導かれし少女
──────「ソフィア、目を覚ましなさい」
「…だれ?」
──────「ソフィア、お願い」
「どこにいるの…?」
──────「早くしなければ、■■が」
「ねぇ、だれなの?」
──────「私たちの大切な■■■■。どうか___」
たすけて。
「……っは!!!」
草の上でぱっと目を開け、起き上がった。起きて目に広がった世界は光が柔らかく降り注ぎ、丘の緑が眩しかった。
「……また、あの夢。」
彼女は寝転んだまま空を見上げ、風に揺れる草の感触を確かめる。小鳥のさえずり、遠くで水が流れる音。今日も平和で穏やかな日々だ。
ここ、ギリシャの片田舎にある草原の丘で昼寝をしていた彼女、ソフィア・アグライアは幼い頃から同じ夢を時折見ていた。
「たすけて、って言われても……でも、ただの夢じゃない気がする。」
胸の奥で、確かに何かが呼んでいる——そんな感覚が、今日の静けさの中で、彼女をじっと見つめていた。
夢の中で、知らない誰かがいつも助けを求めてくる。
ソフィアは普段から人助けが好きで、いろんな人の力になりたいと日々思っているくらいには優しい。
だが、夢の中で「助けて」と言われても、その原因や相手が誰なのか分からない以上、助けようがない。
そもそも、夢の話を本気にしていいのか——そんな思いが、彼女の心に小さく残った。
「でも、いつかたすけてあげたいな。」
本当にただの夢なのかもしれない。
それでも、あの声はずっとソフィアに助けを求めている。
いつか力になりたい ——そう思えた矢先だった。
空の色が突然濁り、地面が小さく震える。丘の向こうの町から、破壊の音と人々の悲鳴が響く。
「なっ、なに?!」
ソフィアは立ち上がり、音のする方へ視線を向けた。すると、町の中心に遠くからでも分かるほど大きな異形の存在。
多くの首を持つ巨大な蛇のような姿で、地面を踏みしめるたびに建物が揺れ、人々は逃げ惑い、町は混乱に包まれていた。
「も、もしかして……XENO7……?」
XENO7──それは、現在国連により国際指名手配されている危険組織『GENESIS』が開発した人工生命体たち。
その人口生命体は神話や伝説に存在していたとされる怪物たちであり、その総称。
目的は未だに判明していない謎に包まれた組織だが、国連から民間人に共有されている情報の一つである。
『GENESIS』はそんな怪物たちを実験として世界中に放ち、多くの都市が被害に遭っていた。
そんな中、町に現れたのは『XENO7-Ⅰ ヒュドラ』だった。
「み、みんなを…みんなを、助けに行かないと。」
あの町にはソフィアの大切な人達がたくさんいるのだ。
震える足を奮い立たせ、ソフィアは草原の丘から町の方へ駆け出した。
地面を踏みしめるたびに伝わる振動。ヒュドラの首がゆらりと揺れ、建物が軋む音が耳を突いた。
「だ、大丈夫、私なら……!」
息を上げ町に着くと、そこは言葉に表せないほど酷い残状だった。
瓦礫の山に押し潰された家々、燃え上がる建物の煙、倒れた街灯や散乱する日用品。悲鳴があちこちから響き、逃げ惑う人々が泥だらけの道を走る。
ヒュドラの首がゆらりと揺れるたび、地面が振動し、倒壊した建物の一部が崩れ落ちた。空気は硫黄のような匂いに包まれ、炎の熱が肌を刺す。
声を上げ、親しい人たちを探す。
だが、瓦礫と混乱のせいで、誰がどこにいるのか分からない。そんな中恐怖に叫ぶ友達の声が聞こえた。
その声を頼りに駆け出すと、ヒュドラの首に追い詰められた友人の姿が見えた。
「だ、誰か……!」と恐怖に震えるその背中に、ソフィアは迷わず飛び出した。
「シンシア!!」
「そ、ソフィア…! た、たすけ…っ。」
恐怖で腰が抜けている友人 シンシアはその場から動けずソフィアに助けを求める。
その姿を見たソフィアは素早くシンシアに駆け寄り、守るように立ち塞がる。
ヒュドラが牙を剥き、首を振り下ろして攻撃を仕掛けてきた。
しかし、不思議なことにソフィアは恐怖を感じなかった。
胸の奥で、あの夢の声が小さく囁く。
─────「この時を、待ちわびていました」
胸の奥で疼く感覚が、一瞬にして光となって指先へ集まる。
ソフィアは思わず手をかざすと、周囲の世界がスローモーションのように止まった。
砂塵が空中に舞い、瓦礫も宙に静止する。ヒュドラの首も、攻撃の瞬間で止まった。
その中で、手のひらに一枚のカードがふわりと浮かび上がる。
月の女神アルテミスの姿が描かれたカード——その神秘的な光が、ソフィアの意志と重なり合う。
「……アルテミス様、お願い……力を貸して!」
はじめまして。こちらの作品を最後まで読んで頂いてありがとうございます。
不定期更新です。




