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婚約破棄された冷酷令嬢、幸せですが何か?  作者: 福嶋莉佳(福島リカ)


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3/3

最終章


「殿下、公爵家を敵に回して無事で済むと思っているのか?」

「慰謝料がとんでもない額らしいぞ。払えるはずがない」

「真実の愛だと? 公爵家を切り捨ててまで?」


婚約破棄から一週間。噂は宮廷と社交界を駆け巡り、どこもかしこもその話でもちきりだった。

冷笑と嘲りが交錯し、かつて讃美に彩られていた第一王子の名は、今や軽蔑と失望を伴って囁かれる。


だが当人たちは耳を貸さない。


「君こそが次の王妃だ」

王太子は白百合のような令嬢の手を取り、恍惚と見つめた。


「まぁ…私が? 殿下、私…うれしいです」


令嬢は頬を染める。周囲は冷ややかだった。

貴婦人は溜息をつき、若い騎士は顔を背け、老侯爵は鼻で笑う。

祝福の言葉はひとつもない。



数日後、王宮で重苦しい会議が開かれた。

宰相、財務官僚、諸侯が列席する中、書簡が読み上げられる。


「公爵家より、正式に慰謝料請求が参りました」


ざわ、と広間が揺れた。


「そのくらい、払えるだろう?」

と王太子。だが宰相は首を振る。


「無理です。額が桁外れすぎます」


「なんだと?」


「明細が添えられております。王妃教育に費やした師範の費用、舞踏・楽器・政務教育。

家が投じた支度金、失われた縁談の補填…」


淡々と積み上がる数字に、広間は静まり返った。

王太子の顔色はみるみる青ざめる。


「ば、馬鹿な…! こんなもの、払えるはずがないだろう!」


動揺を隠せない様子に、諸侯の視線は冷酷だった。


玉座の上で、国王が重々しく口を開く。

「昔より王宮を支えてきたのは公爵家だ。その忠義を蔑ろにはできぬ」

声音は鋼のように硬い。


「第一王子、お前は甘やかされすぎた。責任を取れ」


「父上!? 私は次期国王です! 彼女と共に…!」


「黙れ。お前は辺境に下り、あの令嬢と共に生きよ。それがせめてもの償いだ」


王太子は蒼白になり、令嬢へ縋る。


「一緒に来てくれるね?」


「…はい、殿下。私、殿下とご一緒なら…」


涙を浮かべた微笑みはどこか引きつっていたが、王太子は気づかなかった。



──こうして第一王子は辺境へ追いやられた。


愛があれば乗り越えられると信じていたが、現実は甘くない。

厳しい寒風、舗装されぬ道、枯れかけた畑、兵糧不足に怯える民。

王都のドレスは泥にまみれ、舞踏会も菓子もない。


「殿下…どうして、馬車がこんなに揺れるのですか…?」


令嬢は震える声で訴える。


「仕方ないだろう! ここではこれが普通なのだ!」


苛立ちを滲ませる王太子の顔から、かつての自信も光も消えていた。


やがて辿り着いた粗末な屋敷では、

「殿下、薪が足りませぬ」

「井戸水が凍りつきました」


召使いすら乏しい。王都では当然だった贅沢は、ここには何ひとつない。


「…私、こんな生活、聞いていません…」


令嬢はついに泣き崩れた。


「私だって嫌だ! だが父上の命だ、仕方がない!」


「…私、もう嫌です。殿下とならどこまでもと思っていましたけれど…こんなのは耐えられません」


泥に汚れた裾を握りしめ、嗚咽する。


「待て! 私を置いてどこへ行く!」


「王都に…帰ります。殿下のおそばにいると、私まで潰れてしまうから…」


その言葉を残し、令嬢は召使いを連れて屋敷を飛び出した。


荒れ果てた大地に、王太子ひとり取り残された――。


彼女は王都へ戻ったが、社交界の視線は冷たく、暫く居づらい日々が続いた。



一方、王都の宮廷。

玉座の前で宣言が響く。


「第二王子を第一継承権者とし、公爵令嬢との婚約をここに定める」


広間は大きく揺れ、やがて歓喜に満ちた。


「第二王子なら安心だな」

「殿下と公爵令嬢ならば安泰だ」


私はその声を胸に受け止め、彼の隣で顔を上げる。


「やっと…報われました」


「共に歩もう。国のために、そして君と私のために」


彼の温かな掌を握り返した瞬間、胸の奥に積もっていた氷がすべて溶けていった。


──こうして、王都と辺境。

光と影の明暗を分け、新しい時代の幕が上がった。

ここまで読んでくださり、ありがとうございます。

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― 新着の感想 ―
浮気相手令嬢の方は慰謝料請求されなかったんですね。 縁談ぶち壊し代を請求されてたら家なくなってもう「令嬢」じゃなくなってそうですし。 まあ未来の王妃に睨まれた~とかとかショボい言いがかりつけてた女性に…
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