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爆裂呪文の継承

王都に貼られた防御魔法陣の上から黄狂竜はペテル、フィオナ、マルティン教授そして捕食対象の幼竜シルベリーを覗き込んでいる。

震える手でわずか9歳の少年王子・ペテルはマジックウェポン『夢見の杖』を握りしめ、黄狂竜に向け吠える。

「この……、城から出ていけ!中級爆裂呪文(エクラル)!」

夢見の杖の先からまばゆい光球が現れ、その光球は一直線に防御魔法陣を通過し黄狂竜に直撃した。

ドォォォォン!

黄狂竜に爆炎が襲う。そして次に黄狂竜は煙に覆われた。

「ギェェェェウウ!」という黄狂竜の叫びが辺りをこだまする。

風に吹かれて黄狂竜を覆っていた煙は消えて、再び黄狂竜は姿を防御魔法陣上空に現すが、ペテルが唱えたエクラルにより受けたと思われる傷は遠く地上からは確認ができなかった。

フィオナは思わず叫ぶ。

「そ……そんな!ペテルのエクラルが全然効いてない?」

ペテルは思わず「チッ!」と思わず舌打ちをした。

(母上直伝の呪文なのに!)

事実、ペテルの爆裂呪文は母・フレイヤ女王直伝の呪文でありペテルにとっても得意呪文であった。

しかも先ほどのエクラルはマジックウェポン夢見の杖により威力が増加されている。

そのエクラルをもってしても傷一つつけられない。

マルティン教授は叫んだ。

「王子!相手は古龍種最強の『テラメナイト・メア・ドラゴン(黄狂竜)』!その特徴はどんな武器や呪文も通さない強固な鱗じゃ!中途半端な攻撃では倒せませんぞ!」

「だからって教授!こっちだって攻撃しないと!」

その次の瞬間、城のバルコニーや屋根から兵士や魔法官たちが現れた。

「王子殿下が戦っておられる!次は我らの出番ぞ!」

屋根から叫んだのは王城防衛の総責任者であるジョーンズ防衛統括長だ。

次の瞬間、黄狂竜は口から巨大な光球を出現させ、城に向け放った。

眩い光と衝撃が城を襲うが、しかし防御魔法陣により外側からの攻撃、つまり黄狂竜からの攻撃は通さない。

しかし明らかなことは黄狂竜の攻撃力は先ほどのペテルのエクラルを上回っているということだ。

「怯むな!総攻撃開始!」

ジョーンズが叫ぶとともに、兵士たちは弓矢、クロスボウ、バリスタによる対空攻撃を開始した。

それとともに、(王都全域の防御魔法陣を展開している高等魔法官を除く)中等魔法官たちが各々の炎系攻撃呪文、氷系攻撃呪文にて攻撃を行なう。そしてペテルもそれに続きエクラルを追加攻撃する。

いずれの物理攻撃や呪文も黄狂竜の強固な鱗の前には傷をつけることが叶わないがそれでも

『痛い』

のか、ドラゴンはさらに翼を羽ばたかせ、物理攻撃が届かない上空に飛んだ。

そして黄狂竜も光球ブレスを防御魔法陣に向け打ち込む。

相変わらずの爆発力ではあるが、それでも防御魔法陣を貫通することはない。

しかしペテルは焦る。

(高等魔法官が展開する魔法陣に少しでも隙が生まれたら、城にあのブレスが落ちる!絶対ただじゃ済まない!)

何度目のエクラルだろう、夢見の杖を握り直し呪文を放とうとした瞬間、ペテルは立ち眩みがした。

「ペテル!」

フィオナは思わず倒れかけたペテルの肩を支える。

「ペテル、魔力がなくなりかけてる!」

そういうと、フィオナは魔力回復呪文(トラマジ)を詠唱した。

完全にはペテルの魔力は回復できないがそれでも、少しは魔力が回復した。


一方その頃、城の地下室には文官や来客などの非戦闘員が避難していた。

そこにはエマとジェラがいた。

エマはジェラに周りの大人達に聞こえないよう小さな声で話した。

「ねぇ、ジェラ。ペテルとフィオナがまだこの地下室に来ない。まさか、戦っているの?私たちだけ、このまま避難してていいの?」

エマはジェラの手を握った。

ジェラは片思いをしているクラスメートの少女の目を見つめる。

「きっと、殿下たちはシルベリーを守るために戦っている。けれども僕が行ったところで何の力になれるだろう……」

「ちがう!私たち二人でならできる!魔法攻撃力増加魔法があるでしょ?」

魔法攻撃力増加魔法は対象者が放つ攻撃魔法の威力を向上させるバッファー呪文だ。

しかしまだエマもジェラも9歳の子供のために魔法技術が未熟で2人がかりでないと発動しない上に、この魔法は3%程度しか向上しない。

そのため、城の魔法官からすれば不要な呪文と認識されていた。

―しかし二人の考えは違った―

「うん。行こう。エマ。きっとシルベリーがいる牛舎で殿下たちは戦っているはず。」

2人は周りの大人の目を盗み、地下室から外に出た。


人間と黄狂竜の戦いは消耗戦になっていた。

人間側の攻撃は黄狂竜の鱗を通さず、黄狂竜の攻撃は防御魔法陣を通さない。


そんな中、牛舎でペテルはエクラルを黄狂竜に向け、フィオナはトラマジをペテルに向け連発していた2人は思わず尻もちをついていた。

「もうあと一発か二発が限度かな……」と、ペテルはつぶやく。

黄狂竜に狙われているシルベリーは不安そうに尻尾をたれ下げ、ペテルに頭を擦り付けた。

「でも……シルベリーのために、負けるわけには行かない!」

再び立ち上がるペテル。

「そうよ。まだ私だってやれるんだから!」その隣でフィオナも立ち上がり、ペテルにトラマジをかけた。

次の瞬間、「殿下、姫!」という少年の声がした。

振り返るとそこには、走ってくるジェラとエマの姿がある。

フィオナは叫んだ。

「エマ!ジェラ!まさか地下室からここまで来たの?」

エマは反論した。

「フィオナとペテルが戦っているのに私たちだけ逃げてるなんてできない!」

空からは「ギャャャーオウ!」と、黄狂竜の叫びが聞こえる。

エマとジェラは目を合わせて、手を繋ぎ魔法攻撃力増加魔法を詠唱した。

エマとジェラはひたすらに願った。

自分たちの補助魔法が少しでも効果が増すように。

すると、ペテルの体はわずかに白い光に6〜7回包まれた。

魔法攻撃力補助魔法は一度の光にしか包まれない筈なのに、なぜか複数回包まれたのである。

「ありがとう。ジェラ、エマ。たぶん次が最後の一発。特大のエクラルを食らわせてやる!」

ペテルはそう言うと、エクラルを唱えた。

その光球は今までのエクラルとは段違いの大きさと輝きを放っている。

ペテルは思わずつぶやく。

「これは、3%なんてもんじゃない!行くぞ!黄狂竜!これが僕たちの全力だ!中級爆裂呪文(エクラル)!」

「行けぇぇー!」

フィオナ、ジェラ、エマは思わず叫ぶ!

その光球はまっすぐ黄狂竜にむかい、黄狂竜の頬に直撃した。

「ギィヤャャャヤー!」黄狂竜の叫びがこだまする。

見ると、黄狂竜の右頬の鱗が飛び散り、赤く染まった肌が露出していた。

確かにペテルのエクラルは黄狂竜に通用した。

しかし、ペテルは地面に仰向けに倒れ動けなくなった。

ついに彼の魔力が尽きたのだ。

ぜえ、ぜぇとペテルの息は荒く、まぶたを開いて黄狂竜の様子を見ることしかできない。

フィオナもトラマジを詠唱するほどの魔力は残っていない。


城の屋根やバルコニーから攻撃する中等魔法官たちの魔力も枯渇し始めている。


(もうだめか)そのように思われた時、黄狂竜の背中が大爆発を起こした。

まばゆい閃光と衝撃波が空中を占領する。

思わず黄狂竜は羽ばたくことができず、ドン!と防御魔法陣にぶつかる。

黄狂竜は背中の鱗が飛び散り、深いダメージを負った。


上空にはドレス姿の一人の女性が浮いている。

地面に寝転んだまま、ペテルは呟いた

「あれは、母上にしかできない高等爆裂呪文(エクラルテ)だ。。」

フィオナは初めて見るフレイヤの戦う姿に思わず見入る。

「あれがフレイヤ様のエクラルテ?ライム王国でも観たことがない。」


しかもフレイヤは城から離れた国会から着の身着のまま参戦したため、マジックウェポンを持っていない。

それなのにたった一発のエクラルテで黄狂竜に大ダメージを負わせた。

フレイヤは右手の照準を黄狂竜にあわせる。

「ドラゴンよ、お前の空はこのグランドバレーの王都には無いと思いなさい!」

光球がフレイヤの手に現れる。

その光球の大きさと輝きはペテルのエクラルの比ではない。

黄狂竜は野生動物の本能で危険を察し、慌てて元来た方角へ飛び去っていく。

フレイヤは光球を消し、黄狂竜が逃げていく様を見つめた。

「もう二度と来るんじゃないわよ」とつぶやいて。


その瞬間、兵士や魔法官たちから雄叫びが自然に発生した。


「さすが女王陛下だ!」

「陛下は10年前にカウカにすら勝ったんだ!ドラゴン一匹なんて陛下にとったら朝飯前さ!!」


市民たちも街の地下壕から出てきて、拍手喝采を空中に浮遊するフレイヤに向けて送る。


フィオナ、エマ、ジェラはペテルの肩を担ぎ上げた。

「やったわよ!私たち勝ったわ!」と、フィオナはペテルに声をかける。


「ありがとう。フィオナ、ジェラ、エマ。

でも、母上がいなかったらどうなってたかな……。僕、大人になったら、あそこまで強くなれるのかな?」

ペテルは上空に浮かぶ母・フレイヤ女王を見上げる。


こうして王都は女王フレイヤにより『カウカの厄災』以来の危機を乗り越えたのであった。

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