愛しい幼古竜と子どもたちの責任
グランドバレー王城・紅玉の間
そこに設置されている玉座にすわるフレイヤ女王は頭を抱えつつ、玉座の前に片膝をつくマルティン教授に質問をした。
「つまり、その新種のドラゴンをこの城で飼え、と申されるのですか?教授」
すると少しだけ教授は首を横に振った。
「新種のドラゴンではありません。新発見の古竜なのです……!」
フレイヤは頭を抱えたまま、(あぁ、この学者とは会話の歯車が噛み合わないわ)と思った。
フレイヤの隣にはペテルが立っている。
ペテルはマルティンの隣に移動し、片膝をついた。
「母上。城でのドラゴン飼育を認めて。だって、まだ生まれたばかりの赤ちゃんだよ。僕を親と思って、毎晩クルル、クルルと鳴くんだよ?かわいそうだよ。」
「はぁ。ペテル。犬や猫じゃあるまいし。相手はドラゴンよ。そのうち食べられても知らないわよ?」
そこにマルティンが割って入る。
「その点はご心配なさらず。草食性ドラゴンということが分かっております。馬に与える干し草、野菜などを与えれば十分です。」
ペテルはフレイヤの前に出て手をつかみながら懇願した。
「母上……おねがい!一生のお願い!ね?ね?母上、良いよね?」
「ペテル。あなたの一生のお願いは、この前、漫画『ジュエルズ』の最新刊を買ってあげたときにも聞いたわよ。」
「じゃあ、今回こそ最後!お願い!」
フレイヤはマルティンに質問をした。
「マルティン教授、ちなみにそのドラゴンですが、成体になったらどの程度の大きさに?」
「生まれたての幼体で85cmですからな。4-5mほどの中型ドラゴンでしょうな。もちろん飼育には准教授や学生たちも参加させてもらいますわい。
王立学院大学として、古代生物学の論文が何本でも書けそうですな!」
フレイヤはめまいがした。
「飼育と大学関係者の入城許可は出しますが、5メートルとは。。」
そう言い席をあとにした。
ペテルは「ありがとう!母上!」とフレイヤに向けてを振ったのであった。
グランドバレー王城は広大な敷地を有しており、現在では使われていない建屋も多数存在する。
ペテルは、自身の私室がある塔からほど近い場所にある元牛舎をベビードラゴンの飼育場所に決めた。
ペテルは城にフィオナ、サト、ジェラ、エマ、エゼを招き入れ、6人でベビードラゴンを迎えるべく掃除し始めた。
ジェラはペテルに話しかけた。
「ところで殿下、ドラゴンの名前はもう決めたのですか?教授によるとまだメスかオスかも分からない、とのことでしたが……。」
「うーん。実はまだ考えてないんだ。」
そこにサトが割り込む。
「あの大きなかわいい瞳は、絶対女の子よ!名前はそうね……ティファなんてどう?」
そこにさらにエゼが割り込む。
「ティファって、人間みたいな名前すぎないか?ギガマンってどうだ?」
その案にはサトが反発した。
「ギガマンって、それエゼが好きな少年漫画の主人公じゃない!」
「ティファだって、恋愛漫画の主人公だろ!」
「ぐぬぬ…」
「ぬぐぐ…」
いがみ合うクラスの問題児とクラスの女番長。
そこに学級委員のエマがペテルに提案した。
「ケンカしないの。ところで私も考えたんだけど、シルベリーってどう?シルバードラゴンとブルーベリーのような青い瞳を持つあの子にぴったりじゃない?」
この案にフィオナも同意した。
「いいじゃない!あの子にぴったりだし、女の子っぽくなく、男の子っぽくなくもない絶妙なセンスだわ!」
その案にペテルは賛同した。
「いいね!今日からあの子はシルベリーだ!」
1時間もしないうちに、シルベリーを乗せた馬車と付き添いのマルティンや数人の学生たちが城にやってきた。
子どもたちは場所が到着するなりすぐにかんぬきを開けた。
「シルベリー!」ペテルは他の5人に先んじて真っ先にシルベリーに飛びついた。
マルティンは「おやおや、すでに王子は名前をつけられたようですな」と白いひげを撫でながら微笑む。
子どもたちに囲まれたシルベリーは全員に「クルル……クルル……」と泣きながら順に頭を擦り付けていく。
一人の男子大学生が口を開いた。
「僕たちには一切懐かないんですよ。うらやましいです。」
シルベリーを牛舎に入れ、ペテルは切り分けたリンゴを口元に差し出した。
すると、シルベリーは尻尾を揺らしながらリンゴを平らげる。
フィオナはそんなシルベリーを見ながら「リンゴが好きなのね」と知るベリーを撫でながら感想を漏らした。
すると、女子大学生がアドバイスをした。
「他種の草食性ドラゴンの主食は干し草や雑草などです。果物はたまのおやつで十分ですよ。果物を与えすぎるとお金がいくらあっても足りませんからね」
そこに、フレイヤがやってきた。
マルティンが「女王陛下」とつぶやくと、学生たちは一斉に片膝を着き腰を低くした。
「良いのです。楽にして。」
そしてシルベリーに目をやる。
「ドラゴンを最後に見たのは、山岳地帯を視察した5年ぶりくらいかしら。ペテル、この子の名前は決めたの?」
「シルベリーだよ。母上。エマが名付けたんだ。」
「あら、エマちゃん。いい名前ね。センスあるね」
「それほどでも〜!」
エマは小4の少女らしく恥ずかしがった。
すると、シルベリーは急に牛舎を出て前足で穴を掘り出し、前屈みになり動かなくなった。
ペテルはシルベリーを指を刺した。
「うんちだ」
「生き物に責任を持つということは、当然うんちやおしっこにも責任を持つということよ。あとで、家畜の飼育係にうんちの管理方法について指示をしておくわ」
シルベリーは猫のように前脚で排泄物に砂をかけ「クルル」と言いながら翼を羽ばたかしつつ、ペテルに近寄ってきた。
「これからは家族だからな。シルベリー!」
ペテルがシルベリーの顔に顔をうずめると、他の子どもたちも一斉にシルベリーに抱きついた。
―時を同じくしてラストン湿地帯―
とある二本足の黄色い肌を持つドラゴンは巨大な洞窟の前に降り立った。
だが、その黄色のドラゴンはいつもと違う違和感に本能で気づいた。
『人間の臭いがする』
洞窟の奥に進むと、非常食用に備蓄していた別種のドラゴンの卵がなくなっている。
しかも、ここで孵化したわけではなさそうだ。
なぜなら、殻もなければ生まれたドラゴンの魔力のかけらも残っては居ない。
『人間に盗まれた!卵はどこだ!?俺のメシはどこだ!?』
黄色の体をしたドラゴンは洞窟を出て空に向け怒りに任せて炎のブレスを放射する。あまりの迫力に周りの鳥や哺乳類といった野生動物たちは一斉にドラゴンから距離を取るべく逃げていく。
炎を吐き終えた黄色のドラゴンは静かに空の彼方へと消えていった。




