古代生物の卵と子どもたち
―グランドバレー王国・ラストン湿地帯―
ここにファリドとギルガという名前の二人の探検家がいた。
彼らの耳には様々な野生動物たちの鳴き声が聞こえてきて、常に動物たちに見張られている気さえする。
現に2人は先ほどまで、一匹のオランウータンに遭遇し、1kmほど後をつけられたばかりだ。
彼らは冷や汗をかきながらも、なんとかオランウータンの追跡から逃れ、とある洞窟の前にたどり着いた。
2人の目的は、半年前に見つけた太古の人々が使っていたと考えられる巨大な洞窟であり、歴史的遺物があるか調査をするためにこの地を訪れていた。
彼らは洞窟の入口にたち、照明魔法具を照らしながら周りを見渡す。
洞窟内部では太古の人々が書いたであろう様々な壁画
―鹿や鳥などの動物を狩る絵や太陽を信仰していると思われる絵―
が一面に所狭しと描かれている。
彼らは照明魔法具を照らしながらさらに奥へ奥へと進む。
奥へ進むほど、冷気が彼らを包み込む。
その時、ギルガは不思議な壁画を見つけた。
ずんぐりとした大柄な胴体に細長い首、そして巨大な翼が描かれており、腕は描かれていないが太い足で地面に着地している絵だ。
「おい、ファリド。見てみろよ。これ、ドラゴンじゃないか?」
ファリドも壁画に注目する。
「本当だ。腕がないドラゴンとは聞いたことがないな。絶滅種か、希少種かな?しかもこのドラゴン、人と戦っていないか?」
壁画にはドラゴンに向けて矢を射る人々の絵が描かれている。
ギルガは冷気に身震いをしながらファリドに話しかける。
「たぶんここは原始人が住んでいた洞窟だ。
だから魔法ではなくて弓矢でドラゴンと戦っているんだろうな。
ファリド、原始人が住んでいた洞窟ならお宝はなさそうだな。あっても土器くらいだと思うぜ?」
だがファリドは奥に続く洞窟内部が気になった。
「この洞窟、こんなに巨大なのに今まで見つからなかった理由が気になるな。もう少し奥に行くぞ」
ギルガは「まじかよ……」と文句を言いつつあとに続く。
すると、洞窟の最奥部にすぐに行き着いた。
ギルガは寒さに身震いしながら「土器の一つもなかったな。帰ろうぜ」というが、ファリドは「あれを見ろ!」と小さなくぼみを指さした。
そこには高さ1mほどの巨大な卵が一つ、雑に転がっていた。
ギルガは驚いた。
「おいおい、なんだあれ?壁画のドラゴンの卵か?」
ファリドはにやりと笑う。
「分からんな。でもこんなでかい卵、高く売れるだろうな」
2人はさっそく浮揚魔法を使い卵を盗み出した。
その卵は、壁画のドラゴンが備蓄していた卵だとも知らずに……。
1週間後、グランドバレー王国王都のとあるオークション会場に、2人はいた。
もちろん、目的は卵の出品だったのだが……
「何だって?卵は没収?どういうことだ!この役人め!」
ギルガは目の前の男の胸ぐらをつかみ怒鳴っていた。
役人は胸ぐらを掴まれても大して気にもとめず淡々と説明をした。
「落ち着いて。あんた、ラストン湿地帯から持ち出したと言うが、あそこは民間人立ち入り禁止区域だよ?許可出してなかったでしょ?あとあの卵、どんな生物の卵か不明な上、検疫もしてない。そんな物を王都に持ち込むなんて、本来は逮捕されても文句は言えないぞ?」
ファリドはギルガをなだめた。
「ここは帰るぞ」
ギルガは舌打ちをしながらファリドとともにオークション会場を後にした。
翌日、卵はグランドバレー王立学院大学古代生物学教授・マルティンの研究室に安置されていた。
その研究室では2人の老人が卵を見つめながら会話をしている。
1人はマルティン教授。もう1人は王立学院小学校校長のイヴァンである。
2人は大学時代の同期の間柄であり、ともに古代生物学を勉強した青春を送ったこともあり、この卵について議論をしつつ、紅茶を飲んだ。
「マルティン、やはりこれはドラゴンの卵かね?」
「いや、ドラゴンは餌を備蓄する種も古代にはいたという論文もある。ドラゴンではなく別の種ではないか?」
「孵化すれば面白いなぁ。児童たちにも見せてやりたいわい。」
するとマルティンは驚くべき発言をイヴァンに対して行った。
「この卵、いつ孵化してもおかしくないぞ」
翌日、王立学院小学校の職員室でイヴァンは4年A組の担任教師サビーナと昨日見た卵について会話をしていた。
イヴァンは興奮気味にサビーナに卵の学術的な素晴らしさを説明するが、サビーナは大して興味もなかったので軽く受け流していた。
「そうなんですね。校長先生。すごい卵なんですね」
「そうなんだよ。サビーナ先生。これは古代生物学の常識が変わる可能性もあるのだよ」
すると、サビーナの両肩に2人の児童の手が置かれた。
「キャッ!」と驚くサビーナ。
振り向くとサビーナが受け持つ2人の子供が満天の笑みを浮かべながらサビーナを見上げていた。
1人はサト。教師の間では『4年A組のおてんば娘』と呼ばれている。
もう1人はエゼ。彼は『4年A組の問題児』と教師の間で呼ばれていた。
そんなことはつゆ知らず、サトは目を輝かせながらサビーナに言った。
「先生、私たち聞いちゃった!」
続けてエゼも発現する。
「俺たち、その卵を見に行きたいなぁ」
サビーナは思わず「あなた達、勝手に職員室に入ったら駄目でしょう!」と叱責するが、イヴァンは白く長いヒゲを触りながらエゼとサトに向けて言い放った。
「子供ながらに古代生物学に興味を持つとは関心関心。友達を連れて王立学院大学に行ってみなさい」
サビーナは額に手を当てて「校長先生……」とつぶやいたが、その時はすでにエゼとサトの姿はなかった。
2人は教室にいるペテルたちに声をかけにダッシュをしたのであった。




