ハットン邸の冒険-名誉回復-
ミレイはゆっくりと立ち上がり、「これをあげるわ」といい、空中からぽぅという音がした途端、青くきらめく宝石をはめ込んだネックレスが4人の手元に落ちてきた。
エマは「くれるの?ありがとう!きれいなサファイア!」と喜びさっそく首元につけた。
男子勢も「ありがとう」と、礼を述べた。
ミレイは「お父さんとお母さんには内緒よ。ありがとう……」と言い残し、輪郭が徐々にぼやけていき、そしてミレイの姿は消えた。
その瞬間、先ほどまで決してあかなかったドアがカチャリ、音を立てて開いた。
そうしてハットン邸を出たペテルたちだったが、すぐに青ざめる事態となった。
ハットン邸をグランドバレー城の近衛兵がぐるりと取り囲んでいた。
グランドバレー王国の兵士の中の選りすぐりのエリートたち。
その中央にペテルの母でありグランドバレー王国女王のフレイヤが腕を組んで立っていた。
白色のマントを翻し、怒気を隠そうともしない母の姿にペテルは戦慄した。
「こんな時間にこんなところで、あなたたちは何をしているのかしら?」
エゼは小声で「これはまずいって……」とペテルの背中に隠れた。
エマも「わ、私はついてきただけですから」といい、彼女もペテルの背中に隠れる。
ジェラは「わわわ」というだけで思考停止状態。
「どういうことか、説明してちょうだい。」
「ごめんなさい、母上。みんなを危険なことに巻き込んだ。でも、あの女の子をどうしても助けたかったんだ。」
「城に帰ったらたっぷり説教しますからね」
そうしてフレイヤはペテルを抱きしめた。
-2週間後-
快晴のもと、ポートシティの人々はハットン邸前に集まっていた。
人々の視線の先には女王フレイヤの姿があった。
フレイヤは金と白であしらわれた礼装に身を包んでいた。
フレイヤの背後には、石碑が建てられその石碑にはこのように書かれていた。
『此処に眠るは、ハットン氏一家。
其志、邪なる魔界の暗黒に屈せず、
偽りの神託に惑はされず、
正義の声を以て世に訴へたり。
嗚呼、その忠誠と勇気、真に顕彰に値す。
故に碑を建て、以て万世に顕彰の証と為す。』
フレイヤは町の人々に説いた。
「ハットン一家は迫りくるカウカの脅威に負けず、真実を伝えました。
しかし、彼らの真実の声は届かなかった。
両親は不正な異端審問によりギロチン刑となり、娘は監禁状態となりろくに食事も与えられず幼くしてこの世を去りました。
ですが少女の霊は死してなお、真実を私たちに伝えてくれました。
私はこの国の女王として、この異端審問を無効とし、さらにハットン一家に一代限りの男爵家の地位を授け、永遠にその勇気と名誉を称えます。」
町の人々は拍手をした。
ペテル、エマ、ジェラとエゼはその場にいたが、拍手の中にどこかですすり泣く声が聞こえた気がした。
この日、ハットン一家の名誉は完全に回復された。