第5話 王国愛護騎士団という“口だけ最強勢力”が現れた件
王城から出て、エリシアとふたりで石畳の通路を歩いていた。
夕暮れの光が王都の塔に当たり、赤く染まって——
本来なら美しい光景のはずなのに、俺の胃は重い。
(……疲れたな。王様に本音ぶっこんだのは正しかったけど)
すると、王都の大通りの向こうがなにやら騒がしい。
「ユウト、あれを見て」
エリシアが顎で指した先には——
奇妙な集団が旗を振りながら行進していた。
旗には派手な文言が書かれている。
【王国愛護騎士団
──我らこそ真なる王国の盾!】
(絶対ろくでもないやつ)
メンバーは鎧を着ているものの、どう見ても実戦装備ではない。
軽装で、盾はやたらピカピカで、剣には使用感ゼロ。
つまり**自称“戦士”**である。
「お集まりの諸君!
魔王軍が迫りつつある今、国を守るのは我らだ!」
「おおーーーっ!!」
威勢だけはいい。
ただ、その後の言葉が問題だった。
「……もちろん前線で戦うのは勇者である!」
「おおーーーっ!!」
「我らは後方から全力で応援する!!」
「おおーーーっ!!」
(応援て……)
書類監査眼が反応した。
【戦意:0%】
【実戦経験:0回】
【“自分は戦わない”方針:確定】
【スローガンの大部分が中身なし:濃厚】
(はい、知ってた)
彼らのリーダーらしき男が、俺たちに気づいた。
「おお! 勇者殿ではないか!
我ら王国愛護騎士団は、国のために命をかける覚悟がある!」
俺「へえ……命を?」
「も、もちろん精神的な意味で!」
(精神的の意味が分からん)
「勇者殿!
我らは後ろで“国の未来を案じながら”全力で応援する!」
「応援はまあありがたいけど……戦わないの?」
「いやいや!
王国への忠誠心は誰よりも高いが、命の危険は好ましくない!」
(それただの観客じゃん……)
エリシアが冷たい声でささやく。
「……この国の“熱狂的支持層”よ。
勇者に全部押しつけて、自分は安全地帯にいるタイプ」
「言ってることだけは立派だな」
「行動はゼロだけどね」
すると、愛護騎士団が再び声をあげた。
「大陸A様は我らの友好国!
あの偉大なる国が背後にいる限り我らは安全!!」
「おおーーーっ!!」
(はい、虎の威を借る狐)
書類監査眼が容赦なく表示を出す。
【大陸Aによる王国への軍事支援:0】
【条約遵守率:低】
【王国への要求:多数】
【王国への実利:ほぼ無し】
(利用されてるのに感謝してるの、異世界でもあるんだな……)
さらにリーダーが続けた。
「だが大陸Bは違う!
奴らは王国に牙をむく敵だ!
見よ、やつらは国境近くに商隊を送ってきている!」
「おおーーーっ!!(だが戦うのは勇者!)」
後ろの方で本音が漏れていた。
書類監査眼が再び光る。
【大陸B商隊の目的:交易】
【敵対行動:無し】
【危険度:極小】
(もう全部ウソか誤解じゃねえか)
エリシアがため息をついた。
「彼らは“見たい情報しか見ない”の。
だから大陸Aの行動には目をつぶるし、
Bの行動は全部“攻撃”に見える」
「事実じゃなくて?」
「“気持ちよさ”で判断してるだけよ。
事実はその次。いえ、その次にも来ないわね」
まるで地に落ちた予算資料みたいに、真理が薄っぺらい。
■ 勇者に対する“謎の期待”
愛護騎士団がこちらに押し寄せてきた。
「勇者殿! 国のために死力を尽くせ!」
「前線に立て!」
「我らは後ろから励ます!!」
「安全な場所で見守る!!」
「実戦は任せる!!」
(いやお前らも戦えよ)
「……あんたら、戦いたくないの?」
「いやいや、戦いたくないわけではない!
ただ危険なのが嫌なだけだ!」
(言ってることおかしいの気付かないのかな)
書類監査眼が追い打ちをかける。
【矛盾率:98%】
【行動と発言の不一致:極大】
【勇者任せ指数:120%】
(指数が振り切れてる……)
■ “外交部の無能”まで一緒に現れる
そこへ、また別の集団がやってきた。
青いローブに巻物を抱えた官僚たちだ。
胸元には「王国外交部」のバッジ。
(あ、絶対こいつら無能だ)
案の定、外交部の男が偉そうに言い放つ。
「勇者ユウト殿!
大陸Bの商隊接近について、王国は“強い抗議”をすることを決定した!」
「……え? 交易目的ですよね?」
「う、うむ。しかし国民は不安がっているのだ!」
(いや不安煽ってるの愛護騎士団じゃん)
「大陸A様もおっしゃっている!
“王国は毅然とした態度を取るべきだ”と!」
書類監査眼:
【大陸Aの発言内容:『王国が勝手に騒いでるだけ』】
【外交部の翻訳:歪曲】
(終わってんな外交)
エリシアが冷静に言う。
「交易使者に抗議したら、逆に国際問題になるわよ?」
「だ、大陸A様の意向もあるのだ!」
「あの国は“関わりたくない”って書類に明記してるわよ」
外交部の男が手を震わせながら巻物を隠した。
(書類にバッチリ残ってるじゃねえか)
■ そして、核心的な皮肉
騒ぎ続ける愛護騎士団を見ながら、俺はつぶやいた。
「……この国の“愛国者”ってさ」
「ええ」
「国を守る覚悟があるんじゃなくて、
“国を守ってる気分になりたい”だけなんだな」
エリシアは珍しく、少しだけ感情を込めて言った。
「そうよ。
危険なことは勇者に押しつけて、
自分たちは大国Aの後ろで吠えるだけ。
“国のために戦え!”と言うけれど……
自分では戦わない」
「愛国じゃなくて……ただの臆病でしょ、それ」
「でも本人たちは“誇り高き真の国民”だと思い込んでる。
それが一番厄介なの」
書類監査眼が静かに光り、まとめを表示した。
【王国愛護騎士団の行動原理:
・事実より感情
・正義より快感
・勇気より安全
・責任より他責
・愛国より自己顕示】
(完全に病気だなこれ)
■ しかし、ここから物語が動く
愛護騎士団の喧騒の中、
城から伝令兵が駆けてくるのが見えた。
「勇者ユウト殿! 監査官エリシア殿!
急ぎ王城へお戻りください!」
俺「また王か?」
「いえ……違います!」
伝令兵は息を荒げながら続けた。
「——大陸Bの“交易使者”が、
勇者殿に“直接面会を求めている”とのこと!!」
愛護騎士団が一斉に騒ぎ出した。
「敵の使者!? 罠だ!!」
「勇者が行け! 我らは応援している!!」
「戦え勇者!!」
(応援しかしねぇ……)
エリシアが静かに笑う。
「ユウト。ついに“本物の外交”よ」
(どうせこの国はまともに対応できないんだろうけどな……)
俺は深く息を吸い込んだ。
「行くか。
敵か味方かくらい、書類監査眼で確かめてやる」
——第5話 完




