いざ、ステム山山荘へ!
ミヒャエルはフレイヤからの手紙を読み終えると、喫茶店を出た。
(さて、妻と娘のピンチか。いったん放浪の旅は中断かねぇ……それに……。)
つけられている。
しかも、その相手は先ほどのグランドバレーの間者ではない。
明らかな殺意と、僅かながらの妖気を感じた。
(しょうもない下級妖怪ってところか。俺も見くびられたもんだよ。)
ミヒャエルはわざと人目のつかない裏路地に入った。
すると、全身をフード付きのローブで覆った小柄な人物が姿を現した。
「君は、その、あれか?俺の奥さんの偽物の仲間か?」
その人物はフードを脱いだ。
巨大な目がひとつだけ顔にあり、巨大な牙が口から生えていた。
「分かってんじゃねーか。ま、死んでくれや」
ミヒャエルはため息をついた。
「直球すぎるだろ、君。」
「人間風情が……」
すると妖怪は口を開き呪文を詠唱した。
「ファウド!」
迫りくる火炎。
しかし、ミヒャエルは闘牛士のように体をひねり火炎を避けた。
ファウドの炎玉は民家の土壁にぶつかり、焦げ跡を残して消えた。
「君ねぇ、木製の家だったら大火事になってるよ?」
その言葉とともに、パリ、パリ、と青白い静電気がミヒャエルの左手で弾け、だんだんと形作られていく。
「君には、カラス1羽くらいで十分だろう」
そうしてその静電気はカラスの形となり、バチッと電気の音を放ちながら羽を広げ宙に浮いた。
『カァァァァ!』
静電気のカラスは1つ目の妖怪に向けて威嚇の唸り声を上げる。
「うるせえわ!ファウド!」
続けざまに1つ目の妖怪は炎玉を繰り出してきた。
その炎玉に突っ込んでいく雷のカラス。
カラスは炎玉に当たった瞬間、炎を霧散させ、妖怪に体当たりをした。
「ギャァァァ!」
名もなき妖怪は黒焦げになり地面に倒れた。
カラスはミヒャエルの肩に乗っかり、「クエエエ……」と頭を差し出した。
「はい。ありがとさん。」
ミヒャエルがカラスの頭を撫でると、雷のカラスはすっと姿を消した。
ミヒャエルは黒焦げになった妖怪の死骸を見てぼやいた。
「カラスでも強すぎたか。最近の妖怪は軟弱だねぇ。」
そしてミヒャエルは踵を返して大路地に入り、とある建物を目指した。
グランドバレー大使館である。
大使館を見上げたミヒャエルは門番の警備兵に声をかけた。
「君、俺はライム王国王配のミヒャエルなんだけど、大使に会わせてくれないかな?大使は事情を知っているみたいだよ。」
一方その頃、ペテル、フィオナ、ジェラ、エマ、エゼ、サトの六人は王立学院大学マルティン教授の研究室にいた。
「おや、殿下。シルベリーについてですかな?」
マルティンは白いヒゲをなでながらペテルに話しかけた。
「教授。僕たちは今すぐライム王国に行く必要があるんです。瞬間移動魔法陣を貸してください!」
一瞬だが、マルティンはヒゲを撫でるのを止めたが、すぐに再開した。
「移動魔法陣?なんですかな?それは?」
するとエゼが前に出た。
「とぼけんなよ!俺たち知って……」
だがすぐにジェラが両手でエゼの口を塞ぎ、エマがエゼの頭を叩いた。
フィオナは一歩前に出て一冊の日記をマルティンに差し出した。
「これは、ペテルのお父様の日記です。ここに私の家の山荘とつながる移動魔法陣が昔あったんですよね。今もあるでしょうか。」
マルティンは日記を受け取り数ページほど読んだ。
「これは……本物のアイス様の日記?ふむ。それであるならば、そうじゃの。本当のことを言おう。移動魔法陣は残っておる。ワシの専門は古代生物学。移動魔法陣のことは専門外じゃ。消す方法が分からんし、魔法学部の教授たちに相談することもできんかった。極秘の魔法陣だったからの。そして、カウカの厄災は終わった。事前の打ち合わせではアイス様が厄災が終われば消す予定だったのじゃ。ペテル殿下、アイス様は禁呪の魔封呪文へお命を差し出してカウカを封じられたのじゃ。ほとんどの人たちはカウカを『討伐した』と思っているがの。」
ペテルは再度マルティンに問う。
「お願いです!教授!その魔法陣を使わせてください!今すぐです!」
「ふむ……10年放置されていた魔法陣なんじゃが、まずは事情を教えていただけませんかの。」
フィオナはジュリアからの手紙をマルティンに差し出した。
「あの!これを……読んでください……。」
マルティンは手紙を読んだ。
「フィオナ姫、事情はわかりました。魔法陣を使いましょう。ただし、ワシもついていきますぞ。流石に子どもだけで政変が起きつつある国へ行かすわけにもいきませんわい。」
マルティンは本棚に積まれていた本をどかし始めた。
「この本棚の奥に移動魔法陣を置いている部屋への入り口がありましての……。本をどかすのを手伝ってくれんかの?」
本棚を動かすと、そこにはひとつの扉があった。
扉をくぐると、部屋に照明はないのに青い光で満ちていた。
正確には、床に描かれた青い魔方陣がきらめき、部屋を照らしている。
教授は魔法陣の真ん中に立ち、ペテルたちを呼んだ。
「さぁ、行きますぞ。向こうの魔法陣はライムの王族が使うステム山山荘の、当時はミヒャエル様が使われていた部屋じゃ。今は誰が使っているかはワシは知らんがの。」
ペテルたちはマルティンを囲みながら魔法陣の上にたった。
「では行きましょうかの。」
そうしてマルティンは魔法陣をタン、タン、タンと3回踏みつけた。
すると、部屋は一気に暗くなり、そして次の瞬間、薄暗く狭かった部屋から豪華なベッドが置かれている大きな部屋にたどり着いた。
辺りを見渡したフィオナは声を上げた。
「ここは、山荘のお父様の部屋だわ!」




