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ジュリアの密書

6月上旬のある月曜日の朝、グランドバレー王城近くにあるライム王国領事館のとある一室


「ピピピ……、ピピ!」

フィオナのペットでありコウモリ型魔獣であるミニョリオンが、けたたましく鳴っている。

しかしそんなことはお構いなくフィオナはベッドでぐっすりと眠り続ける。

業を煮やしたミニョリオンは時には頭をフィオナの頬にこすりつけ、時には羽で顔をパタパタと叩く。

ミニョリオン流朝食の催促だ。

流石にフィオナも目を覚ます。


寝惚けた頭でミニョリオンに抗議する。

「も、もう……もう少し寝させてよ!」

するとすかさずミニョリオンも抗議をし返す。

「ピー!」


こうしてフィオナの朝のルーティンが始まった。

侍女を呼んでミニョリオンのエサを用意させる。

ミニョリオンの主食は野菜だ。

トマトとキャベツ、パプリカと言った色とりどりの野菜が盛られた皿がフィオナの部屋に運ばれてきた。


貪りつくミニョリオンを尻目にフィオナは櫛で髪を整える。


ミニョリオンはいつも6時にフィオナを起こすので、結果彼女にとっては目覚まし時計みたいなものだった。


ペテルとはいつも一緒に登校しており、彼は毎日8時に領事館まで迎えに来る。

この日もいつも通り、ペテルは8時にフィオナを迎えに来た。

「おはよう、ペテル!」

フィオナに声をかけられ少し顔を赤くするペテル。

「う。うん。おはよう。小学校に行こうか」

そうして2人は背後にグランドバレー側とライム側のSPが1人ずつ背後から警護する状態でいつも通り登校した。


この日の4年A組ではなんてことはない1日であった。

普通に授業を受け、普通ににエゼが騒ぎ、普通にサビーナ先生に怒られるのをみんなが見守るという構図だ。


そうして学校はあっという間に下校の時間となった。

帰り道であるラスク大通りを歩いていると、一人のボロボロの布をまとった若い男性が二人めがけて走っていた。

思わずグランドバレー側のSPがその男を制止する。

「フィオナ、僕の背後に隠れて!」

思わずペテルはフィオナを庇うように、フィオナを自身の背後に隠す。

フィオナはぎゅっとペテルの制服を掴んだ。


グランドバレー側のSPにより取り押さえられた若い男だが、その男は「フィオナ様……!ジュリア様からのお手紙です……!」とフィオナに向け声を掛ける。

ライム側のSPが黙ってその手紙を男から受け取ると、封筒にはライム王家公式の蜜蝋が施されていた。

その封筒をフィオナが見ると、思わずフィオナはつぶやいた。

「これは、間違いなくお姉様の字だわ」


その場でフィオナは封筒から1枚の便箋を取り出した。


その便箋にはこのように書かれている。

『フィオナ


時間がないから手短に状況を伝えます。

母上が城の地下牢に閉じ込められてる。

相手は顔も声も仕草も何もかも母上そっくりに化け、重臣たちを騙し自分が女王であるかのように振る舞っている。

私は数名の近衛兵とともに城を脱出して山荘に逃げ込んだの。

相手はおそらく妖怪が魔法で化けていると思う。

父上は今世界の何処かを放浪中でその場所を知っているのは母上だけなのはフィオナも知ってるよね。

つまり父上を当てにすることはできない。

グランドバレーへの協力をフレイヤ女王陛下に至急直訴して!

そして、あなたは絶対にライムへは来ないで。

フィオナのことが心配でたまらないけど、今はグランドバレーにいるほうが安全よ。


ジュリアより』


フィオナは声を震わせながら便箋を折り、涙がこぼれそうになるのを必死に堪えつつペテルに差し出した。

「ペテル……これを……」


ペテルは真剣な表情で文字を追い、最後まで読み切ると迷わず顔を上げた。

「これは、ジュリ姉が危ない。すぐに母上に言おう!」


ペテルはSPにその若い男を解放するよう指示をした。

戸惑いつつもSPは男を解放する。

「フィオナ様。私です!ヴァンダレイです!」

その男はフードを外しフィオナに訴えた。

その男はカタリーナ女王の忠臣ヴァンダレイであった。

「ヴァンダレイ!母上とお姉さまは無事なの?」

「女王陛下は地下牢に閉じ込められていることしか今はわかりません。ですが、ジュリア様は近衛兵と事情を正しく把握してくれた国境守備兵に守られ安全です」

ペテルはフィオナとヴァンダレイに告げた。

「ここでは他の人の目もあるし、早く城に行こう」

気づくとゾロゾロと一行は野次馬たちに囲まれていた。

「なんだなんだ?おや、あれは王子様じゃないか!」

「隣にいるのはライムのお姫様だな!」

ただでさえ、王子と隣国の姫が、ボロ布を纏った男相手に騒いでいるのだ。

否が応でも目立つ。

ペテルを先頭にフィオナとヴァンダレイ達は王城へ急いだ。


ー一方その頃、ライム王国の王城ー

「人間なんてすぐに騙されるわね」

そこにはドレスを着た1人の女性がいた。

ただし、肌は緑で二本の角が生えている。

その女は妖怪•緑鬼族のニナであった。


その傍には、1人の男が琥珀色のウィスキーを飲みながらソファーに深々と座っていた。

「ふふん。我々人間は10年前の『カウカの厄災』以来、魔界からの武力侵攻には警戒をしているが、内部の警戒は疎かになっている。特にこのライムという小国はな。だから、直接王室を乗っ取れば話は早い。

君が女王、私がしばらくの間、摂政という形を取る。

そしてさっさとライム王配との離婚を宣言すれば、この国は我々のものだ」

「人間なのに人間の国を裏切るのね。悪い男ね、ドーキョー。」

ドーキョーは苦笑いをした。

「王朝の転覆など、過去の歴史を見ればいくらでもあるさ。今回もその一例に過ぎない」

この妖怪と人間が静かにライム王国を乗っ取ろうとしている。

ニナの妖力自体はカウカとは比べ物にならないくらい非力だ。

だから彼女は武力ではなく『化ける』ことでライム王国を乗っ取ろうとしている。


同時刻、地下牢では本物の女王であるカタリーナが幽閉されていた。

カタリーナは粗末な服を着せられ、埃だらけのベッドに腰をかけていた。

「私としたことが、迂闊であった。まさか、臣下に裏切り者がいたとは。ジュリアは無事に逃げられただろうか。フィオナは……そのままグランドバレーに留まってくれるだろうか。しかし、あの妖怪が『女王』として動けば、く、時間の問題よ!」


カタリーナは土壁を殴りつけた。


ライム王国はまさに、建国以来の危機を迎えた。

後書き

※余談ですが、今回登場した「ドーキョー」という名前は、日本の古代史に登場する僧侶・道鏡をモチーフにしています。

ご存知ない方はWikipediaを参照してください!

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