見ていた。

「あなたが……縄の人、ですよね」

「縄の人、ですか」

思わず笑うと、少女は慌てて首を振った。

「い、いえ、その……悪い意味じゃなくて」

「分かってます。大丈夫ですよ」

そう言って微笑むと、少女はほっとしたように息をついた。

「私、フィアといいます」

「リオネルです」

短い名乗り。

だが、その一瞬に、なぜか奇妙な静けさが生まれた。

「……本当に、誰も殺さなかったんですか?」

フィアの問いは、慎重だった。

まるで答え次第で、何かが変わるかのように。

リオネルは少し考え、頷いた。

「ええ。殺す理由が見当たりませんでしたから」

その言葉に、フィアは目を見開き――

そして、微かに笑った。

「……よかった」

その笑顔を見て、リオネルはなぜか胸の奥が、少しだけ温かくなるのを感じた。

街では今も、縄使いの噂が広がり続けている。

だがこの時、二人はまだ知らなかった。

この出会いが、やがて国の運命に関わることを。


第2話をお読みいただき、ありがとうございます。

リオネルは、力を誇示することも、恐怖で支配することもしません。

それでも彼の存在は、確実に世界を揺らし始めています。

そして登場したフィア。

彼女は、ただの「ヒロイン」ではありません。

彼女の問いかけは、この物語そのものの問いでもあります。

なぜ殺さないのか。

殺さない力は、果たして正義なのか。

次話では、

リオネルという人物の立場と、

彼が避けられない流れに巻き込まれていく様子が、よりはっきりしていきます。

引き続き、お付き合いいただければ幸いです。


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