新たなる生命、誕生
まだ夜明け前の病院の廊下、白く冷たい光の中で、あやは手術着に身を包み、静かに深呼吸を繰り返していた。お腹の中で二つの命が動く感覚が、期待と不安の間で彼女の胸を大きく揺さぶる。
健太はそばに座り、手を握りながら穏やかに言った。「怖いけど、僕たちの家族のために、二人の命を守るんだ。大丈夫だよ」
あやは涙ぐみながら深く頷く。手を重ねるだけで、言葉以上に互いの覚悟と愛情が伝わる。
手術室に入ると、医師とナースが手際よく準備を進める。ナースの美咲は微笑みながら、「緊張しますね。でも大丈夫です。二つの命、しっかり見守ります」と声をかける。その声があやの緊張を少しだけ和らげた。
麻酔が効き始め、手術が始まる。腹部に冷たい感触を覚えながらも、あやは小さく息を吐き、健太の手をぎゅっと握った。医師が落ち着いた声で指示を出すたび、緊張感が手術室全体に漂う。
「最初の赤ちゃんがもうすぐです」
小さな声とともに、ポコポコと動く胎動の感覚が消えた瞬間、代わりに小さな泣き声が聞こえた。あやの胸は一気に熱くなり、涙が溢れる。
健太も涙をこらえながら、「元気だ…生まれたんだ…!」と小さくつぶやく。ナースが赤ちゃんをタオルで包み、医師が「次の赤ちゃんもすぐです」と告げる。
再び緊張が走る瞬間、二つ目の命も泣き声をあげる。手術室に響くその声が、二人にとっての希望そのものだった。
術後、病室に移されたあやは、まだ少し痛みがある中で、二つの小さな命を交互に抱き上げる。泣いたり笑ったりする表情に胸がいっぱいになり、健太もそっと手を添える。
「二つの命、僕たちの家族だね」
「うん…二つの命、ひとつの家族…」あやは涙を拭いながら、小さな手を握り返す。
ナースの美咲がそっと寄り添い、日常のケアや授乳のアドバイスを丁寧に伝える。「二人分だから大変だと思います。でも、少しずつ慣れていきます。無理せず、頼ってくださいね」
あやと健太はうなずきながらも、二つの命を前にすると、喜びと責任で胸がいっぱいになる。
夜が深まるにつれ、病室には二人の寝息だけが静かに響く。あやと健太は互いに手を握り合い、未来を想像する。初めての笑顔、初めての泣き声、抱き上げたときの温もり…。不安もあるけれど、それ以上に二つの命と共に歩む喜びが心を満たしていた。
ポコポコとお腹の感覚はもうないけれど、抱きしめる小さな手足の温もりが、二人の心に確かな希望と愛情を刻む。「二つの命、ひとつの家族」という言葉が、これからの人生で最も大切なテーマとなった夜だった。




