駆ける姫君
−放課後−
ジュリアはベリンダとソラの二人を馬車で数十分ほどのパンケーキ屋へ誘った。
最近、若い貴婦人に人気が出ており、ジュリアはかねてから行きたいと思っていた。
−ちなみに、下校中の買い食いはもちろん校則違反である−
ベリンダはすぐに「行く!」と言ったが、ソラは申し訳ない顔をして断ってきた。
「ホント、ごめん!実は、さっき彼氏に魔法報で呼び出されちゃったの!」
魔法報とは、魔法具で意思疎通を行う魔法商品の一つで、一般的にコミュニケーション手段として成り立っている。
ベリンダは「ざんねーん。みんなと行きたかったなぁ!」と声を上げた。
その隣でジュリアは渋い顔をした。
「まだあの大学生と付き合ってるの?
別れろって言ったでしょ?
中学生に手を出す大学生なんて漫画の世界でも現実でもやばいヤツに決まってるって。」
「ジュリちゃんの言いたいことは何となく分かるの。でも、どうしようもなく好きなの」
しんみりする空気にベリンダは「ま、また今度行こ!」と場を持たせ、各々帰ることにした。
ジュリアは城に帰り、母のカタリーナ女王と妹のフィオナとの3人で食卓を囲む。
フィオナは来週留学するグランドバレー王立学院小学校で、許嫁のペテルと同じクラスになることが『外交的に』決まっている。
フィオナは早くもペテルが話していた学級委員のエマという女の子に、会う前から勝手にライバル心を燃やしていた。
「エマという子、きっと私のペテルのことが好きなんだわ!『せいさい』の力を見せてやるんだから!『どろぼうねこ』には負けないわ!」
カタリーナとジュリアはもはや、フィオナへかける言葉が見つからなかった。
そうして食事を済ましたあと、ジュリアは自室へ戻った。靴下を脱ぎ捨て、ベッドにダイブして魔法報を何気なく見た。
「恋……ねぇ。フィオナは、暴走気味だけどまだ安心してみてられる。だけどソラは…」
次の瞬間、魔法報が紫色の光を照らしながらけたたましくなった。
発信元としてソラの顔が浮かび下がった。
「ジュリア、助けて。彼が、酔って……それでクラブで暴れて止まらないの……私もぶたれて……でも、彼を受け止めてあげられない私が悪くて……」
魔法報からソラの泣き声と、ガシャン!というガラスが割れる音が聞こえ漏れた。
ジュリアは魔法報に向かって叫んだ!
「バカ!なんでそんなヤツとクラブになんかいるの!?今すぐ迎えに行くわ!どこにいるか具体的に教えて!!」
ジュリアは脱ぎ捨てた靴下を履き直して、急いで私室を出る。
たまたまジュリアの部屋の外の廊下を歩いていた王宮特別警察官のキャシーが驚いて声を掛ける。
「ジュリア様、どちらへ!?」
ジュリアは無視をして階段を駆け下り、厩舎に向い、愛馬であるステルスインパクトにまたがった。
城内を馬が駆け抜ける。
城門では、城内から駆け抜けてくるジュリアに向け、護衛兵が手を降って制止しようとする姿を確認するやいなや、ジュリアはステルスインパクトに向けて叫んだ。
「ステルスインパクト!お願い、飛び越えて!」
一瞬、ステルスインパクトはジュリアの顔を見た。
そして、そのままステルスインパクトは美しい栗毛色のたてがみをなびかせ、護衛兵たちを飛び越えた。
ジュリアはステルスインパクトの首をさすり、「ありがとう」と声をかけた。
ステルスインパクトは特に反応を示さなかった。
その代わり主人であるジュリアを乗せたまま、ただただ早く、街を駆け抜ける。
まるでそれが『俺の仕事だ』と言わんばかりに。
そうして、中学生の姫君には到底似つかわしくない、健全とはほど遠い大人の歓楽街に到着した。




