最後のフューレン
ソフィアがカードを手にしたその瞬間、風が止んだ。
周囲の炎がゆっくりと逆流し、崩れた瓦礫が宙に浮かぶ。
ソフィアの足元に銀色の魔法陣が展開され、そこから光の蔦が伸びて身体を包み込む。
胸の奥から、誰かの声が静かに響いた。
───「言葉を紡げ、我が名を喚ぶ者よ」
「……神よ、顕現せよ アルテミス!!」
光が弾け、羽根のような粒子が宙に舞う。
その中から、月光を纏った戦乙女が姿を現した。
銀色の髪は淡く輝き、碧眼の瞳の奥には神の紋章が浮かぶ。
「ソフィア、その姿は…」
「……………なにこれ!?」
先程まで着ていた服とはうってかわり、夜闇を照らすような光り輝く白を基調とした輝くドレスを身にまとっていた。
「(ハッ! 大昔のジャパン発祥のアニメにあった美少女戦士みたい…)」
服装は違えど、変身する女の子という一点で今から百数年前に誕生した古のアニメを思い出した。
だが――目の前のヒュドラは容赦なく咆哮を上げ、すでに攻撃を仕掛けていた。ソフィアはシンシアを急いで抱き上げ、攻撃を避ける。
「(凄い…体が凄い軽いし、力が湧き上がる。これがさっきのカードの力?)」
けれど今は考えている暇などない。
ソフィアは疑問を後回しにして、シンシアを安全な場所へと避難させた。
「ここならヒュドラの攻撃は届かないと思うから、シンシアは早くシェルターに逃げて。」
「でもソフィアが!しかも相手はあのヒュドラよ!」
「私は…多分大丈夫!」
「多分って………わかったわ。ソフィア、絶対死なないで。」
「もちろん。」
シンシアはソフィアを信じ、その場から去る。
遂にヒュドラとソフィア、一対一となった。
「(どう戦おう……相手はヒュドラだし…でも、こういう時は――だいたい何か武器が出てくるって、相場が決まってるはず!)」
ソフィアは両手を掲げ、半ばヤケクソ気味に叫ぶ。
「出でよ、なんかすごい武器ーー!!」
・・・。
何も起きなかった。
「(えっ、出ないの!? 普通ここ出るとこでは!? 変に叫んで恥ずかしすぎる…)」
顔から火が出そうなほど恥ずかしくなってしまった。
しかし恥ずかしがってる余裕などなく、ソフィアにヒュドラは攻撃してくる。
慌てて攻撃を回避するが、いつまでも回避しているだけではヒュドラは倒せない。
「…っ、どうしよう。さっきみたいに声が聞こえたら…! そうか!」
先程、ソフィアに囁いてきた声は「言葉を紡げ」と言っていた。
変身同様に、本当にあるかわからないが武器も同じように何か言葉を紡がなければ現れないのかもしれない。
【████▇▆▅▄▃▂▁▁!!!】
「っぐ!?」
そう考えるとヒュドラの首が思い切り胴体に当たり、ソフィアは上空に飛ばされる。
例え変身し、パワーがついたと言えど人の身であるためソフィアの体は悲鳴をあげる。
痛い、痛い…と痛みを堪えながらソフィアは胸の鼓動を感じ、震える唇を噛んだ。
──「言葉を紡げ」
心の奥で、あの声が再び囁く。
「(……私の言葉……? 私の願い……)」
頭に浮かぶのは、泣きじゃくるシンシアの顔。
壊れていくたくさんの思い出がつまった街。
そして、両親。友達。
「……守りたい。たとえどんな闇が来ても、希望の光を手放さない……!」
その瞬間、ソフィアの左手に光の粒子が集まり形を作っていく。
やがて、透き通るような白銀の弓となった。
「……光月の誓弓」
ふと名を口にした瞬間、弓は柔らかな音を響かせて応える。
まるでそれは、元から体の一部であったかのように馴染む。
弓をギュッと握りしめ、胸の鼓動と弓の鼓動を重ねる。
覚悟はできている。今、対峙するのは数々の都市を滅ぼしてきたXENO7-1、ヒュドラ。
一瞬の静寂の中、全てがこの瞬間のために整う。
上空で弓を構え、ヒュドラを捉える。
「神聖なる月!!!」
矢を放つと、1本だったものが何百もの矢となりヒュドラの頭を貫き、爆ぜるような閃光が夜を裂いた。
「…たお、した?」
土煙が晴れると、そこにはぐったりとしているヒュドラの姿。
体の至る所から紫色の血が流れ、弱々しくうめき声を上げている。
その瞬間、空間を切り裂く鋭い風が吹き抜けた。
「……っ!?」とソフィアが振り向くと、光を帯びた槍がヒュドラの胸を貫く。
「お前がここまでやったのか? マジですげーな」
「だ、誰!」
瓦礫の上に立つ人物。その目は好戦的で、しかしどこか余裕を感じさせる。
「手柄を横取りしたみたいで悪ィな。見た感じアンタ、もう力がなくてトドメ刺せなそうに見えたからよ」
「あなた、は………うっ」
「おい!!」
その瞬間、ソフィアは力を使い果たし変身が解けたことで倒れそうになる。だが、フェイリムが彼女をしっかりと抱きとめた。
そしてソフィアは力尽き、目を閉じた。
「───こちら、フェイリム・カヴァナー。致命傷を負っていたXENO7-1 ヒュドラを撃破。そして、最後のフューレンを発見しました。」
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