古竜の孵化と親と間違われた王子
「ペテル、ジェラ!卵を見に行こうぜ!」
エゼは、王子ペテルとジェラに教室で話しかけた。
その隣ではサトがエマとフィオナへ同様に卵見学に誘っている。
ペテルはため息をつき「エゼ、また厄介事に僕を巻き込むつもりじゃないよね?」と、エゼを見る。
だか、エゼはさらにまくしたてる。
「なぁ、ペテル。そのデカい卵からヤバい生き物が生まれてきたら王子様としては心配だよなぁ。行くしかないよな!?」
「何でも王子の身分を持ち出さないでほしいんだけどな」
サトの話を聞いていたペテルの許嫁で隣国ライム王国の第2王女フィオナと、学級委員長のエマが近づいてきた。
フィオナがペテルの顔を覗き込みながら大学へ行こうと誘う。
「ペテル!一緒に行こうよ!もし私に何かあったら、私を守るのは『未来の夫』の義務よ!」
エマもフィオナに続く。
「サトがどうしても卵を見たいそうよ。私たちも大学に行くことにしたわ。ジェラも行かない?」
ペテルは嘆息し、「分かったよ。大学に行ってみよう。なんか緊張するな」と渋々同意した。
その一方でジェラは顔を赤くして「エマが誘うなら、僕、行くよ」と小さく返事をした。
かくして放課後、ペテル、フィオナ、エゼ、サト、エマ、ジェラの6人は王立学院小学校から徒歩圏内にある王立学院大学へ出発した。
大学校内では当然、小学生はいない。
ペテルたちは廊下にて校内掲示板に貼られているポスターを物珍しげに見た。
『テニスサークル新入生歓迎!』
『街の清掃ボランティア募集!就活のアピールに!』
『第53回分子魔法学検定合格者一覧』
そして、周りの大学生たちはジロジロとペテルたちに視線を向ける。
「あの子たち、なんでこんなところにいるのかしら?」
「あの金髪の男の子、もしかしてペテル王子じゃない?ということは、隣にいる女の子はフィオナ姫!?」
そんな声がペテルたちにも聞こえてくる。
フィオナはペテルの耳元で「私達、バレてるわね」と囁く。
ペテルはフィオナに「こんなに堂々と廊下にいればね」と答えつつ、ペテルは自分たちの話をヒソヒソと話している女子大学生に話しかけた。
「すみません。マルティン教授の部屋はどこでしょう?」
「東キャンパスの3階よ。ところで……王子様なの?隣の子はフィオナ姫?」
「はい。そうです。」
「きゃー!かわいい!みんな見てみて!」
ぞろぞろと周りの女子大学生たちがペテルとフィオナを取り囲んだ。
なんだか悪くない気がしたペテルであったが、フィオナはそのペテルの気持ちを敏感に感じ取った。
そのうえでフィオナはペテルの手を強引につかみ、「行くわよ!」とペテルを引きずるように東キャンパスへ向けて歩いた。
「もう!お姉さんたちに囲まれてニヤニヤしないでよ!」
フィオナはペテルに説教をしつつ東キャンパスへ向かう。
「そ、そんなことないよ」
なぜか弁明に回るペテル。
そんな二人を見てエゼとサトはクスクスと笑って聞こえないよう小声で会話をした。
「なぁ、サト。あの二人、既に夫婦だな。」
「みんな知ってる許嫁だもんね。なんか未来が見えるよね」
ジェラは隣に歩くエマを見て(僕もエマとあんなふうに話したいなぁ……)と思った。
エマはジェラが自分を見ていることに気がついて「どうしたの?」と声をかけたが、「な、なんでもないよ!」と、顔を別の方向へ向けてしまった。
その様子にサトは「ジェラはジェラで不器用ねぇ」とエゼに話しかける。
エゼも「マジそれな」と同意した。
そんなこんなで、6人はマルティン教授の研究室にたどり着いた。
ペテルが扉をノックすると、マルティン教授本人が出てきた。
「おや?子どもがなぜこんなところに?」
エゼが前に出て説明した。
「校長先生にデカい卵があると聞いてきました!」
「校長先生?あぁ、イヴァンの教え子かね?見せてあげるよ。入りたまえ」
研究室に入ると、そこには真っ白な1メートルのどの卵が置かれていた。
まるで鶏の卵をそのまま巨大にしたような形である。
あまりの珍しさに見入る子どもたち。
ジェラはマルティンに質問をした。
「教授、これはなにの卵ですか?そして、生きているのですか?」
「ふむ。君たちにも分かるように、順を追って簡潔に説明しよう。
まずこの卵が見つかったのはとある洞窟じゃ。
そこは太古の、おそらくは10万年以上前の人々がそこに暮らしておったと推察できる。
そこには腕のないドラゴンの絵が壁に描かれていたそうじゃ。
じゃが、この卵がそのドラゴンの卵かは分からん。別種のドラゴンである可能性もある。
次に生きているか?という質問だが、生きておる。しかもこの卵はまもなくどころか、すぐに孵化してもおかしくはない。ドラゴンの持つ特殊な魔力反応が卵から溢れ出ておる」
マルティンの説明が終わったその時、卵の内側からコン、コン、と音が鳴り響き、じょじょに殻が割れ始めた。
「出てくるぞ!」
エゼは思わず叫んだ。
思わず見入るマルティンと子どもたち。
マルティンは内心(ここは子供たちを避難させるべきだろうが、駄目じゃ、学者として目が離せん!)と卵に見入った。
そうすると、卵の上半分が割れ、銀色の肌を持つドラゴンの顔がのぞいた。
そして、ちょうど子どもたちの真ん中にいたペテルの顔をドラゴンはじっと見つめた。
思わずペテルは卵の下半分を割り始める。
それに続いて他の子どもたちも卵を割り始めた。
そうして完全に卵から孵ったドラゴンであったが、なおもドラゴンはペテルの顔をじっと見つめる。
そうして、「クルル……」と言い、頭をペテルの体にこすりつけた。
マルティンはあごをさすりながら子供たちに説明した。
「銀色の分厚い外皮に四足歩行のドラゴン。翼は生えておるな。うむ。歯を見る限り、草食性のドラゴンのようじゃ。全長を計測しよう……。ふむ。85cmか」
エマはマルティンに質問をした。
「これは何ていうドラゴンの赤ちゃんですか?」
「ふむ。銀色の肌を持つドラゴンは聞いたことがない。恐らくは新発見の古竜の一種じゃろうな。」
その説明の間も、まるでなついている巨大な猫のように、ドラゴンは頭や体をペテルにこすりつける。
フィオナはペテルに、「ペテルのこと、大好きみたい」と話しかける。
これにはペテルも疑問を抱いた。
「そうだね。なんでこんなに甘えてくるんだろう?」
これにもマルティンは答えた。
「これは刷り込みじゃな。殻が割れた時、このドラゴンは君の顔を見ておった。鳥の世界でよくある刷り込みじゃが、ドラゴンの現存種でも鳥同様、刷り込みの例は複数確認されておる。」
ペテルは驚いた。
「え……。ってことは、僕を親と思っているということですか?」
「王子、そのとおりじゃ。」
ペテルを除く子どもたちは一斉に
「えぇぇ〜!?」「マジ!?」
と驚いた。
しかし、ペテルだけが状況を飲み込めず、ドラゴンの頭を撫でながらただただ、立っているのみであった。




