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母として、女王としての思い

女王フレイヤが黄狂竜を単独撃破したその夜、とある王城の一室。

そこには豪華な椅子とテーブルが有り、そこにはフレイヤとフレイヤの叔父であり総理大臣であるジロンが座っていた。

二人の目の前には夕食が並べられていたが、二人はろくに手を付けることはなく、料理は冷めてしまっていた。

この時、ペテルは黄狂竜戦でエクラル連発により魔力の枯渇により体力がなくなり自室で睡眠を取っていた。

「叔父上、私は今回のドラゴン襲撃で2つの事実を改めて思い知らされました。

1つは高等魔法官の人材不足、もう1つは未だに民が『私とアイスが妖怪カウカを倒した』と勘違いをしているということです」

ジロンはワイングラスを右手でつかみつつ、ため息を付いた。

「魔法官の育成は急いでいるが、一朝一夕にできるものではない。カウカ戦であまりに多くの人材を失った。

そして民の勘違いは困ったものだ。

事あるごとに『倒した』のではなく『封印した』と女王の言葉として国民向けの談話を内閣としても説明しているのだがな……。すでにカウカを女王と王配の夫婦が命をかけて倒したという歌までできてしまっている有様だ。

しかも今回の戦いでは、わずか9歳のペテルと許嫁のフィオナ姫、そして学友が前線に立って黄狂竜と戦ってしまった。

この事実はいずれペテルが王位についたとき、神格化してしまうだろう。

そうなれば、ますます王室への国民の期待が過度になってしまう。」

「叔父上、この国は絶対王政から立憲君主制への移行中です。これは貴族たちの反発を抑え叔父上と私の2人で進めていること。

国の主権を王から民に引き渡すのに王室に過度な逸話が生まれてしまってはグランドバレーの成長はありえません。」

「まぁまて。フレイヤ。急速な変革は民の混乱を招くだけだ。巨石は1日では動かぬ。」

フレイヤは焦燥感を隠せなかった。

このまま国の制度を改革できずに絶対王政のまま自分からペテルへ王位を譲位したらどうなるだろう?

民は政治に責任を持たないままかつて国を滅ぼしかけた妖怪カウカを『倒した』女王の息子を持ち上げ、ペテルは傲慢な王にならないだろうか。

その時、民はペテルを見放さないだろうか。

見放すだけならまだしも、暴力的な革命が起きたら?グランドバレーは滅びてしまうのではないか?

他国の歴史から信頼を失った王家は反乱や革命により容易く滅亡することをフレイヤは理解している。

母としてフレイヤはペテルの未来と国家の未来を同時に憂いているのだ。

ジロンはワインを飲み干しつつ、フレイヤを諭した。

「ワシは必ずフレイヤの希望通り、王室を残しつつ民に政治の責任を握らせる。時間をくれぬか。」

ゆらゆらと蝋燭の火が灯る中、フレイヤは応えた。

「お願いします。叔父上……」


―翌朝―

小学校は臨時休校となり、ペテルは登校することなく私室で過ごしていた。

枯渇していた魔力は回復し、本人としてはもう元気になったつもりであるのだが、フレイヤからは横になっておくように言われたのだ。

(なんか暇だなぁ。シルベリーの世話も今日はしたらだめ、と母上から言われたし。

漫画でも読もうかな。)

本棚を眺めていると、扉がトントンとノックされ、「入るわよ」の言葉とともにフレイヤが入ってきた。その背後には近衛兵のシーザーがいた。


「ペテル、もう体調は大丈夫?」

「うん。もう大丈夫だよ。だから昼からジェラの家に遊びに行ってもいい!?」

フレイヤはため息をついた。

「友人とはいえ、王子が気楽に伯爵家の家に遊びに行くものではありません。向こうだって王子が来るともなればそれなりに準備をしなければならなくなるでしょう?」

「えぇ~!暇だよ!」

「今日は我慢しなさい。それより、シーザーに謝りなさい。ドラゴンが来た時、シーザーがあなたに地下室に逃げるよう指示をしたのにフィオナ姫と一緒にシーザーを押しのけてシルベリーのもとに走ったこと。

ペテル。もしフィオナ姫に何かあったらあなたは許嫁として責任をどう取るつもりだったの?」

すると、ペテルは反論することなく素直にシーザーに謝罪した。

「……シーザー、ごめんなさい。」

シーザーは思わず感極まった。

「殿下……!恐れ多いお言葉!これからも私は殿下にお仕えいたします!」

するとすぐにペテルはケロッとして雑談をシーザーに振った。

「ところでシーザー、僕のクラスのサビーナ先生との新婚旅行はいつどこへ行くの?」

「え、ええ……。まぁ、小学校が夏休みになったら避暑を兼ねてアウロラ王国か、むしろバカンスを求めて南国ムアグのどちらかを二人で考えてます。」

「お土産は買ってきてもらえる!?」

フレイヤはペテルの切り替えの速さに『本当に反省しているのか?』かなり疑わしいと思ったが、これ以上は追求しないことにした。

(ペテルにとってシーザーはまるで年の離れたお兄さんみたいな存在ね)

そう思いつつ、ペテルの私室をあとにしたのであった。

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