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少年の声

「母上!すぐにライムへ行くべきだよ!」

ここは女王フレイヤの私室。


ペテルと涙で目が真っ赤に腫れたフィオナはソファーに座るフレイヤにジュリアからの手紙を渡し直訴をした。


フィオナは時間が経つにつれ子どもながらにことの重大さを認識して先ほどまで大泣きをしていたのだ。


フレイヤの隣には大叔父のジロン首相が座っており、フレイヤはため息をつきながらジロンに手紙を渡した。

ジロンは手紙を読み終え一言つぶやいた。

「ふむ。この手紙にあることが真実であれば我が国としてもただ事ではあるまい。」

そこでペテルがジロンに話を続ける。

「大叔父上!すぐにライムに軍隊を送ってカタリーナ様とジュリ姉を救い出して!」

するとフレイヤが口を挟んだ。

「そんなことを軽々しく王太子が言うものではありません。」

ピシャリ、とフレイヤはペテルを静止した。

ジロンもペテルを嗜めた。

「ペテル。お前は将来の王だ。軍隊を送ると言うことは戦争を仕掛けると言うことだ。

フィオナの母国がどうなるか、想像してみなさい。」

大人二人の言葉は、ペテルの期待を大いに裏切るものであった。

「な、なんで!?母上も大叔父上も、どうして分かってくれないの?」

するとフレイヤは珍しくペテルに対して声を大にしてペテルに告げた。

「理由はジロン叔父上が先ほどペテルに教えた通りよ。あなたはもう一人で部屋に戻りなさい!」


「……」

ペテルは何も言わず部屋を後にした。そのペテルにフィオナもついて行こうとしたが、フレイヤは「フィオナ姫、少し待って」と引き留めた。

「フィオナ姫、先ほど私がペテルに言った通り、軍隊は出せません。ジュリア姫の手紙は貴女達姉妹の私的な手紙でしかないの。

でもいい?今ライムに帰ろうとか、先走らないで。

普通に小学校に通って普通に小学生らしく過ごすのよ。

今はそれが一番安全だから。」

フィオナは「はい。フレイヤ様。」と力なく返事をして部屋を出た。


子どもがいなくなった部屋で、ジロンはフレイヤに向けて静かに口を開いた。

「ジュリア姫の手紙を見てしまった以上、我々が何もしないという手は打てぬ。まずは密偵をライム王国に送ろう。それと同時にライム大使にフレイヤとカタリーナ女王の会談を申し込んでも良いな。カタリーナ女王が本物であれば特に問題なく受け入れるはずだし、偽物であれば何らかの理由をつけて断るはずだ。それと同時偽物であった場合のグランドバレー王国としての牽制にもなる。」

フレイヤはその案に女王として同意した。

「お願いします。叔父上。もしカタリーナ女王が偽物であれば、正当性がない王家が支配する隣国との国交断絶も視野に入れなければなりません。

そしてフィオナ姫とジュリア姫の保護も考えなければ。頭が痛いことになりました。」

そしてジロンは一つの杞憂を口にした。

「そしてジュリア姫の手紙で最も気になる一文『妖怪が化けていると思う』だが、もし本当に妖怪であり、実力がカウカ級であれば軍隊派遣もやむを得ん。」


一方、ペテルの私室。

ペテルは座り込んで両拳を床に叩きつける。

彼自身、不甲斐ない自分のことが許せなかった。

「何で母上と大叔父上は分かってくれないんだ!」

その様子をフィオナは後ろから見つめていた。

フィオナ自身、母と姉の身の安全がどうなっているのか気が気ではない。先ほどまで二人のことを思い大泣きをしていたのだ。

そしてまた、苦悩する許嫁である同じ9歳の姿を見て、また涙が出てきた。

「ペテル……何を言えばいいかわからないけど、床を殴らないで……手が壊れちゃうよ。」


その日のうちにジロンはグランドバレー王国総理大臣としてライム王国大使にカタリーナ女王との会談を正式に要請した。

場所はグランドバレー王城である。

まだ本国での事情を把握していないライム大使は何の違和感もなく、この要請を本国に報告をした。


その報告を受け取った偽女王であり緑鬼族のニナと、こちらはただの人間であるドーキョーはわずかに狼狽した。

ニナはドーキョーに向かって言い放つ。

「この依頼、どうすれば良いの?受けるの?」

しかしドーキョーは悩んだ。

「君が女王に化けていることがすでにグランドバレー側に露見したと考えるのが自然だろうな。現に我々はジュリア姫を取り逃がし、グランドバレーとの国境沿いに潜伏してしまっている。すでにジュリア姫は国境警備兵を手中に収めているし、更に言えば国境に近すぎて軍を派兵すればグランドバレーにとっては寧ろ、軍を展開できる口実になってしまう。

ライムとグランドバレーは友好国とはいっても軍事力には差がありすぎるからな。

グランドバレーに行ったら最後、君の変身の魔法は解かれてしまい、カウカと戦ったフレイヤにやられてしまうだろう。体調不良とでもいって断るしかあるまい。」

「そう。ところで地下の土牢に閉じ込めてる本物の女王をどうするつもり?」

「民衆の前で女王の名を騙った売国奴なり、適当な罪をなすりつけて処刑するべきだな。実行日は、二週間後、建国の祭日に合わせるのがよいだろう。」

「くくく。私はたとえ人間界とは言えど自分が一国を支配する。

貴方はその共犯者で、国の政治を思いのままにする。

妖怪である私が人間と手を組むなんてね。」

「ふん。それをいうなら私は妖怪と手を組む大罪人だ。お互い様だよ」


三日後、ジロンの元に密偵から報告が届いた。

「女王は偽物である可能性が大。証拠として、いきなり無名のドーキョーなる人物を重用し、周りの臣下は粛清されたものが大半。

ただし偽女王が妖怪かどうかについては証拠不足。

本物のカタリーナ女王は土牢に閉じ込められている可能性は高く、健康状態も危惧される。」

ジロンはつぶやいた。

「この情報だけでは、軍は出せん」

だが、一つの作戦が彼の中ではあった。

非常にリスクの高い賭けが。

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