表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5/10

第5話 王国愛護騎士団という“口だけ最強勢力”が現れた件

 王城から出て、エリシアとふたりで石畳の通路を歩いていた。

 夕暮れの光が王都の塔に当たり、赤く染まって——

 本来なら美しい光景のはずなのに、俺の胃は重い。


(……疲れたな。王様に本音ぶっこんだのは正しかったけど)


 すると、王都の大通りの向こうがなにやら騒がしい。


「ユウト、あれを見て」


 エリシアが顎で指した先には——

 奇妙な集団が旗を振りながら行進していた。


 旗には派手な文言が書かれている。


【王国愛護騎士団

 ──我らこそ真なる王国の盾!】


(絶対ろくでもないやつ)


 メンバーは鎧を着ているものの、どう見ても実戦装備ではない。

 軽装で、盾はやたらピカピカで、剣には使用感ゼロ。


 つまり**自称“戦士”**である。


「お集まりの諸君!

 魔王軍が迫りつつある今、国を守るのは我らだ!」


「おおーーーっ!!」


 威勢だけはいい。

 ただ、その後の言葉が問題だった。


「……もちろん前線で戦うのは勇者である!」


「おおーーーっ!!」


「我らは後方から全力で応援する!!」


「おおーーーっ!!」


(応援て……)


 書類監査眼が反応した。


【戦意:0%】

【実戦経験:0回】

【“自分は戦わない”方針:確定】

【スローガンの大部分が中身なし:濃厚】


(はい、知ってた)


 彼らのリーダーらしき男が、俺たちに気づいた。


「おお! 勇者殿ではないか!

 我ら王国愛護騎士団は、国のために命をかける覚悟がある!」


 俺「へえ……命を?」


「も、もちろん精神的な意味で!」


(精神的の意味が分からん)


「勇者殿!

 我らは後ろで“国の未来を案じながら”全力で応援する!」


「応援はまあありがたいけど……戦わないの?」


「いやいや!

 王国への忠誠心は誰よりも高いが、命の危険は好ましくない!」


(それただの観客じゃん……)


 エリシアが冷たい声でささやく。


「……この国の“熱狂的支持層”よ。

 勇者に全部押しつけて、自分は安全地帯にいるタイプ」


「言ってることだけは立派だな」


「行動はゼロだけどね」


 すると、愛護騎士団が再び声をあげた。


「大陸A様は我らの友好国!

 あの偉大なる国が背後にいる限り我らは安全!!」


「おおーーーっ!!」


(はい、虎の威を借る狐)


 書類監査眼が容赦なく表示を出す。


【大陸Aによる王国への軍事支援:0】

【条約遵守率:低】

【王国への要求:多数】

【王国への実利:ほぼ無し】


(利用されてるのに感謝してるの、異世界でもあるんだな……)


 さらにリーダーが続けた。


「だが大陸Bは違う!

 奴らは王国に牙をむく敵だ!

 見よ、やつらは国境近くに商隊を送ってきている!」


「おおーーーっ!!(だが戦うのは勇者!)」


 後ろの方で本音が漏れていた。


 書類監査眼が再び光る。


【大陸B商隊の目的:交易】

【敵対行動:無し】

【危険度:極小】


(もう全部ウソか誤解じゃねえか)


 エリシアがため息をついた。


「彼らは“見たい情報しか見ない”の。

 だから大陸Aの行動には目をつぶるし、

 Bの行動は全部“攻撃”に見える」


「事実じゃなくて?」


「“気持ちよさ”で判断してるだけよ。

 事実はその次。いえ、その次にも来ないわね」


 まるで地に落ちた予算資料みたいに、真理が薄っぺらい。


■ 勇者に対する“謎の期待”


 愛護騎士団がこちらに押し寄せてきた。


「勇者殿! 国のために死力を尽くせ!」


「前線に立て!」


「我らは後ろから励ます!!」


「安全な場所で見守る!!」


「実戦は任せる!!」


(いやお前らも戦えよ)


「……あんたら、戦いたくないの?」


「いやいや、戦いたくないわけではない!

 ただ危険なのが嫌なだけだ!」


(言ってることおかしいの気付かないのかな)


 書類監査眼が追い打ちをかける。


【矛盾率:98%】

【行動と発言の不一致:極大】

【勇者任せ指数:120%】


(指数が振り切れてる……)


■ “外交部の無能”まで一緒に現れる


 そこへ、また別の集団がやってきた。


 青いローブに巻物を抱えた官僚たちだ。

 胸元には「王国外交部」のバッジ。


(あ、絶対こいつら無能だ)


 案の定、外交部の男が偉そうに言い放つ。


「勇者ユウト殿!

 大陸Bの商隊接近について、王国は“強い抗議”をすることを決定した!」


「……え? 交易目的ですよね?」


「う、うむ。しかし国民は不安がっているのだ!」


(いや不安煽ってるの愛護騎士団じゃん)


「大陸A様もおっしゃっている!

 “王国は毅然とした態度を取るべきだ”と!」


 書類監査眼:


【大陸Aの発言内容:『王国が勝手に騒いでるだけ』】

【外交部の翻訳:歪曲】


(終わってんな外交)


 エリシアが冷静に言う。


「交易使者に抗議したら、逆に国際問題になるわよ?」


「だ、大陸A様の意向もあるのだ!」


「あの国は“関わりたくない”って書類に明記してるわよ」


 外交部の男が手を震わせながら巻物を隠した。


(書類にバッチリ残ってるじゃねえか)


■ そして、核心的な皮肉


 騒ぎ続ける愛護騎士団を見ながら、俺はつぶやいた。


「……この国の“愛国者”ってさ」


「ええ」


「国を守る覚悟があるんじゃなくて、

 “国を守ってる気分になりたい”だけなんだな」


 エリシアは珍しく、少しだけ感情を込めて言った。


「そうよ。

 危険なことは勇者に押しつけて、

 自分たちは大国Aの後ろで吠えるだけ。

 “国のために戦え!”と言うけれど……

 自分では戦わない」


「愛国じゃなくて……ただの臆病でしょ、それ」


「でも本人たちは“誇り高き真の国民”だと思い込んでる。

 それが一番厄介なの」


 書類監査眼が静かに光り、まとめを表示した。


【王国愛護騎士団の行動原理:

 ・事実より感情

 ・正義より快感

 ・勇気より安全

 ・責任より他責

 ・愛国より自己顕示】


(完全に病気だなこれ)


■ しかし、ここから物語が動く


 愛護騎士団の喧騒の中、

 城から伝令兵が駆けてくるのが見えた。


「勇者ユウト殿! 監査官エリシア殿!

 急ぎ王城へお戻りください!」


 俺「また王か?」


「いえ……違います!」

伝令兵は息を荒げながら続けた。


「——大陸Bの“交易使者”が、

 勇者殿に“直接面会を求めている”とのこと!!」


 愛護騎士団が一斉に騒ぎ出した。


「敵の使者!? 罠だ!!」

「勇者が行け! 我らは応援している!!」

「戦え勇者!!」


(応援しかしねぇ……)


 エリシアが静かに笑う。


「ユウト。ついに“本物の外交”よ」


(どうせこの国はまともに対応できないんだろうけどな……)


 俺は深く息を吸い込んだ。


「行くか。

 敵か味方かくらい、書類監査眼で確かめてやる」


——第5話 完

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ