ハットン邸の冒険-少女の家族-
--時は十数年前、フレイヤが戦う女王としてグランドバレーの前線に立っていたころ。
グランドバレーを含む多くの国は妖怪カウカの侵略に晒され、人々は恐怖と混乱の中にあった。
中でも港町であるポートシティはその混乱に最も陥った地域の一つであった。
人々の中には、カウカを神としてあがめ命乞いをする住人まで現れた。
カウカを神としてあがめることで、カウカに抵抗することなく忠誠を表すことが生き延びる道として町のほとんどの人々が信仰に近い形で服従をしていった。
しかし、
--それに異を唱える者がいた。
ミレイの両親である。
ミレイの両親は侵略者である妖怪を神としてあがめるなど間違っていると、町の人々に理性と知識を持って説き続けた。
しかし、町の人々にはその声は届かなかった。
むしろ、あの一家がいる限り、自分たちがカウカの手下に襲われるかもしれない。
ついにミレイの両親は『正当な手続きを経ていない』異端審問にかかり、ギロチンの刑となりこの世を去ってしまう。
ミレイは「神に謀反をくわだてた呪われた者の娘」として自宅に幽閉され、満足な食事を与えられることもなく、永遠の眠りについてしまう。
-妖怪カウカがペテルの両親である女王フレイヤと王配アイスに封印されたのはその一年後であった。-
ペテル、ジェラ、エゼ、エマ、そして幽霊であるミレイは気づいたら地下の部屋にいた。
その部屋の中央の机には、少し酸化が進んでいる日記帳が置いてあった。
それはミレイの母が記した日記帳であり、当時の迫害の様子とミレイを守り切れない母としての無念が記されていた。
日記帳の最後は、このように書かれていた。
「ミレイは呪われた子ではない。心優しい子。どうか、ミレイが救われ、しあわせとなりますように。」
ミレイはぽつりとつぶやいた。
それは自分だけが生き残り、町の人たちの誤解を解くことができなかったことに罪悪感を感じていると。
エマは泣きながら、何も言わず輪郭が定かではないミレイの体をそっと抱きしめた。
ジェラはミレイをまっすぐみて
「僕は、君のことが怖くなくなったよ。優しい幽霊だってわかったから。」といった。
エゼは右こぶしをぎゅっと握って、
「俺たちが必ず町の人たちの誤解を解いてやるよ」といった。
ペテルは
「母上に話してみるよ。ミレイのお父さんとお母さんは正しいことをしたんだって。過ちを犯した街の人たちだって10年以上たって後悔していると思う。きっと名誉回復できるはずだ。」とミレイに宣言した。
ミレイは子どもたちの顔を一人ずつ見上げ、涙は消え、微笑んだ。