生まれ持った運命
『クラブ・マリア』の騒動から侍女付き添いで王宮特別警察の馬車に乗りこんだジュリアだが、気分はひどく憂鬱であった。
侍女から城に戻ったら「すぐカタリーナ女王の私室まで来ること」と厳命されたことを聞かされたからだ。
城に到着し、侍女とともにカタリーナの部屋へ向かうジュリア。しかし、その足取りは重い。
ジュリアは何度もため息をつくが、侍女がそれに反応することはない。
カタリーナの私室前に着き、ドアをノックする侍女。
「入りなさい」と一言だけ返ってきた。
「失礼します」と侍女が扉を開けると、そこには直立不動で怒気を明らかに抑え込んでいるカタリーナがいた。
カタリーナは侍女に「ご苦労。もう下がって良い」と声をかけ、侍女は部屋をあとにした。
―その瞬間―
「ジュリア!自分が何をしたのか分かっているの!?」
カタリーナは大声を出しジュリアを叱責した。
カタリーナはジュリアの反論の隙を与えず、叱責は続く。
「次代の王位継承者の身分でありながら!しかも中学生という年齢で!歓楽街に行く!?ふざけているの!?」
「しかも『クラブ』よ?到底王族が足を踏み入れて良い場所じゃないわ!」
「友人を救いたいなら、あなた専属警官のキャシーに頼めば良かった!」
「さらに雷撃砲で暴れまわる?」
「どこをどのように考えてもあり得ない!本当にあり得ない!!」
「ジュリアは自分が何者か、理解できているの?答えなさい!」
ここまで言い切ると、40代のカタリーナはゼエゼエと肩で息をしながら椅子に座った。
ジュリアも負けじと大声で言い返す。
「ソラはすぐにでも助け出さないと何をされるかわからない状況だった!実際、殴られてお酒を飲まされていた!」
「キャシーに頼んだら、規則だの手続きだので、すぐに駆けつけられないじゃない!」
「相手は侯爵家の長男よ!普通ならソラは『泣き寝入り』にされていた!そんなの絶対許さない!」
「私は何者か?私はソラの友人!ただそれだけよ。私が一度だって女王様になりたい、なんて言ったことある?そんなこと、一度だってないわ!」
「気に入らないなら、私を勘当して、妹のフィオナに王位継承権を譲ってよ!今すぐにでも!私は構わないわ!」
カタリーナはジュリアに言い返す。
「私の子どもは、あなたとフィオナしかいない!」
「そしてあなたは第一王女!生まれたときからあなたは女王になる運命なの!」
「これは誰にも覆すことはできない!たとえ女王本人である私であっても!」
そしてカタリーナは一息つき、冷静にジュリアへ言い放った。
「私の次の王はあなたよ。受け入れなさい。これがあなたの道よ。」
「あなたには数多の民たちを導く『責任』がある。」
ジュリアは首を俯けながら、声を荒げずに言う。
「民たちを導く責任があるなら、やはり私はあのときソラを救わなければならなかった」
「身分の高い貴族の一部が、私と同じ未成年の女の子を『弄んでいる』実態がこの国にはある。
身を持ってよく分かったわ」
カタリーナはその言葉を聞いて、何も言い返せなかった。
事実、身分制度が強いライム王国では通常、貴族が市民相手に犯罪を起こしても泣き寝入りするケースがほとんどである。
今回は王女であるジュリアが絡んだからソラは救われた。
その事実に偽りはない。
そしてその腐敗した実態については、カタリーナも自覚していた。
カタリーナはそっとジュリアを抱きしめた。
「私は女王としてこの国を変えようと努力している。
でも、私の力不足でこのような腐敗した状態が続いてしまっているのも認識している。時間をちょうだい」
ジュリアは涙を流しながら、カタリーナの胸に顔をうずめた。
「ごめんなさい、母上」
その一言にカタリーナもわずかに涙を浮かべた。
「私はライム王国女王である前に、あなたとフィオナの母なのよ。」
まだまだジュリアの『反抗期』は終わらない。
だがこの夜は、親子にとっては重要な時間であった。




